第14話

もうすぐ長期休暇である。

私とお兄様は伯爵家の子にしては身に余る誘いを受けていた。

なんと王家の保養地で共に過ごそうとシグルス様直々に招待状を渡されてしまったのだ。


「何で私まで…?」

「リュシルファ嬢が君が来るなら来てもいいって言うから絶対来てもらいたいんだよ」


あのお茶の缶を受け取った日、セルディによって強引に2人きりで会話させられた王太子殿下だったが功を奏したらしい。

シル様がシグルス様に好意を抱いているとシグルス様が知れたそうなのだ。

「君のおかげでセルディ経由でだけどリュシルファ嬢の可愛らしさを知ることが出来た。どちらでもよいと思っていた婚約話だったが今では何とか結びたいと思えているんだよ」

うーん、シグルスの目が恋する人のそれになっている。


チラッとセルディを見ると

「自分だけが分かるツィルフェール公爵令嬢ってのがたまらないんだって。ディディみたいな事を言い出したんだよ」

とため息混じりに言われた。

うん、私も家でしょっちゅうシル様の可愛らしさをお兄様中心に家族に話してるわ。


「あとね、私はあの公爵家がどんな家か少しは知っている。リュシルファ嬢があの様に無表情になったのは公爵家が先走って行った厳しすぎる王太子妃教育の結果なんだよ。だから救いたい気持ちもあるんだ」

王太子妃教育の結果?そんなの初耳だ。

「どういうことですか?」

「ツィルフェール公爵は野心家でね、未来の王妃を出すとリュシルファ嬢をそれは厳しく育ててたんだ。私は幼い頃も知っているがあんな無表情ではなかった。その時に表情を出すと怒られると聞いたんだ。」

表情を、感情を抑える教育。

それは私も淑女教育として受けている。

しかし日常的に制限されていたわけでない。

「厳し過ぎたんだろうね…。一方で妹は甘やかされていたし、後継ぎの弟もあそこまで厳しくされていなかった。彼女が人形の様になっても仕方がないんだよ…」


シル様の自己肯定感の低さは感じていたが…過剰な制限と姉妹差別…王太子ルートでの闇落ちは嫉妬じゃなく絶望だったのかも…。

そう思うともの凄く悲しくなってきた。

シル様が可哀想過ぎる…。


「そんな事情を私はすっかり忘れていたのに君がリュシルファ嬢と楽しそうに過ごしているだろ?時々微笑む彼女の笑顔を見てるうちに幼少期の笑顔を思い出したんだよ。彼女が婚約者候補として最有力なのは幼い頃の私が彼女が良いと希望したからだったんだ」


…あれ?この話、なんか知ってる…似たような…あ!

妹のプレイレポだ。

「お姉ちゃん、シグルスの好感度がMAXになったよ!そうしたらリュシルファ公爵令嬢の裏話をしてきたよ。自分に自由や選択権はないと思っていたけど彼女と婚約話が出たのは昔の自分の発言が原因だった、だって。今の立場をしっかりと自覚して行動するなら昔から自由や選択が全くないわけじゃなかったのに気付かされたって言ってきたよ。で、リュシルファ公爵令嬢も婚約嫌がってたから解放しようって流れになった。でも公爵令嬢、なんか闇落ちしてボスキャラとして出てきたんだけど。めっちゃ強い」

画面のスクショを見せながら説明してくれた前世の妹。

ボスキャラとして出てきたというシル様は闇に魅入られ藤色の髪が紫へと変わり逆立ち赤い瞳の周りは血のような紋が浮かんでいた。

闇には魔力が高い者しか魅入られないので滅多に現れないが、闇に魅入られた者が現れると魔物が活性化し国は乱れる。

その闇に強いのが聖属性で闇堕ちしたシル様を倒す事でヒロインは救国の乙女となるのだが…あんなシル様、悲しすぎる。


(私がシル様を守ってみせる。闇堕ちなんかさせない)


シル様の闇堕ちのきっかけがヒロインとの婚約なら先に成立させてしまえばいい。

他の人ルートだとなんだかんだで2人は2年の長期休暇中に婚約するのだから。


「私、行きます!シル様のために!」

「えぇ…?」


若干の困惑を抱くセルディを無視し、私は招待状を受け取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る