第13話

入学して半年が過ぎた。


私とリュシルファ様は『シル様』『ディディ』と呼び合う仲になっていた。

シル様の表情筋はあんまり仕事をしないのと、美人過ぎるが故に冷たく見られがちだけど、実はとても優しく控えめな方だった。

どちらかと言えばネガティブ思考であまり自分に自信がないご様子。

知れば知るほど守りたくなる人で、ゲームでは妹の話しから私を手先としてくる人ってイメージだったけど実際はディルアーナが率先して立ち回ってたのではと思う。

それくらい大人しい人だった。


「ディルアーナ嬢、ちょっと頼まれてくれるかい?」

シグルスはお兄様と仲良くなったのもあってちょいちょい私に構ってくる。

呼び方も名前で呼ぶ許可を出してくれてるくらいだ。

それもあって絡まれる度にマリアに物凄い目で睨まれるので勘弁して欲しい。


「私に出来ることでしたらお受けいたしますわ」

「むしろディルアーナ嬢にしか頼めない…」

私にしか…私、特に特殊能力ないんだけど…。

「コレを…リュシルファに渡してほしい」

手渡されたのは可愛くリボンで飾られた紅茶の缶?だった。

「リュシルファはお茶が好きらしいんだ。これは遠くの国の少し変わったお茶でね、『ホウジチャ』という珍しいものなんだ」

おぉ、ほうじ茶!あるんだ。

「ご自分でお渡しになられては?」

なんで私を経由するのか。

ほらマリアがめっちゃ怖い目でこっち見てるし。

ほうじ茶の缶ガン見だし。

「それが…私が近付くと萎縮するんだよね、彼女。婚約者にって話も出てるんだが今話を進めると無理をさせそうなくらい畏まるんだよね…」


あー…シル様、人見知りスゴイもんね。

仲良くなってから言われたけど私は包容力がありそうであまり緊張せずに済んだといわれた。

包容力というか包容肉というか…おデブな人って包容力あるように見える人が多いって前世で聞いた気がする。


「分かりました。お渡ししておきますね」

何となくマリアにも聞こえるように『渡す』を強調した言い方をした。

「引き受けてくれるかい。ありがとう。ではコレは君に」

そう言って一回り小さな缶も手のひらに乗せられた。

「セルディと一緒に飲んでみてくれ。砂糖を入れても良いが入れなくても香ばしくて中々に美味しいお茶だから」

うわー…マリア、こわぁ…。

ヒロインがそんな顔したらダメでしょーよ…。

「ありがとうございます。お兄様と頂きますね」

マリアの顔が怖すぎて若干引きつり笑いになったの、バレてなければ良いなぁ…。



こんな調子なのでマリアは王太子ルート狙いなのかと思っていたのだがどうもハッキリしない。

進学時にルートが分かれる前から攻略したい人の好感度を上げられるのは分かっているようなのだが、攻略対象と思しき人みんなにいい顔をしているのだ。


ただ、セルディとシグルス、あと宰相子息のバルムの好感度は全く上がっていないと言える。

セルディに関してはむしろマイナスだ。

ゲームと違って私とお兄様のセルディは仲が良い。

なのに仲が悪い前提でしか話をしないので双子の片割れが貶められていると感じ苛々するようだ。


そんなセルディと仲が良いのがシグルスとバルム。

王太子シグルスを中心に武の側近候補セルディと智の側近候補バルムは入学前から何度か交流があったらしい。

そして他の側近候補たちよりウマが合い、身分を越えて友人関係となったようだ。


そんな仲良しのセルディが嫌うマリア。

その時点で好感度が上がりにくいだろうに明らかに媚を売る態度に微妙な心境のシグルス。

そしてシグルスと私が話す度に怖い顔で睨むのを見てしまったマリアの隣の席のバルム。



逆に魔法師団長子息レイムス・フェン・フェロガスと恐らく攻略対象のトラスト・カジー先生は分かりやすくマリアを好意的に見ている。


たまーに学園に遊びにくるキュレイ・アウディラ・フェアリアル第二王子は懐いてるっぽい印象。

あと1人の攻略対象はこの学園では珍しく子爵家の大商人の子息マツト・コギストなのだろうってのはマリアの態度からの推測だ。


とにかく片っ端から好感度をあげようとしているみたい。

もしかして知らなかっただけでハーレムルートってのがあるんだろうか…?

その場合私やシル様はどうなるんだろう。


マリアは私にバトルをふっかけられようと時々近くでよく分からない行動をしてくる。

通行の邪魔をしたり、食堂で座ろうとした席を横取りしたり、ぶつかってきたり…若干ムカつきはするものの1つ1つは些細だ。

ただ、それが最近あからさまになってきているのだ。

そしてエスカレートしている。

時々シル様にも嫌な思いをさせてしまっている。


(このままじゃいけない)


漠然と不安が心を占めていくのを感じた。

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