第7章「エクスザマリバーで、ざまぁw」⑴

「では、勝利した元勇者ヨシタケは先に湖へ。現勇者ザマスロットは、ここで待機していなさい。一歩でも森へ入れば、ルール違反とみなします」

「よっしゃ! いよいよエクスザマリバーとのご対面だぜー!」


 ヨシタケ達はザマヴィアンに連れられ、聖剣が眠る湖がある森へと入っていった。「弟子の晴れ姿を見たいから」と、ザマァーリンもちゃっかりついて来ている。

 ザマスロット達も無理矢理ついて来るかもしれないとヨシタケは危惧していたが、大人しく森の入口に留まっていた。どうやら身体的なダメージはザマァーリンに回復してもらい、癒えたものの、まだ精神的なダメージが残っているらしい。

「あれは幻覚だ、あれは幻覚だ、あれは幻覚だ……」

「俺が負けるなんてあり得ねぇ! 次は勝つ!」

「燃やさなきゃ……早く燃やさなきゃ……」

 ザマスロットは木陰で三角座りになってブツブツと呟き、パロザマスは一心不乱に槍を振り回し、メルザマァルは落ち着きがなさそうにウロウロと歩き回っている。


(……俺が聖剣を抜いたら、あいつらどうなっちまうんだろうな?)


 ヨシタケはこれ以上に狂気的な状況になるかもしれないと想像し、少し気の毒になった。




 森には見たことのないモンスターや植物、妖精が住み着いていた。ザマヴィアンがいるおかげか、いずれも警戒心はなく、攻撃してくる様子はなかった。


「あっ、あれが聖剣エクスザマリバーではないですか?!」


 やがてザマヴィアンの髪の色に似たエメラルドグリーンの湖が見えてきた。さほど大きい湖ではなく、対岸の木が肉眼ではっきりと見える。

 そして、例の聖剣は湖の前に置かれた岩に真っ直ぐ刺さっていた。磨き抜かれた刃と、金でできた柄が太陽の光を反射し、キラリと輝いている。剣とは思えぬ威圧感に、ヨシタケ達は近づくことをためらい、遠巻きに眺めることしかできなかった。


