第3章「賞金首ハンターに、ざまぁ」⑶
ヨシタケとザマルタは酒場の親父と手分けし、指名手配書を全て剥がした。
剥がした後の壁には、酒場の親父が「ずっと張り替えようと思っていたが、いまいち貼る勇気を出せずにいた」という可愛らしい花柄の壁紙を貼った。
「何で酒場なのに、花柄?」
「ここ、ウェスタンタウンの連中は荒っぽい奴らが多くてね。少しでも心を和ませて、喧嘩が減るようにしたかったんだ」
「……意外とちゃんとした理由があったんですね。ウケ狙いかと思ってました」
「失礼な。俺はいつだって、町の連中のことを考えてるぜ。アンタらだって、ウェスタンタウンにいる間は俺の家族だ。だから……忠告しておいてやる」
酒場の親父はヨシタケ達にホットコーヒーを差し出しつつ、告げた。
「今すぐ冒険をやめて、保護してもらった方がいい。ラットボーイズは衛兵でも手を焼くような手練れが揃っている。特にリーダーのザマビリーは恐れ知らずで、ざまぁ出来る隙がない。遠距離武器か盾でも持ってりゃ、まだ太刀打ち出来るかもしれねぇがな」
「盾……ですか。あいにく、結界を張るくらいしか出来ません。銃相手にどこまで通用するか……」
ザマルタはダザドラの怪我の手当てを済ませ、うつむく。
ダザドラはまだ攻撃のショックで、眠ったままだった。彼が目覚めないことには、今後の冒険に支障が出てしまう。
ふと、ヨシタケは根本的なことを疑問に思った。
「俺……何で指名手配なんかされてるんだ? 何も悪いことなんて、やってねぇのに。ザマスロットの方が指名手配されるべきだろ。こっちは被害者だぞ?」
すると酒場の親父は「そういえば」と、この町へザマスロット一行が来訪した際に言っていたことを思い出した。
「ザマスロット様は"前の勇者は我々を置いて、一人で逃亡した"と仰っていたぞ。そのせいじゃないか?」
「はァ?! 俺は逃げちゃいねぇ!」
「その方が都合が良いからと、ザマスロットがでっち上げたのでしょう。つくづく性悪なお人だこと!」
ヨシタケとザマルタは怒りを露わにした。
ヨシタケを殺そうとしただけでなく、彼を悪者にするために嘘までつくとは……それが指名手配に繋がった以上、冗談では済まされなかった。
とは言え、今のヨシタケ達ではザマスロットをどうすることもできない。
ヨシタケとザマルタはザマスロットへの恨みを、熱々のコーヒーと共に飲み込み、現状を打破する方法を考えることにした。
「……どうなさいます? ラットボーイズと戦いますか? それとも、王様に助けを求めましょうか?」
「そうだなぁ……あいつらが、どこか別の町に行ってくれたらいいんだけどな」
「あり得んね」
酒場の親父は首を振った。
「連中はウェスタンタウンに固執している。別の町へ行くなど、あるはずがない。全員、元はこの町で生まれ育った荒くれ者ばかりだからな。あまりに素行が悪いのと、町中で行われた銃撃戦で死者が出たもんだから、町から追放されたんだ。その罪滅ぼしのつもりか、今は義賊を名乗っていてな……指名手配犯を片っ端から倒しては、もらった懸賞金のほとんどをウェスタンタウンにばら撒いているよ。連中にとってはいい事をしてるつもりなんだろうが、昼夜問わず銃声は聞こえてくるし、町の治安が悪いイメージを持たれているせいで、冒険者以外の人間は全く来たがらない。ウェスタンタウンから安全に出たいなら、王様に頼んだ方が早いだろうな」
「……ザマルタさん」
ヨシタケはザマルタに向き直り、言った。
「連中の狙いは俺だ。ザマルタさんもダザドラも関係ない。二人だけなら、ウェスタンタウンから安全に脱出できるかもしれない」
「……貴方を置いて、私達だけで逃げろというわけですか?」
「そうだ」
「嫌です」
ザマルタは聖女のように微笑み、即答した。
「ダザドラさんがざまぁされたのに、何もしないで帰るわけにはいかないです。私にもラットボーイズを一発、〈ザマァ〉させて下さい」
「ザマルタさん……」
「おい。それでは我が死んだみたいではないか」
その時、ダザドラが目を覚ました。
「ダザドラ! 大丈夫なのか?!」
「なんとかな。あの賊共……念話魔法(テレパシー)を使って、遠隔からざまぁしてきやがった。何が、"ドラゴンの割りに、腹まわりに脂肪がつき過ぎている"だ! 次に会ったら、必ず〈ザマァ〉してくれるわ!」
ダザドラも逃げる気などさらさらない様子で、殺意を剥き出しにする。
手のひらサイズだったのでさほど怖くはないが、その気持ちは痛いほどヨシタケに伝わった。
「……分かった。共に戦おう」
ヨシタケが力強く頷くと、ザマルタとダザドラも決意を固めた眼差しで、頷き返した。
関係ないが、酒場の親父も一緒になって頷いていた。
その夜は酒場の親父の厚意で、酒場の二階にある空き部屋に泊めてもらうことになった。
五部屋ほどあったが、どの部屋も空いていたため、ヨシタケとザマルタは別々の部屋を取った。ダザドラはヨシタケと相部屋だ。
「おやすみなさい、ヨシタケ様」
「おやすみー」
ラットボーイズに対抗するべく、深夜まで話し合ったが、いい作戦は思いつかなかった。
このまま向こうが諦めるまで籠城するというのも手だが、それでは泊めてもらっている酒場の親父や他の住人達に申し訳ない。
「寝たら、いい作戦が思い浮かばねぇかなぁ」
「そんな簡単に思いついたら、苦労せんわ」
ヨシタケはベッドに寝転がり、しばらく天井のシミを数えていたが、やがて眠ってしまった。
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