第3章「賞金首ハンターに、ざまぁ」⑹

 ザマルタが負傷したラットボーイズを治療している間、手持ち無沙汰にしているヨシタケにダザドラが言った。


「……お前、さっき連中に"闇の〈ザマァ〉"を使おうとしたな?」

「闇の〈ザマァ〉? 闇属性の〈ザマァ〉のことか? "属性"抜くと、ますます厨二病っぽいな」

「闇の〈ザマァ〉は、闇属性の中でも禁忌とされている〈ザマァ〉だ。闇そのものと言ってもいい。人の生き死にやトラウマに関して〈ザマァ〉しようとすると発動する。"貴様など、生まれるべきではなかった"とか"お前のせいで誰それが死んだ"とかな。この〈ザマァ〉を受けた者は教会でも治療困難な呪いを受け、最悪の場合は即死する」

「……」


 ヨシタケは自分が何をやろうとしていたのかようやく理解し、青ざめた。

 思い返せば、ザマルタはヨシタケが何を言おうとしているのか察し、止めてくれたのかもしれない。


「闇の〈ザマァ〉は戦闘においても、使用を禁じられている。もしお前が闇の〈ザマァ〉を使っていたら、即刻処刑されていたぞ」

「しょ、処刑?! 何もそこまでしなくても……!」

「闇の〈ザマァ〉とは、それほどまでに罪深いものなのだ。低級魔法ならまだ引き返せるが、一度闇の力を使えば、どんどん深みにハマっていってしまう。貴様が倒そうとしている魔王も、そういう経緯で闇に落ちた」


 ダザドラはうるんだ真っ赤な瞳を細め、ヨシタケに忠告した。


「ヨシタケ……お前はそうはなってくれるなよ? あの魔女から何を教わったかは知らんが、力に溺れてはいかん。いかなる時も己を保て。いいな?」

「……分かってるさ。闇の〈ザマァ〉を使ったら、処刑されるんだろ? せっかく転生したのに、のんびりスローライフを送るまでは死んでたまるかよ」




 負傷したラットボーイズ全員の治療を終える頃には、日が高く昇っていた。

 ヨシタケは回復した彼らが襲って来ないか心配していたが、ザマビリーがいの一番に頭を下げたことで杞憂に終わった。


「すまなかった! こちらが一方的に狙っていたのに、治療までしてくれるとは! パーティを置いて逃げるような勇者なんざ、とんでもない悪党に違いないと思っていたが、俺の勘違いだったようだ。本当にすまなかった!」

「「「すいやせんでした!」」」


 部下達も一斉に頭を下げ、謝る。


「か、顔を上げて下さい!」

「俺達もやり過ぎたんで、おあいこですよ!」


 ヨシタケとザマルタは謙遜し、慌ててラットボーイズに頭を上げさせる。

 しかし実際に被害を受けているダザドラは「そのまま一生いろ」と鼻で笑っていた。


「ヨシタケはパーティを置いて逃げたのではない。パーティに置いていかれたのだ」

「置いていかれた……? どういうことだ?」


 ザマビリーは顔を上げ、訝しげに眉をひそめる。


「えっとですね……」


 仕方なくヨシタケが説明すると、みるみるうちにザマビリーの顔は憤怒の形相へと変わっていった。


「あの騎士野郎……! いけすかねぇツラだとは思っていたが、心の中までいけすかねぇとはな!」

「あの槍使いもヘラヘラしてたな。俺達と似た雰囲気だった」

「賢者の女も、カタギとは思えねぇほど冷たい目ぇしてたよな。町の子供には妙に好かれてたけど」


 部下達もリーダーの言葉に乗っ取り、ザマスロット達の文句を立て続けに口にする。町の住人達はザマスロット達を歓迎していたが、はみ出し者である彼らは良く思っていなかったらしい。

