第3章「賞金首ハンターに、ざまぁ」⑷
気がつくと、ヨシタケは森に囲まれたお花畑の上で寝ていた。シミだらけの天井は澄み切った青空へと変わり、春を思わせる温かなそよ風が吹いている。
かなり乙女チックな夢だったが、冒険の疲れが溜まっていたヨシタケはむしろ癒された。
「……お花畑の夢、意外といいな。このまま二度寝しよ」
「こらこら、私が何のために君の夢に介入したと思っているんだい?」
「っ?! その声は!」
ヨシタケが慌てて起き上がると、正面にザマァーリンが座っていた。
「ザマァーリン!」
「おっひさー。手こずってるみたいだね?」
「……アンタは何でもお見通しなんだな」
ヨシタケは「見てたなら、俺達を助けてくれれば良かったのに」と思いつつ、彼女に助言を求めた。
「だったら、教えてもらえませんかね? どうすればラットボーイズに勝てるのか」
「そうだねぇ……」
ザマァーリンはヨシタケが何も言わずとも状況を熟知しているらしく、さらっとアドバイスをした。
「君達は馬鹿正直に彼らと戦おうと思っているようだね? でも、それじゃダメだ。そのままじゃ、きっと次は命を奪われる。もっと頭を使わなくちゃ」
「頭を?」
「うん」
ザマァーリンは頷き、人差し指と中指と薬指の三本を立てた。
「私が三つの技を君に伝授してしんぜよう。一つは、"反撃"。この世界はダメージを受けっぱなしのゲームの世界とは違い、反撃ができる。ざまぁされても、"それの何が悪い?"と反論することで、攻撃を跳ね返すことができるんだ。相手が反論し返せず、反撃に成功すれば、ダメージを倍化して相手に返せられる。試しに、私に向かって"この若造が!"って〈ザマァ〉してごらん」
「は、はい」
("若造が"って、一応俺も若いんだけどな……そりゃ、ザマァーリンは十代後半から二十代前半くらいだし、俺からすれば若造なんだろうけど)
ヨシタケはモヤモヤしつつ、言われた通りにザマァーリンに攻撃した。
「こ、この若造が! 〈ザマァ〉!」
途端に青空が曇り、ザマァーリンの脳天に向かって稲妻が降ってきた。
ところがザマァーリンはその場から動こうとせず、ヨシタケの額を小突いた。
「もー、若造だなんて失礼な! 私はこう見えて、(ピーッ)歳なんだゾ☆
〈ザマァ〉!」
「な、なんですとぉー?!」
予想外のザマァーリンの実年齢に、ヨシタケは絶叫した。
その瞬間、稲妻は空中で「クイッ」と進路を変え、ヨシタケの脳天に落ちた。
「ギャァァァッ!」
ヨシタケは全身真っ黒にこげ、花畑に倒れる。
これが夢でなければ、死んでいたところだった。
「とまぁ、これが"反撃"という技さ。防御せずとも攻撃を防げるから、お得だろう?」
「そ、そうですね。勉強になりました……でもこれ、実際に攻撃を受ける必要あったんすかね?」
「それじゃあ、二つ目!」
「話聞いて下さい」
ザマァーリンはヨシタケの不満には一切耳を貸さず、二つ目の技を伝えた。
「二つ目は、"嘘"。嘘をつくことで、本来なら持ち得ない武器を持つことができる。これも体に直接、教え込んであげよう」
「いや、口頭で勘弁してください」
ヨシタケの訴えも虚しく、ザマァーリンはヨシタケの顔を覗き込むようにして言った。
「さっき、私は(ピーッ)歳って言ったけど、本当は十七歳なんだ」
「えっ、そうなんですか?!」
わずかな期待と安堵に、ヨシタケの表情が明るくなる。
が、
「うっそぴょ~ん! ちゃんと(ピーッ)歳ですよ~! やーい、騙されてやんのー! 〈ザマァァァァ〉!」
