第6章「ザマスロットと対決、ざまぁ!」⑹

 既に決着がついたかのようなノストラのセリフに、メルザマァルは怒りを剥き出しにした。


「まだ負けてないわ! 映像通信のカラクリも、ヨシタケの処世術も、完全に見破った! もう私には通用しない! さぁ、さっさと攻撃してきなさい! 返り討ちにしてあげるから!」

「いいですよ。先輩にその手はもう使いませんから」


 そう言うとノストラは懐からピンクの分厚い封筒を取り出した。

 どうやらラブレターらしく、真っ赤なハートのシーリングスタンプで封がされていた。封筒の裏には差出人の名前が書かれていたが、メルザマァルからではノストラの手で隠れて見えなかった。


「おっ、ラブレターじゃん!」

「誰の? 誰の?」

「私も見たいです!」

「まさか、小僧の物ではあるまいな?」

「違うよ。余計なこと言わないで」


 ヨシタケ達も初見なのか、決闘を忘れてわらわらと集まってくる。倒れていたザマビリー、ザマルタ、ダザドラも、演技をやめて起き上がり、ラブレターを見に来た。

 興味津々な彼らに対し、メルザマァルは無性に嫌な予感がしていた。


(なぜかしら……あの封筒を見ていると、心がざわつく。見覚えがあるような、ないような……見覚えはあるけど、思い出したくないような……)


「では、さっそく朗読させて頂きます。いや、正確にはかな?」


 ノストラはペーパーナイフで丁寧に封筒を切ると、中に入っていた五枚ものピンクの便箋を取り出し、丁寧な字で書かれた文面を読み上げた。


「『愛しのザマスロットきゅんへ』」

「ダメェェェッ!」


 最初の一文を読まれた瞬間、メルザマァルは顔を真っ赤にして、悲鳴を上げた。

 ピンクの封筒、真っ赤なハートのシーリングスタンプ、五枚ものピンク色の便箋、そして最初の一文……間違いなく、メルザマァルがザマスロットに宛てて書いた、ラブレターだった。


「何でアンタが持ってんのよ! 魔法錠つきの金庫に仕舞っておいたのに! 返しなさい!」


 ノストラの攻撃の番であることも忘れ、突進してくる。

 しかし透明な水の結界に阻まれ、ヨシタケ達の陣地の中には入れなかった。いくら拳で叩いても、結界は割れなかった。


「ちょっと! 何で、中に入れないのよ?!」

「今はお前の攻撃ではありません。下がりなさい」

「はァ?! 私のラブレターが公開朗読されてんのに、下がれるわけないでしょ?!」


 メルザマァルはザマヴィアンに注意されても引かず、何度も拳を叩きつけ、結界を壊そうとした。〈ザマァ〉なら壊せるかもしれないが、さすがにそこまでやってしまったら、退場になると分かっているのだろう。

 ヨシタケ達はまだ手紙の送り主が誰なのか分かっていなかったが、メルザマァルの反応を見て、彼女なのだと把握した。完全に自爆であった。


「このラブレターって、メルザマァルが送ったやつだったのかー」

「全然知らなかったなぁ」

「ザマスロットにはエリザマス姫様がいらっしゃったわけですから、叶わない恋をされていたんですね」

「若いなぁ」

「心配しなくても、大丈夫。これは本物を忠実に再現したレプリカなので、盗んではいませんよ」

「勝手にレプリカなんて作ってんじゃないわよ、バカー! いいから寄越しなさい! 今すぐに!」


 ノストラはメルザマァルの言葉を無視し、朗読を再開した。


「『ザマスロットきゅんとメルが初めて会ったのわ、六歳の時だったよね?? あの日わ、パパの仕事の都合でおーきゅーに遊びに行ったんだケド、メルったら迷子になっちゃったの!(びっくり!) メルわ、もうパパと会えないと思って、ずっと泣いてんだょ(ぐすん)。そんなメルを救ってくれたおーじたまが、ザマスロットきゅんだったの!!! ザマスロットきゅんわ、メルに『だいじょぶだよー』って励ましながら、パパのところへ連れて行ってくれたね! すっごくカッコ良かったょ! メル、ザマスロットきゅんのこと、好きになっちゃった!(キャーッ!照) ザマスロットきゅんも、メルのこと好きだと嬉しいなぁ(ドキドキ)。付き合ってくれるなら、お返事下さい。いつまでも待ってます! メルザマァルより』」

「……」

「……」

「……」


 淡々と読み上げるノストラと裏腹な、とてつもなくラブリーでガーリーな文面に、その場が静まり返った。

 恋文の相手であるザマスロットも、なんとも言えない顔で無言を貫いている。同じ仲間であるパロザマスは、氷漬けになっているおかげで表情に変化は見られなかったが、内心では爆笑していた。

