第7章「エクスザマリバーで、ざまぁw」⑵
「ザマスロット!」
「一体、何が起こったんだ?!」
森の入口からメルザマァルとパロザマスの驚く声が聞こえてくる。彼らもザマスロットが飛ばされていく様を見たらしい。何が起こったのか分からず、動揺している。
そんな彼らに対し、間近で見ていたヨシタケ達は驚きのあまり絶句していた。ザマスロットが飛んでいった方角を呆然と見上げ、口をポカンと開けている。
ザマァーリンだけは「うはっ! めっちゃ飛んでったw」とケラケラ笑っていた。
「……すっげー飛んでいったな」
「あぁ……ああいうアクティビティ、海外にありそう」
「どこまで飛ばされたのでしょうか?」
「あの方角だと、魔王城かな」
「さすがに、そこまでは行かんのではないか? ここから歩いて、ひと月もかかるんだぞ?」
「落下の衝撃で死ぬか、魔王に殺されて死ぬか……どちらにせよ、生きてはいないだろうね」
ライバルの唐突な退場に、ヨシタケは複雑な気分になった。
ザマスロットとの出会い、出発して早々ざまぁされた屈辱、再会、そして勝利……短くも強烈な思い出が脳裏をよぎった。
(ザマスロット……何も分からない素人の俺をざまぁし、〈ザマァ〉したクズ野郎。お前のことは、一生忘れないぜ……たぶん)
ザマスロットが脱落し、いよいよヨシタケが剣を抜く番になった。
「頑張れ、ヨシタケ!」
「貴様なら、できる!」
「自信持って!」
「ダメだったら僕が抜いてあげるから、さっさとしなよ」
仲間達に励まされる中、ヨシタケは再びエクスザマリバーの柄を両手で握った。
(……ヤバい、緊張してきた。散々ザマスロットを馬鹿にしといて、抜けなかったらどうしよう? 俺もアイツみたいに吹っ飛ばされるのか?)
不安で、剣を引き抜く踏ん切りがつかない。緊張からか手は震え、汗ばんできた。
声援を送っていた仲間達もヨシタケがなかなか抜かないのを見て、心配になってきた。
「ヨシタケのやつ、どうしたんだ?」
「剣が抜けるかどうか、不安なのかもしれません」
「……やれやれ。仕方ないなぁ」
見かねたザマァーリンは懐から魔法の杖を取り出し、森に向かって魔法をかけた。
「誰か、ヨシタケ君を応援してあげてくれないかい? 〈ザマァ〉」
すると、ヨシタケと同じくらいの大きさの巨大なハエのようなモンスターが林をかき分け、飛んできた。
「ブブブブ……」
「ギャァァァ! 気持ち悪ぅぅぅ!」
ハエのモンスターはヨシタケに真っ直ぐ向かってくる。
ヨシタケは反射的にエクスザマリバーを引き抜き、ハエのモンスターに向かって振り下ろした。
「ちょっ、おまっ、デカ過ぎるだろ?! 近づくんじゃねぇ! 〈ザマァァァ〉!」
「グゲェッ!」
ヨシタケが唱えた瞬間、エクスザマリバーの刃が金色に輝き、天に届かんばかりの黄金の光の斬撃がハエのようなモンスターへ放たれた。
斬撃はハエのようなモンスターを真っ二つに切り裂き、森の木々を薙ぎ倒す。住んでいた生き物たちは危険を察し、一斉に逃げ出す。
跡には、焦げついた地面と木々の残骸だけが残っていた。
「……え?」
予想外の威力に、ヨシタケは呆然とする。
仲間達を見ると、彼らも口をあんぐりと開け、森の惨状を目の当たりにしていた。呆然と振り返り、ヨシタケと目が合う。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
しばらく互いに見つめ合い、やがて現実を理解すると、全員の顔が一気に青ざめた。
「やべぇぇぇッ!」
「聖剣の威力、強過ぎるだろ!」
「ビッグフライ(注:ハエっぽいモンスターの名前)に食らわす攻撃じゃないよ!」
「わ、私達はとんでもない兵器を目覚めさせてしまったのではありませんか?!」
「戻せ! 早く戻せ!」
「ダメだ、岩が受けつけねぇ!」
「さっきまで刺さってたのに、何で刺さってた跡が消えているんだよ?!」
エクスザマリバーが刺さっていた岩には、傷一つなかった。刺し戻そうにも、岩は頑丈で刃が入らない。
