第364話 情報収集2

 カリーヌの家に向かう道でエルトンに話しかける。

「エルトンさん。神霊族の情報は持っていませんか?」

 エルトンは考える。

「おとぎ話程度ですね。龍の牙をもらっているので、存在しているのはわかります。ですが、神霊族とはなにかは知りません」

「そうですか……。人族の敵か味方かわかりますか?」

「敵味方に分けられないです。聞いた話では神霊族に助けられた騎士もいるようです」

「どんな話ですか?」

「そうですね……」

 エルトンの話はおとぎ話のようだった。魔獣を倒すべく派遣された騎士の話である。

 騎士は魔獣に敗れて逃げた。だが、騎士の精神に反する行為だ。騎士は再び魔獣を倒すべくきびすを返すと、大きな老人にあった。老人は騎士の体を癒すと、ある方向を指さす。騎士は物言わぬ老人の示す先に歩いた。そして、一本の剣を手にした。その剣は聖剣だった。そして、騎士は魔獣と再び戦う。そして、倒すことができた。

「物語みたいですね」

 僕は素直な感想をいった。

「はい。ですが、カシュゴ王国を作った男の話です。それに、聖剣は今も存在しているようです」

「なるほど。となりの国は神霊族と関りが深いようですね」

「はい。ですので、カシュゴ王国が神霊族の干渉を受けて行動するのは理解できます」

「そうでしたか……。エルトンさんは神霊族を敵にできますか?」

 エルトンは立ち止まった。

 僕は余計なことをきいたのかもしれない。

「シオン様は敵にしますか?」

「わかりません。僕には父のことがあります。その頃は敵だと思っていました。しかし、今はわからないのです。敵と思っていましたが、相手に敵意を向けても素通りでした。悪意も敵意も感じません。そればかりか忠告されました。ですので、判断できないのです」

「シオン様は父上のことを許しているのでしょうか?」

「……なんともいえません。思い出して腹が立つこともあれば、許す時もあります。心の整理はできていません」

「そうですか……。神霊族も同じなのだと思います。シオン様は自分の心に従ってください。私はその剣と盾になります。私にはそれ以上いえません」

 エルトンでも決められない話のようだ。

「ありがとうございます。余計な心配をかけました」

「いえ。シオン様は成長途中です。この先も色々なことがあるでしょう。その時の助けになれればよいと思うだけです」

「シオン様。私も道連れにしてください」

 アドフルは僕にいった。

「二人には迷惑をかけます」

「いえ。それより、急ぎましょう。相手を待たせるわけにはいけません」

 エルトンは歩きだした。

 僕もその背中を見ながら歩いた。


 カリーヌの家の玄関では、家長であるジスランが待っていた。

 素直にガーデンルームには行けない。その代り、ジスランの書斎に入った。

「やあ。実験は成功したかい?」

 ジスランはデスクのイスに座った。

「はい。成功で終わりました。後は冒険者を選ぶだけのようです」

「おめでとう。それで、冒険者は誰が行くのか決まっているのかい?」

「まだですね。宰相はこれから決めると思います」

「そうか……。クンツ・レギーンは選ばれると思うかい?」

「はい。男爵ですから。本命と思います」

「うん。僕もそう思っている。彼に出資してもよいと思うかい?」

「思いません。今回は外交です。外の種族と会合になります。珍しい物を見つけても、二の次だと思います」

「なるほど。でも、先につばをつけておくのもありだと思う」

 ジスランは先を見ているようだ。

 一回目は金にならなくとも、二回目の権利を買いやすい。冒険するにはよい話かもしれない。

「……そうですね。ですが、冒険者が道をつければ、商人がその道を通ると思います」

「そうだね。君ならどうする?」

「僕は道を作れるので、必要があればあちら側に行くと思います。それに龍族は広い空を取り戻したがっていますし」

「そうだったね。君の力を忘れていたよ」

 ジスランは苦笑いをした。

「今回はあせる必要はないね。じっくりと観察させてもらうよ」

「はい。ですが、カシュゴ王国の軍が動くようです。これには実験と関わると思います」

「そうなのかい? 僕の情報では理解のできない行動だった。意味があるとは思えなかった」

「戦争ではなく、外に関係するようです。まだ、僕の予想ですが」

「うん。僕も情報を集めるよ。それと、香辛料の栽培だね。これにも応援させてもらう。あの公爵は目障りになったからね」

 マッシミリアーノ・ファン・アストーリ公爵のことだろう。もう、市場を独占して操作するのは見ていられなかった。

「今は食文化の隆盛ですからね。香辛料の値段を上げたのは問題ですね」

「うん。水を差したのは平民でもガマンできないようだ。貴族でも嫌う人間は増えた。近い内に大人しくなってもらう」

 ジスランはほほ笑んだ顔をしているが、奥に見える目は怖い。

「はい。よろしくお願いします。平民でもおいしい食事が食べたいと思いますから」

「うん。ありがとう。私の方でも新しい情報が入ったら教えるね」

「はい」

 僕は礼をしてジスランの書斎から出た。

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