 仲間達の声を聞いたザマビリーは「勇者さんよぉ、」と真剣な眼差しで、ヨシタケに頼み込んだ。


「俺をアンタの仲間にしてくれないか?」

「えぇっ?!」

「リーダー、本気ですかい?!」


 突然の申し出に、ヨシタケはもちろん、ラットボーイズの間にも衝撃が走る。

 それでもザマビリーは屈せず、再度頭を下げた。


「頼む。俺はあの似非騎士共を〈ザマァ〉しねぇと気が済まねぇ。アンタら、エクスザマリバーを探してるんだろ? アイツらも例の聖剣を抜きに行くって聞いたぜ。目的地は同じなんだ……ここにいるより、アンタらと一緒にいた方が遭遇する確率は高いだろ?」

「それはそうだけど……ラットボーイズはどうするんだ? 仲間も一緒に連れて行くのか?」


 この世界の常識に疎いヨシタケに、ザマルタが説明した。


「一緒には連れて行けませんよ。戦士独占禁止法で、一つのパーティに入れるメンバーは四人までと決められていますからね。同行するなら、それぞれでパーティを組んでもらいませんと」

「パーティの人数って、法律で決められてたのか。ってことは、ザマビリーをパーティに入れたら、賢者が雇えないんじゃね?」


 ヨシタケの疑問に、今度はダザドラが答えた。


「我はヨシタケの召喚獣扱いだから、パーティのメンバーにはカウントされんぞ。最後の一人に奴を入れるかどうかは、ヨシタケが決めればいい」

「そうか……責任重大だな」


 ヨシタケはザマビリーに視線をやり、質問の答えを待つ。

 ラットボーイズの仲間達も見守る中、ザマビリーは重く口を開いた。


「……ラットボーイズは、副リーダーのザマットに任せる。賞金首狩りは辞めて、町のためになる活動をしてくれ。他の町への行き来が楽になるように交通を整備したり、観光客が来るような町にしたりな」

「あ、兄貴ぃ……!」

「行かないでくれよ、リーダー!」


 一方的に別れを告げられ、部下達は動揺する。どうにかして引き止めたかったが、ザマビリーの決心のついた目を見て、何も言えなくなってしまった。


「さぁ、どうする? 俺を連れて行ってくれるか?」

「……奇遇だな」


 ヨシタケはザマビリーに手を差し出し、ニッと不敵に笑った。


「俺もザマスロット達に〈ザマァ〉したくて旅をしてるんだ。大歓迎だぜ」

「マジかよ! 魔王じゃなくて、騎士団長様を? とんだ勇者だな!」


 ザマビリーもニッと笑い、ヨシタケの手を握り返した。


「俺はザマビリー。元ラットボーイズの賞金首ハンターだ。お前は?」

「ヨシタケだ。世間的には、行方不明の元勇者ということになっている。こっちの一人と一匹は、シスターのザマルタと、ドラゴンのダザドラ。よろしくな!」


 こうして、二人目のパーティメンバー、ザマビリーが仲間に加わった。

 ヨシタケ達は新生ラットボーイズと別れ、南の果てにある賢者の都市、プロフィポリスを目指して再び歩き出したのだった……。




〈第三章 戦況報告〉

▽治療費十万ザマドルを支払った!

▽ダークザーマァドラゴンの愛称が「ダザドラ」に決まった!

▽シスターのザマルタが仲間になった!

▽「メインクエスト:プロフィポリスを目指す」を開始した!

▽ハーピーの群れを倒した!

▽ハーピーの群れを倒した!

▽ハーピーの群れを倒した!

(省略)

▽ラットボーイズから襲撃を受けた!

▽ダザドラが負傷した!

▽ウェスタンタウンに到着した!

▽「サブクエスト:酒場の壁にお花畑を」をクリアした!

▽魔女ザマァーリンから、三つの極意「反撃」「嘘」「顔」を伝授された!

▽スタレチマッタ遺跡でラットボーイズと戦闘!

▽ラットボーイズに勝利した!

▽ガンマンのザマビリーが仲間になった!


To Be Continued……

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