「これが、聖剣エクスザマリバーか……!」

「神々しい剣だな……」

「刃が半分まで岩に刺さってますけど、本当に抜けるんでしょうか?」

「大丈夫、大丈夫。ヨシタケ君ならいけるって」

「自信ねぇなぁ。抜けなかったら、岩ごと持って帰ってもいいか?」

「ダメです。剣を抜いた者でないと、貸し出しは許可できません」

「じゃあ、抜くしかねぇか……」


 ヨシタケは恐る恐る近づき、両手で柄を握った。柄はひんやりと冷たく、重厚だった。


「い、行くぞー!」

「いつでも来い!」

「うっかりフラついて、湖に落ちないで下さいねー!」


 仲間から声援を受けつつ、足で踏ん張り、力を込める。

 その時、


「退けぇぇぇ!」

「うぉあっ?!」


 ヨシタケの頭上にザマスロットが転移し、落下した。ヨシタケは柄から手を離し、「ぐぇっ」とザマスロットの下敷きにされる。

 入れ替わりに、ザマスロットが両手で柄を握り、力いっぱい引っ張った。


「貴様のような凡人に、勇者の座を奪われてなるものかァッ! 魔王を倒すのも、王になるのも、エリザマスと国を手に入れるのも、この俺だッ!」

「やめろーッ!」

「メルザマァル先輩の魔法で、転移してきましたね?! 諦めの悪い人だなぁ!」

「順番を守らないなんて、最低ですよ!」

「手を離せ!」


 ヨシタケのピンチに、仲間達が駆けつける。ザマスロットをエクスザマリバーから引き離そうとつかみかかったり、柄を上から押さえ、抜かないようにした。

 皆がザマスロットを止めようとする中、ザマァーリンとザマヴィアンだけは離れて成り行きを見守っていた。


「離すのは貴様らの方だ! 勇者に仇なすなど、大罪だぞ! 失せろ!」


 ザマスロットはなかなか引き下がらない仲間達にイラついた末に、遂には力づくでザマビリーの襟首をつかみ、力づくで森へ放り投げた。


「うぉあっ?!」

「ザマビリーッ!」


 ザマビリーは空中で放物線を描き、数メートル離れた林へ姿へ消した。

 続け様にノストラ、メルザマァル、ダザドラをそれぞれ別の方角へ投げ、排除した。特にダザドラは体が小さいため、ボールのようによく飛んだ。


「うわぁぁっ!」

「キャァァァッ!」

「我だけ、すごい飛んでないかぁぁ?!」

「ノストラ! メルザマァルさん! ダザドラぁぁぁ!」


 ヨシタケは何もできないまま、四人が飛んでいく姿を見届けるしかなかった。


「……これで邪魔者はいなくなったな」


 仲間を全員消し、ザマスロットはニヤリと笑み、ヨシタケを見下ろす。勇者とは思えないほどの邪悪な笑顔に、ヨシタケはゾッとした。


(ダメだ……コイツに抜かせちゃダメだ!)


 ザマァーリンとザマヴィアンに視線を送り、助けを求める。

 しかし二人はヨシタケの視線に気づきながらも、その場から動こうとはしなかった。ザマァーリンに至っては、何かを企んでいる様子でニヤニヤと笑っている。だが、不思議とその笑みからはザマスロットのような邪悪さは感じなかった。


(ザマァーリン……わざと動かないのか? 一体、何を企んでいるんだ?)


「さぁ! 今こそ、勇者誕生の時だ!」


 ザマスロットは高らかに宣言し、剣を引っ張った。


「ふんぬっ」


 剣は抜けない。


「んん? ふんっ!」


 剣は抜けない。


「……思ってたより硬いな、これ。ふんんっ!」


 剣は抜けない。


「うぉぉぉ抜けろぉぉぉ!」


 ぜーんぜん、抜けない。

 その後もザマスロットは仲間達が戻ってくるまで剣を抜こうと、必死に頑張った。

 しかし抜けないものは、抜けなかった。仲間達も「もう止める必要はない」と見限り、ニヤニヤと笑いながら観覧していた。


「おいおい、騎士団長さんよォ! 抜けねぇなら、うちのヨシタケちゃんと順番変わってくれねぇかなァ?!」

「ルールを破ってまで剣を抜こうとしたのに抜けないなんて、恥さらしもいいとこですよ」

「せっかくメルザマァル先輩が転移して下さったのに、残念だなぁ。メルザマァル先輩、悲しむだろうなぁ」

「鍛え直してきた方がいいんじゃないのかぁ? 勇者でなくとも、聖剣を抜けるほどになぁ」


 皆、口に出してこそいないものの、内心では〈ザマァ〉を連呼しまくっていた。

 それは、今まで踏み台扱いにされていたヨシタケも同じだった。


「HAHAHA! いい加減、退いてくれないかぁ〜?」

「うるさい! もう少しだ……もう少しで抜けるはずなんだ!」

「認めろよぉ~。そんなに引っ張っても抜けないなら、もう無理だってぇ〜」


 すると、今まで黙って成り行きを見守っていたザマヴィアンが水と化し、ヨシタケとザマスロットのもとへ移動した。


「時間切れです。貴方は勇者には選ばれませんでした。また、森への侵入および暴力というルール違反により、森への立ち入りを永久に禁じます」

「なんだと……?!」

「失せなさい、不届き者。世界の果てまで……〈ザマァ〉!」


 次の瞬間、湖から大量の水が噴出し、龍のごとくザマスロットへ襲いかかった。


「うおぉぉぉっ!」


 ザマスロットは水流に巻き込まれ、天高く昇っていく。そのまま森を越え、遥か彼方へと飛ばされていった。

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