第二十六章 香辛料と結界
第363話 情報収集
宰相と共に導師と僕は龍族の長老にあいさつに行った。
龍族の島は浮遊石が生えている。導師と僕が管理する浮島とは違って自然だった。
『やあ。今回はなんの用かな?』
集会場で長老はいった。
『まずは浮島をもらえたお礼です。お納めください』
宰相は空間魔法の倉庫から箱を出した。
箱は念動力で集会場の真ん中に運ばれた。そして、フタが開いた。
『ほう。見事な杖だね。宝石をぜいたくに使っている』
長老のお眼鏡にはとまったようだ。
集会場を囲む他の龍も感心しているようだ。
一通り鑑賞すると、龍たちは杖を長老の後ろに運んだ。
『今日は未来視で見て欲しいのです。外にトンネルを開けて冒険者を派遣した後を』
宰相はいった。
『うむ。それなのだが、私でもわからない。神霊族が関係しているためか、あの結界の外はわからんのだよ。だが、この閉じた世界の未来は見える』
『それは?』
『軍が移動する』
ピンと空気が張りつめた。
『どこの国かわかりますか?』
宰相はひるまずにきいた。
『人族の国はわからない。だが、すでに動き出している。移動するのは近い』
『なんのための軍ですか?』
『わからない。だが、世界を区切る結界の近くに移動するようだ』
『外にでも行くのですか?』
『それはわからない。だが、目的を持って行動している』
『私たちのしていることと関係がありますか?』
『あるだろう。だが、動機などは心の中は未来視では見れない』
長老の未来視では限界のようだ。
「ランプレヒト公。どう考える?」
宰相は導師にきいた。
「私たちの妨害ですかね? 軍を派遣してまで協力する理由はないと思います」
「それが妥当だな。シオン伯爵は?」
「神霊族は外には早いといっていました。それと関係があると思います」
僕はいった。
「ん? 神霊族と会えるのか?」
「瞑想の中でです。現実なのかわかりませんが……」
「なるほど。神霊族を見る人間は少ない。だが、変性意識なら神霊族のいる世界を見れると聞いたことがある」
宰相は意外にも僕の意見を聞いてくれた。
「シオンの意見は客観性がありません。安易に取り込むと危険です」
導師は捕捉した。
僕はそれに安心した。
僕の情報は僕の妄想の可能性でもあるからだ。
「そうだな。だが、情報が少なすぎる」
「それはわかります。しかし、不確定な情報で走るのは危険です」
「うむ。軍を増強しているカシュゴ王国に外交官を派遣しよう」
「はい。今はできることは少ないですから」
宰相は龍の長老に向き直った。
『すみませんでした。こちらは情報不足で指針が決まりません。今は軍を動かす国に話をききに行くと決めました』
『なるほど……。私たちも力になれなくてすまない』
『いえ。相談にのっていただけるだけでもありがたいのです。最後に神霊族に会う方法はありますか?』
『神霊族に会うためには意識を飛ばすしかない。彼らは体を持たない意識体である。目では見れないだろう』
神霊族は物理的な体を持たないようだ。これでは見る人間は目でなく、感覚で感じているだけだ。
『第三者から確認する方法はありますか?』
『信じるしかないな。見方は色々ある。正解はこちらの世界にはない』
神霊族は意識の世界の住人のようだ。
『なるほど。神霊族に敵に回して勝てるでしょうか?』
『わからない。だが、小さき子は神霊族を傷つけることができたようだ』
僕に視線が集中した。
僕は首をかしげる。
できるといえばできる。だが、瞑想の中でだ。神霊族を滅しても確認はできないと思う。
「シオン伯爵。心当たりは?」
宰相にきかれた。
「危ない魔法でできると思います。過去に一部を壊しましたから。ですが、神霊族の方から姿を表した時です」
僕は過去を思い出しながらいった。
「禁呪です。過去に妖魔族と戦った時に神霊族が現れました。その時に使ったのです」
導師は僕の言葉につぎ足した。
「では、神霊族を敵に回したのか?」
宰相は驚いていた。
「神霊族が妖魔族に手を伸ばしたのです。なので、シオンは敵と判断したようです」
「なるほど。神霊族は理解ができないな」
「はい。ですので、慎重にならざるを得ません」
「わかった。神霊族は切り離して考える。今は人族の未来だ」
「はい」
導師はうなずいた。
『失礼をしました。こちらでも意見はまとまっていません。改めて、こちらにうかがいます』
『そうだね。でも、急ぐとことを仕損じる。気を付けて欲しい』
『ありがとうございます』
宰相は頭を下げた。
僕と導師は習って頭を下げた。
王都に帰ると、宰相は宮廷魔導士長に相談するらしい。
目的は神霊族の接触。そして、必要なら倒すらしい。
僕は思わず導師を見た。
導師は苦い顔をしていた。
僕でもわかる。神霊族との接触。それだけで何年必要かわからない。その上で、倒さないとなると難しい。
期間を考えると不可能に近い。
「シオン。もう一度、神霊族の話を聞かせてくれ」
導師はいった。
導師も神霊族を理解しなければならないようだ。
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