第4章「こども賢者に、ざまぁ」⑴
ザマビリーをメンバーに加えたヨシタケ一行は、空で無双していた。
「オラオラ退けやハーピー共ォ!」
「フハハハ! ざまぁないな!」
視界に捉えたモンスターを片っ端からザマビリーがテレパシーでざまぁし、両手に構えた二丁拳銃でバカスカ撃っていく。これにはダザドラも気を良くし、豪快に笑っていた。
ヨシタケとザマルタは何もすることがなく、元の姿に戻ったダザドラの背にただ乗っているだけで良かった。ウェスタンタウンの親父からもらったコーヒーを優雅に飲みながら、遊覧飛行(絶えず銃声が鳴りっぱなし)を楽しんでいた。
「強ぇなー、ザマビリー。もうあいつに魔王を暗殺させればいいんじゃね?」
「そう簡単には行きませんよ。魔王も念話魔法が使えるそうですからね、あっさり反撃されてしまうでしょう。聖剣の加護が無くては、魔王城に近づくことすら叶いませんよ」
「結局、聖剣が必須ってことかー。んで、聖剣を見つけるには賢者が必要、と」
「そういうことです。優秀な賢者が見つかるといいですね」
ザマビリーの働きの甲斐あって、一行は予定よりも早くプロフィポリスに着いた。
プロフィポリスはこれまでヨシタケが見てきた王国やウェスタンタウンとは全く異なる都市だった。窓のない、いくつもの銀色の塔や建物が建ち並び、あちこちで黄緑やピンクなどの蛍光色の煙が上がっている。まるでSF映画に出てきそうな、未来的な都市だった。
一方で、街で見かける人間やそこかしこで営業している露店は古めかしく、中には古典的な魔法使いや賢者の格好をした者達も大勢見かけた。上空でもホウキに乗った魔女や、ドラゴンに荷物を運搬させている竜使い(ドラゴンテイマー)などが忙しなく行き交っていた。
「すっげぇ、大都会だな。王国と変わらないんじゃないか?」
「そ、そ、そ、そうだな。俺も初めて来たが、こんなに都会だとは知らなかったぜ」
「わ、わ、私もです」
「わ、わ、我もだ」
想像以上の賑わいぶりに、ヨシタケ以外の二匹と一匹は圧倒され、震える。
ヨシタケは彼らが住んでいた場所とプロフィポリスを比べ、「なるほど」と理解した。
「ウェスタンタウンもザマフォレストも、田舎だったもんなー」
「田舎って言うな! あれでも一応、ウェスタン"タウン"なんだからな!」
「あ、でもダザドラは王国に行ったことがあるんじゃなかったか?」
「む、昔のことだ。都会の喧騒など、とうに忘れた」
「ヨシタケ様こそ、大丈夫なのですか? 辺境の村のご出身と聞いていたのですが……」
「平気、平気。前世で、アニメグッズ買ったりイベントに参加するために、しょっちゅう東京に行ってたし、都会には慣れてるよ。こんなに賢者や魔法使いを見たのは初めてだけどな。ノリでスクランブル交差点のハロウィンに参戦しに行った時のことを思い出す」
「はろうぃん、ですか……? ヨシタケ様がいらっしゃった世界にも、プロフィポリスと似た都市があったのですね」
ザマルタは分かったような分かっていないような顔で、首を傾げた。
たぶんハロウィンを都市の名前だと思っているらしかったが、説明するとキリがないのでヨシタケは黙っていた。
「しっかし、この中からどうやって冒険について来てくれそうな賢者を探すんだ? 片っ端から声でもかけるか?」
「確か、賢者や魔法使いを斡旋してくれる場所があるはずです。そこへ向かいましょう」
ヨシタケ一行は街に点在している案内板を頼りに、斡旋所へたどり着いた。表面が螺旋状に波打っているガラス張りの塔で、表面が日光で反射しているせいで中は見えない。
中へ入るとフロアいっぱいに窓口が等間隔で並んでおり、ヨシタケ達と同じ冒険者パーティや民間人が大勢押し寄せていた。
「今すぐ、日雇い賢者を紹介してくれ! 早くクエストをクリアしねぇと、違約金を取られちまう!」