ザマァーリンは両手の人差し指でヨシタケを指差し、思わず殴り飛ばさずにはいられなくなるような、小馬鹿にした顔でヨシタケをざまぁした。
「くっそォォォッ! 騙されるって分かってたのにぃぃぃ!」
心のどこかでは分かっていながらも嘘に釣られてしまった後悔、信じたいヨシタケの気持ちを弄んだザマァーリンへの怒り、絶妙にムカつくザマァーリンの顔と仕草と言い方、そして徹底して実技にこだわるザマァーリンへの憎悪……それらのヨシタケの感情がザマァーリンの〈ザマァ〉で一挙に魔法へと変換され、ヨシタケに襲いかかった。
「ぐおォォォォォッ!」
ヨシタケが倒れていた地面が盛り上がり、地中からマグマの柱が噴出する。
ヨシタケは身を焦がされる熱さと痛みで、絶叫した。これが夢でなければ、死んでいたところだった(二回目)。
「これが二つ目の技、"嘘"。それから、三つ目の技の"態度"だ。嘘は、嘘だと分かった瞬間のインパクトが大事だからね。いかにして相手を馬鹿にし、ざまぁできるかが重要だ。どんなに頑張ってざまぁしても、おどおどしていたり自信無さげだったりすると、与えるダメージは減ってしまう。君もザマスロット達に闇討ちされた際に体験しただろう?」
ヨシタケはマグマの中でザマスロット達の嘲笑を思い出し、納得した。
「そうか……あいつらの顔には、そういう効果があったのか……!」
「あれはまさに寸止めに相応しい顔だったね。もし彼らも私のようにヨシタケ君を〈ザマァ〉していたら、君は今この場にはいなかった。ざまぁできる素材には限界がある……顔や言葉遣い、仕草、小道具といった武器を使うことで、一つのザマァで何倍ものダメージを与えることができるんだよ」
「顔か……今まで気にしたことなかったな」
「それから、反撃材料がなくても堂々としていること。〈ザマァ〉されても、ざまぁされたと思わなければダメージは通らない。試しに、自分を落ち着かせてごらん? これは夢なんだから、いくらざまぁされても関係ないって」
「は、はい」
ヨシタケは目を伏せ、気持ちを落ち着かせようと自分に言い聞かせた。
(これは夢だ。ザマァーリンは(ピーッ)歳じゃない。見た目通りの十七歳だ……)
次第にヨシタケの心は落ち着き、ザマァーリンに〈ザマァ〉されたショックが癒えていく。
それにつれ、ヨシタケを閉じ込めていたマグマの勢いは弱まっていき、彼が完全に冷静を取り戻して目を開いた頃には、マグマは跡形もなく消えていた。
「あれっ?! マグマは?!」
「何言ってるんだい? 君が消したんじゃないか。よくできたね、偉いぞ」
ザマァーリンは
その笑みに、ヨシタケは不覚にもドキッとした。
「この夢の中でやったことを、よく覚えておきなさい。どれも必ず、戦いの役に立つはずだ。特に、いかなる時においても動じないこと。難しいことだけれど、これさえマスターすればザマスロットや魔王ザマンにだって勝てるはずさ」
そう励ますと、ザマァーリンはヨシタケの頬から手を離し、金のホウキに跨った。
「機会があったら、また会おう! 私はいつでも君を見守っているよ」
「ありがとうございました。おかげでいい作戦が思いつきそうです」
「それなら良かった! あと、私は本当に十七歳じゃなくて、(ピーッ)歳だからね☆ 〈ザマァ〉」
「ぐはッ! よ、余計なこと言わないで下さい! せっかく冷静になったのに!」
ヨシタケは再度雷に打たれ、失神した。
その衝撃で、ヨシタケは現実でも目を覚ました。
同時に、ラットボーイズを一掃する作戦を思いつき、ニヤリと笑った。
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