「おいおい、君達。せっかく聖剣を引き抜いたのに、もう手放すのかい?」
ザマァーリンは呆れて、肩をすくめる。
呑気な彼女に、ヨシタケは食ってかかった。
「だって危ないだろ?! うっかりモンスターを狩るのに使ったら、ダイナミック森林破壊しちまうんだぞ?!」
「すごいだろー! エクスザマリバーは、どんな〈ザマァ〉も百倍の威力に変換してしまう特殊能力を持っているのだよ!」
「百倍?! どうりで、ざまぁした内容のわりに強いわけだ! 怖っ!」
「それくらいザマンは強敵というわけさ。さらに、聖剣には闇の〈ザマァ〉の威力を軽減する能力がある。本気でヤツを倒したいなら、手放さない方がいい。聖剣を手に入れてやっと、ザマンと対等に渡り合えるんだからね」
「この威力で対等って……ザマンって、そんなに強いのか?」
ヨシタケは聖剣の威力を知ることで、ようやくザマンの力の大きさを理解した。
先代の勇者はこの威力をもってしても、ザマンを退治しきれず、「封印」という手段を取った。それがいかに異常なことなのか、思い知らされた。
がく然とするヨシタケに、ザマァーリンも神妙な顔で頷いた。
「……強いよ。最悪で、災厄な魔王さ。でも、君ならきっとザマンを倒せる。異世界から来た君ならね」
「何でそこまで言い切れるんだよ?」
「エクスザマリバーが刺さっていた岩の裏を見てごらん?」
ザマァーリンに言われ、ヨシタケは岩の裏を覗いた。
そこにはこの世界の文字で、こう彫られていた。
「"闇を祓う最強の呪文は、勇者が来たる異世界より伝わりし言葉。この世界における『力』に近く、二つを組み合わせることで真価を発揮する"」
続けて、こうも彫られていた。
「"なお、この碑文を読んだ聖剣の所有者は、魔王の闇を祓うか、己が絶命するまで、聖剣の所有権を放棄できない"……って、おい! 俺はザマンと戦うつもりはないぞ?! ザマスロットをざまぁできれば、それで良かったのに!」
「まぁまぁ、仕方ないじゃないか。読んじゃったんだから」
ザマァーリンはぽんっとヨシタケの肩に手を置き、ニヤリと笑う。どう見ても確信犯だった。
聖剣の守り手であるザマヴィアンも「そうですよ」とヨシタケのもう一方の肩に手を置き、無表情で威圧した。
「我々一族の大切な聖剣を貸し出すのです……今度こそ倒していただかなくては、一族の
「は……はい」
ヨシタケは脅しに屈し、ガクガクと頷いた。断れば何をされるか……想像もつかなかったし、したくもなかった。
ザマヴィアンはヨシタケの承諾を(無理やり)得ると、仲間達の方を振り向き「貴方達もいいですね?」と確認……もとい、脅した。
「勇者ヨシタケと共闘し、魔王ザマンを倒すのです。まさか中途半端な覚悟で、この勇者について来たわけではないでしょう? 協力できないと言うなら、先程の男のように吹っ飛ばしますが……?」
ザマヴィアンの心と共鳴しているのか、風もないのに湖が波打つ。今にも水流となって飛び出し、襲いかかってきそうだった。
正直、仲間達もザマスロットとその一味をざまぁするためについて来たため、魔王のことは全く考えていなかった。なんなら、ザマスロットをざまぁし、ヨシタケがエクスザマリバーを抜いた時点で「旅は終わった」とさえ思っていた。
しかしこの状況で真実が言えるはずもなく、一同もヨシタケと同じようにガクガクと頷いた。
「いえ! 協力します!」
「覚悟なら、有り余って仕方がありません!」
「むしろ覚悟しかないです!」
「ヨシタケくぅん! 魔王退治、一緒に頑張ろうねぇ!」
やる気(?)に満ちあふれた仲間達の姿に、ヨシタケもグッと親指を突き立てて見せた。
「おう! みんなでザマンをざまぁして〈ザマァ〉しようZE!」
その顔は笑顔ではあったものの、目は完全に死んでいた。
(せっかくザマスロットをざまぁしたのに、死にたくねぇぇぇ!)
こうしてヨシタケ達は倒す予定のなかった、魔王ザマンを倒しに行く羽目になってしまったのだった。
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