「村に全く雨が降らなくなってしまって……占い師様に原因を突き止めて欲しいんですじゃ」
「私と彼が結婚できるか、未来を視て欲しいんですぅ。できれば、惚れ薬も作れる魔法使い様にお願いしたいんですけどぉ」
思い思いに要望を話す彼らに、窓口の係員達は機械的な笑みを浮かべつつ、
「ご予算はいかほどでしょうか?」
「どのレベルの占い師を御所望でしょうか?」
「ご依頼主様の年齢は?」
と、より細かに情報を聞き出していく。
やがて要望に適した賢者あるいは魔法使いを見つけると、彼らの居場所が書かれた紹介状を魔法で作り出し、依頼人に渡した。
よく見ると、彼らは人間そっくりの動く人形で、表情は笑顔のまま固まっていた。
「……あれって、人形だよな?」
「えぇ。プロフィポリスでは、あらゆる作業を魔導人形に任せているんです。特に、機械的な作業を求められる業種や重労働の仕事は、ほとんど人間は関わっていません。人材の斡旋はその最たるものでしょう。登録済みの賢者や魔法使いだけでも、何億人といらっしゃいますから、人間では把握しきれないのです」
「さすが都会は違うなぁ」
「そうか? 人間がおらんなど、不気味ではないか」
しばらくして、「お次のお客様ー」とヨシタケ達が呼ばれた。相手は金髪の魔導人形で、どことなくヨシタケが転生前に出会った女神に似ていた。
ヨシタケが代表して席に座り、ザマルタとザマビリーは彼の背後に控えた。
「どのような人材をご要望でしょうか?」
「エクスザマリバーがある場所へ案内してくれる賢者を探しているんだ。金に糸目はつけない……と言いたいところだが、正直厳しい。冒険に同行してくれなくとも、とにかくエクスザマリバーがある場所を教えてもらいたい」
ダザドラを無力化したことで手に入れた報酬は、プロフィポリスへ来るまでに半分以下になっていた。
原因はダザドラだ。彼は一日に牛四頭分は確実に食べる。長く飛んだ日は、その倍食べることもあった。
今後のことを考えると、なるべくケチっておきたい。
「でしたら、こちらの賢者様はいかがでしょうか?」
するとヨシタケの気持ちを察したのか、女神に似た魔導人形は一枚の紹介状を手渡してきた。
信じられないことに、その賢者への依頼料は「無料」だった。
「む、無料っ?!」
「無料ですって?!」
「本当に無料なのか?!」
「詐欺じゃないだろうな?!」
思わぬ提案に、三人と一匹の目は紹介状に釘づけになる。
紹介状には賢者の詳細なプロフィールと募集要項が載っており、確かに依頼料の項目に「無料」と書かれていた。
「そちらの賢者様は非正規の賢者ではありますが、引く手数多の優秀な賢者様でいらっしゃいます。条件さえクリアすれば、無料で依頼を受けて下さるそうですよ」
「条件?」
女神に似た魔導人形は作り物の笑顔で頷き、言った。
「賢者様から提示された課題をクリアすれば良いのです。かなり難しい課題で、今まで誰もクリアしたことがないそうですが、異世界からいらしたヨシタケ様ならクリアできるのではないでしょうか?」
「俺ならクリアできるかもしれない、か……よく分かんねぇけど行ってみる価値はありそうだな」
「行くだけタダですしね」
「そうそう」
ヨシタケ達は魔導人形の言葉を信じ、紹介された賢者のもとへ足を運んでみることにした。
「ありがとうな、魔導人形さん!」
「お役に立てたようで、何よりです」
女神に似た魔導人形は恭しくお辞儀し、ヨシタケ達を見送った。
塔を出た後、ヨシタケはふと首を傾げた。
「あれ? 俺、あの受付の人に名前言ったっけ? それに、異世界から来たことも」
振り返り、入り口から塔の中を覗く。
先程の女神に似た魔導人形が座っていた席には、いつのまにか別の魔導人形が座っていた。
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