第3章「賞金首ハンターに、ざまぁ」⑸
翌朝、ヨシタケ達は酒場を出た。相変わらず、表の通りには誰も出歩いていない。
「色々と世話になったな、親父さん。達者でな」
「お前達もな。気をつけて行けよ」
ヨシタケ達は酒場の親父と別れ、ウェスタンタウンの出口に向かって歩いていく。
その様子を町の住人達は怪訝な顔で、窓越しに見守っていた。
「あいつら、もう町を出るのか?」
「いくらなんでも、早過ぎやしないか? ラットボーイズはまだ諦めていないんだろう?」
「頼むから、衛兵が来るまでジッとしていて頂戴! もう死体を見るのは嫌なのに!」
誰もが心の中ではヨシタケ達が町を出ることに反対していた。
だが、実際に通りへ出て止めに入る者はいなかった。下手に接触すれば、自分もラットボーイズに狙われかねないからだ。
やがてヨシタケ達はウェスタンタウンのゲートをくぐり、結界の外へ出た。
その様子はスタレチマッテル遺跡にいるラットボーイズも、双眼鏡で確認していた。
「ヒャッハー! 連中、町を出たぜ!」
「馬鹿な奴らだなぁ! 町に閉じこもっていりゃ、衛兵が保護しに来てくれたかもしれねぇのによォ!」
「ま! 来たとしても、俺達が奴らの目の前で撃ち殺してやるんだけどな!」
呑気に出てくるヨシタケ達に、部下達は笑いを堪えきれない。
そんな中、ザマビリーだけは双眼鏡を覗いたまま、眉をひそめていた。
「……なぜ、あんなに堂々と町を出て来れる? しかもドラゴンに乗らずに、徒歩で。何か策でもあるのか?」
「ンなの、ハッタリですって! さっさと撃ち殺しちまいやしょうや!」
部下達は銃をヨシタケ達に向かって構え、テレパシーでざまぁしようとする。
すると、すかさずザマビリーが部下達を睨みつけた。
「馬鹿か、お前ら。そうやって軽はずみな行動を取ってきたせいで、町を追い出されたのを忘れたのか? 〈ザマァ〉」
「ひっ!」
「す、すいやせん!」
ザマビリーに〈ザマァ〉され、部下達がいる空間にだけ氷混じりの風が吹き抜ける。
凍えるような寒さとザマビリーへの恐怖に、部下達は身も心も震え上がった。
「次の町へ行くには、遺跡のそばを通らなくちゃなんねぇ。そこを襲うぞ」
「へ、へい!」
ヨシタケ達が遺跡に近づいてくるにつれ、無能な部下達も彼らの違和感に気づき始めた。
「あ、あいつら……何であんなに余裕なんだ?」
二人と一匹は満面の笑顔で歩いていた。心なしか、スキップしているようにも見える。
「俺達がここにいるって知らないのか?」
「あり得ねぇよ。酒場に泊まってたし、あそこの親父から聞いてるはずだ」
「じゃあ……何であんなに笑ってんだ?」
その答えは、ヨシタケ達が遺跡を通り過ぎる際に聞こえてきた会話で分かった。
「指名手配が解除されて、良かったなー。ハッハッハ」
「本当に良かったですねぇ。うふふ」
「これで安全に旅を続けられるぜ。ヒッヒッヒ」
初耳だった。
ヨシタケの指名手配が解除されていたなど、誰も知らない。リーダーであるザマビリーでさえ、驚きを隠せなかった。
「な、なんだと?!」
「いつの間に解除されていたんだ?!」
「聞いてないぞ!」
「早く確認しろ!」
構成員達は動揺し、思わず声を荒げる。
すると彼らの声を聞きつけたのか、ヨシタケとザマルタは遺跡の前でピタッと立ち止まった。笑顔のまま、ぐるっと首を動かし、遺跡の陰に隠れているラットボーイズ達の方を向く。ヨシタケの肩の上に乗っていたダザドラも一緒に首を動かしていた。
二人はラットボーイズの方を見たまま、横歩きでジリジリと近づいていった。
「ギャーッ! こっち来た!」
「すっげぇ笑顔! 怖っ!」
「お、俺は降りるぜ! ここにいたら、連中に〈ザマァ〉されちまう!」
「俺も! 指名手配が解除されてたって知らずに攻撃するなんて、自殺行為だ!」
