第11話

まさか、どストレートに転生者か聞かれるなんて思わなかったから素で戸惑ってしまった。

それが功を奏したのか「あれ?」って顔をしているヒロイン。

「えっと…私の事知ってる?」

探るように聞いてきたけどどう答えるべきかしら。

確かゲームでもディルアーナはヒロインの事を噂で知っていたし知ってると答えても問題ないハズ。

そう思って答えたのに転生者判定されてしまった。


えーなんなのこの人ー!泣きたい…。

困り果てながら噂の事を伝えるとまたコロリと納得して転生者じゃないのかと聞いてくる。

うん、その言葉自体理解してないフリした方がいいな。


「転生者とは何でしょう?」

この人…勘が鋭いのか鈍いのか…単純な人ってのに間違いないとは思うけども…思案していると衝撃の質問が飛んできた。


「あのさ…転生者じゃないならなんでそんな太ってるの?」


まさかのストレートに失礼な質問だな!!!


太った理由。そんなのただ一つ、食べ過ぎだ。

少し食べたら気持ち悪くなり満足に食事も出来なかった前世の分も取り返すような食欲。

そして私が沢山食べるのを嬉しそうに微笑ましく見守ってくれる家族がいる環境。

むしろお兄様とどちらが沢山食べるかの競争までしたりした。

そんな私達のために料理長はいつも張り切って沢山の食事を用意してくれた上に、そのどれもがとても美味しかったのだ!


セルディが細身のままなのに私だけ太ったのは、お母様の命が助かり安心した私は魔法の訓練を止めたからだろう。

自分は訓練してないのに、真面目に騎士の訓練を続けていたお兄様と同じだけ食べてればそりゃ太るよね、とガックリきたのは制服を着て鏡の前に立った時だった。

同じ服を着てるのにゲームで見たディルアーナとあまりにも違いすぎて「誰この巨体!?」と焦ったものだ。

すぐ諦めたけど。


中々答えない私に「ねぇ!?」と追い打ちがかかる。


「あの…ご飯が美味しくて…」


これは嘘ではないが令嬢として完全アウトの答えだと思う。

他に良い返しも浮かばず恥ずかしくてモジモジ答えると「えーーー!」と非難混じりの声が響いた。


ヤバい…今更ながら太った自分が恥ずかしい…。

少し凹みながら俯いていると私とヒロインの間に人が立ち、私に「どうしたの?大丈夫?」と声をかけてくれた。


目線を上げると王太子シグルス。

「え!?あのっ!大丈夫っです!」

急な美形のアップにビックリして声が裏返ってしまった。


「何があったの?」

今度はヒロインに声をかけているようだ。


ゲームでは戦闘に負けたディルアーナが走り去った後にシグルスが通りがかったのだがモタモタしてたせいだろう。

ヒロインへのセリフが私たち2人当てに分かれてしまった。


「えと…『何だったのか私もあんまり分かってなくて…でももう大丈夫です!』」

なんとヒロイン、ゲームのセリフまんまを言った。

ゲームはバトルを吹っかけられて、その相手が逃走したからその返しでいいと思うけど…今それはどうなの?

シグルスも怪訝に思ったのだろう。

ゲームと違った訝しんだ声で、されどゲームとまんま同じセリフ

「そうかい?なら良いんだけど…君は?」

と言った。


「『私はマリア・ローデンですっ!これから宜しくお願いしますっ』」


なるほど、デフォルトのマリアって名前か…って違ーう!

ゲームだと確かに付いてなかったけどこの世界、名前の前に爵位を告げるのが貴族の常識だ。

いや、ちょっと前まで使用人として生きてたから本当に知らないのかも?

「あぁ、君が噂の聖属性の伯爵令嬢だね。宜しく」

王太子シグルスもマリアが貴族の常識を知らないと判断したらしい。めっちゃ営業スマイル返してる。

それに気付いてないのかマリアは少しうっとりとニコニコ…というよりニヤニヤしているなぁ。


マリアの観察をしていたらシグルスがクルリとまたこちらを向いた。

私のことはスルーで良いのに…。

「君の名前も伺っても?」

「もちろんですわ。私は伯爵家のディルアーナ・ディオ・ブレビリーと申します。お見知り置きくださると幸いです」

「ああ!ブレビリー騎士団長のご息女だね。覚えておこう」

「光栄ですわ」

「話せて良かった。じゃあまた教室でね」

シグルスが立ち去る気配を感じたので淑女の礼をとる。

マリアは胸の前で手を組み祈るようなポーズでキラキラとシグルスを見つめていた。

それに気付いた王太子シグルス。

「学園ではそう身分を気にしなくて良いよ」

私に向かってそう言い残し去っていった。


あれ?去っていったな…。

ゲームではヒロインが教室まで一緒に行こうって誘われてた気がするんだけど…?


チラッとマリアを見てみると「え?バグ?え?」とうろたえている。

こっちが不思議に思ったのに気付いてなさそうで良かった!

「では、私もお先に参りますわね」

小声で一応そう話しかけそそくさと立ち去ることにした。

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