 なんとも言えない空気が流れる中、ザマァーリンがサラッと感想を述べた。


「いやぁ、まるで女児が書いたような可愛らしいラブレターだったねぇ。本当に君が書いたのかい?」

「仕方ないじゃない! 公文書以外の書簡なんて、書いたことなかったんだもの! 堅苦しさを無くして、可愛らしさを足そうとしたら、なんかおかしなことになっちゃったのよ! 万が一誰かに見られないか心配で捨てるに捨てられず、ずっと金庫に封印していたのにッ!」


 メルザマァルは結界を拳で叩き、怒りと羞恥心をぶつけた。どういう感情から出たのか、大量の涙を流していた。

 これにはヨシタケ達もさすがに同情し、結界越しに優しく尋ねた。


「一応、返事聞いてみるか?」

「向こうも婚約者に振られたし、ワンチャンいけるかもよ?」

「まぁ、その映像は私達の偽造だったわけですが」

「当たって砕けて来い、小娘」

「騎士団長ー、返事はどうですー?」


 皆が見守る中、ザマスロットは地面に倒れたまま両手で大きく「×」を作った。


「すまん。俺は今でもエリザマスを愛している。他を当たってくれ」


 返答を聞いた瞬間、メルザマァルは頭の中が真っ白になった。

 告白が成功する自信はなかった。あのラブレターを読まれれば、なおさらだ。

 それでも、「もしかしたら」と希望を捨てきれなかった……なぜなら、彼のことを心から愛していたから。


「そう……よね。ザマスロットが私を振り向くなんて、あり得ないわよね」

「えぇ、あり得ませんよ」


 ぽん、とノストラが結界の向こうから、メルザマァルの腕を優しく叩く。


(ノストラ……励ましてくれるの?)


 期待し、振り返る。ノストラは口角を吊り上げ、顔全体でメルザマァルを馬鹿にしていた。


「ずぁんねぇんでしたねぇ~!w こんなに呆気なく恋が終わっちゃってぇ! しかも黒歴史ラブレターまで聞かれちゃうとか、災難(笑)にもほどがあるんですけどぉwww 〈ザマァ〉w いとをかし〈ザマァ〉w 黒歴史ラブレター第二弾、お待ちしてマースwww」

「うっっっっっざッ! あっっっつッ! あんな黒歴史、二度と書かないわよッ! 本物の方も、すぐに燃やしてやるッ!」


 メルザマァルはノストラの〈ザマァ〉で炎上し、髪も服も本も真っ黒に焦げ、ダウンした。

 外道極まりない言動にも、ザマヴィアンは一切動じることなく、ヨシタケ達がいる方の手を上げた。


「メルザマァル、ダウン。勝者、元勇者ヨシタケパーティ」

「よっしゃーッ!」

「勝った……ザマスロット達に勝った!」

「これが我々の実力だ!」

「い、いいんですか?! こんな勝ち方で?!」

「勝てばいいんだよ、勝てば!」

「あ~あ。負けちゃったか~」


 ヨシタケ達は互いにハイタッチし合い、勝利を讃えあった。

 一人生き残ったザマァーリンは残念そうに肩をすくめると、ダウンしているザマスロット達を助け起こすでもなく、ヨシタケ達のもとへ歩み寄っていった。


「よくやったね、ヨシタケ君。それでこそ、私が見込んだ勇者だ。ご褒美に、ほっぺにチューしてあげよう」

「や、さすがに(ピー)歳のはいらねっす」

「もー! 恥ずかしいからって、そんな嘘をつかなくてもいいんだぞ?」

「自分で夢の中で(ピー)歳って言ってたじゃないですか、師匠」


 こうして、ヨシタケ達は勝利を収め、エクスザマリバーを先に抜く権利を得た。

 ……しかし、敗北したはずのザマスロットの目には、未だ闘志の炎が宿っていたのであった。


「まだだ……まだ、終わっちゃいない! 先にエクスザマリバーを抜いてしまえば、いいだけのこと! エリザマスを救うのは、この俺だ!」


〈第6章 戦況報告〉

▽聖剣エクスザマリバーが眠る森にたどり着いた!

▽ザマスロット達と決闘することになった!

▽ザマァーリンがザマスロット達のパーティに加わった。

▽決闘開始!

(中略)

▽ヨシタケ達は勝利した!

▽ザマァーリンはヨシタケのほっぺにキスをした。ヨシタケの気力がぐんっと下がった……。

▽ザマルタもヨシタケのほっぺにキスをした! ヨシタケの気力がぐんっと上がった!


To be continued……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る