仲間達は一人、二人と遺跡から飛び出し、ウェスタンタウンがある方へ逃げる。町には入れずとも、身を隠す壁として利用しようと考えたのだろう。
だが、ヨシタケ達は彼らを逃しはしなかった。
「ぶふぉw アイツら、あのラットボーイズじゃなかったっけ? 俺の指名手配が解除されたと分かった途端、怯えて逃げてるんだがw 〈ザマァ〉w」
「えーっ?! あのラットボーイズが、パーティから追放された最弱勇者様に怯えて逃げてるんですかぁ? 皆さん、意外と小心者なんですねw 〈ザマァ〉w」
「足、遅っw その程度の速さで逃げられるとでも思ったか? 〈ザマァ〉w」
ヨシタケが雷をまとった剣を振るい、ザマルタが火の精霊の力を借りて炎を放ち、ダザドラが口から氷の息吹を放つ。
逃げようとしていた者達を立て続けにざまぁし、確実に仕留めていった。
「ギャーッ!」「ぐわー!」「チクショー!」
ある者は雷の斬撃を受け、ある者は全身に炎がまとわりつき、ある者は氷漬けになって倒れる。
気づけばザマビリーを含め、遺跡の陰に隠れていた数人の構成員だけが生き残されていた。
「くっそぉ……アイツら、つけ上がりやがって……!」
すると、テレパシーで指名手配の確認を取っていた仲間の一人が、慌てた様子で「リーダー!」とザマビリーを呼んだ。
「どうしたァ?!」
「さっき情報屋に確認したら、あの勇者の指名手配は取り下げられてないって! 奴ら、嘘ついてやがったんだ!」
「なっ……?!」
ザマビリーは驚き、言葉を失った。
指名手配が取り下げられていないと知ったこともショックだったが、それ以上に一夜にしてザマビリーを騙せるまでに成長したヨシタケ達に驚いていた。
「……昨日は町にのこのこ逃げるしか出来なかった勇者共が、俺達相手にあんな堂々とハッタリをかましただと……?! 一体何があった?!」
ヨシタケは遺跡の陰に隠れているザマビリーに向かって剣を振り上げ、答えた。
「性悪な魔女に、夢の中で無理矢理"指導"させられたんだよ! 一夜漬け勇者の嘘を見抜けないお前ら、ザコすぎw せっかく反論を覚えたのに、使うまでもないんだが!w 〈ザマァァァァ〉!!!www」
「ぐあぁぁぁ!」
「リーダー!」
ヨシタケはざまぁすると同時に剣を振り下ろし、炎の斬撃で遺跡の残骸ごとザマビリーを切る。ザマビリーはテレパシーを使って反撃する間もなく、背中に深い傷を負った。
遺跡の陰から見ていた彼の仲間達は青ざめ、危険を承知で駆け寄った。
「リーダー! しっかりして!」
「くそっ、この辺りに教会なんてねぇぞ!」
「町には医者がいるけど、俺達じゃ入れねぇし……」
絶望するラットボーイズを前に、ヨシタケはニヤリと笑った。
(……チャンスだ。「リーダーすら守れないなんて、弱過ぎるw」「お前ら弱い過ぎるせいで、リーダーは死ぬんだ〈ザマァ〉w」って、ざまぁすれば、ラットボーイズは壊滅させられる……!)
残った仲間達にトドメを刺そうと、忍び寄る。
すると、
「なりません」
とザマルタが彼の袖をつかみ、止めた。先程までヨシタケと一緒になってラットボーイズをざまぁしていた時とは違い、ヨシタケを
ヨシタケはザマルタの言いたい意味が分からず、首を傾げた。
「何でだよ? コイツらをざまぁしないと、先に進めないんだろ?」
「もう十分です。頭目は仕留めました。あとは私にお任せ下さい」
そう言うとザマルタは残ったラットボーイズのメンバー達のもとへ歩み寄り、提案した。
「私が治します。一応、シスターですから。リーダーさんも、他のお仲間さん達も。その代わり、我々を見逃してくれませんか?」
「……分かった」
「仲間の命は金には変えられねぇからな」
残ったラットボーイズは渋々頷き、承諾した。
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