第361話 前実験

 午前中は試運転であり、午後から本格的な実験になる。だが、動き出すのは魔法使いばかりではない。隠れている冒険者も動き出しそうだった。

「冒険者を捕まえますか?」

 エルトンは朝食の席でいった。

「まだ、必要ないな。それに、隠れて見ているだけだ。捕まえる理由は弱い」

「ですが、トンネルに入ったら危険です」

「そうだな。だが、命がけなのはこちらも一緒だ。少しのミスで命を落とす。冒険者にはかまっていられない」

「わかりました。騎士にはそう伝えます」

「すまないな」

「いえ。これも仕事です」

 エルトンは野菜と肉の煮込みをかき込むと、騎士を統べている副団長のもとに行った。

 あわただしく時間は過ぎていく。ノーラを残して。


 午前は試運転である。一列に並ぶように導師は指示した。

 土の壁がボロボロになったのを見たのだろう。結界の方には近づきたくない魔法使いは多かった。

 それでも、時間はかかったが並ばせた。

「では、試運転をする。各自、魔法を唱えるように。タイミングはまだ合わせないから、自分のタイミングで参加してくれ」

 魔法使いたちは各々に呪文を唱え始める。しばらくすると、トンネルが出現した。そして、結界に向かって伸びた。

 結界には穴があけることができた。だが、不安定である。

 何度か、繰り返して魔法として完成に近づける。

 やがて、合唱になるように言葉が重なった。すると、トンネルは安定して結界を貫いた。

 僕はすかさず、ツバメの使い魔を飛ばした。導師も一緒だった。

 そして、導師は時間を計る。

 僕は使い魔に集中してトンネルを抜けて、帰ってくるまで念を飛ばして速さを上げた。

 導師が指示して、トンネルを閉じるまでに使い魔は帰って来た。

 使い魔の体には穴など欠損はない。人が通るには十分なようだ。

 僕は使い魔から情報を抜き出した。

 外の世界は森だった。

 こちらと同じで森のようだ。

「シオン君。私にも見せてくれないか?」

 ハンプス宮廷魔導士長が歩いて来た。

「でしたら、私のを」

 導師はあせりながらいった。

「君は実験の続きを。皆が待っているよ」

「はい。申し訳ありません。シオン。頼んだ」

 僕はうなずいて、使い魔をハンプス宮廷魔導士長に出した。

「ガッカリすると思います」

 僕は余計だと思いながらもいった。

 ハンプス宮廷魔導士長は僕の使い魔から情報を抜き出した。そして、笑った。

「うん。君のいう通りだ。森でしかない。町などはないようだね」

「はい。外の人間にとっても辺境なのでしょう」

「うん。そうだね。期待しすぎたようだ」

「ですが、冒険者が外に出れば、なにかしら持ってくると思います」

「うん。今度はそれに期待しよう」

 ハンプス宮廷魔導士長は自分のテントに帰って行った。


 実験は昼食の時間になって一時休止した。

「導師。魔法の運用は問題ないのでは?」

 昼食を食べながら、導師にきいた。

「ああ。連係は取れている。午後には目標の十五分をすぎるだろう。だが、本番でも連係を取るために練習は必要になる」

「母上様。それ以上はご内密に。聞かれています」

「ああ。そうだったな。でも、私には死にに来たとしか思えないよ。トンネルに侵入すれば、その場で魔法を切る。無礼者にはこちらの代表としてあいさつして欲しくないからな」

 導師は耳に手をやった。

 コールの魔法が入ったようだ。

 導師は応答しているようだ。そのままのカッコウである。

「ふう」

 導師はコールの魔法を切ったようだ。

「冒険者ですか?」

 エルトンはいった。

「ああ。事情をききに来たよ。まあ、冒険者としては礼儀正しい方だな」

「それで、なんといっていたのですか?」

「まあ、文句だな。人の命を軽く扱っているとか」

「それは言いがかりでは?」

「まあ、少数の人間の命より、大勢の命を優先する。外との会合しだいでは、必要ない敵になるかもしれないからな」

「それで、納得しましたか?」

「しないな。だが、外に出す冒険者は、外交官と同じだと説明したら理解できたようだ。頭は悪くはなかったよ」

「ですが、視線を感じます。バカはいるようです」

「それはおまえたち、騎士に頼むよ」

「かしこまりました」

「導師。この様子だと、夕方に終わりませんか?」

 僕はきいた。

「そうだな。順調に行けば明日は必要ない。それは魔導士長と話して決めるよ」

「はい。わかりました」

「シオン様。せっかくのキャンプです。楽しまないといけません」

 なぜかノーラに怒られた。

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