第360話 準備中

 午前は集合と野営の準備で終わった。

 昼食後から、あいさつと説明が始まる。そのため、集められた魔法使いたちは野営の集会場所に集まった。

 そこに、ハンプス宮廷魔導士長は歩み出た。そして、木の箱の上に立った。

 魔法使いたちはハンプス宮廷魔導士長を仰ぎ見た。

「このたびは、集まってもらって感謝する。宮廷魔導士をまとめているハンプス・フォン・ベントソンという。今回の実験は見てわかる通り巨大な結界が相手である。これを作ったのは有翼族と神霊族が関わっているといわれている。その結界に穴を開けるのは、神霊族に届く技術と力があることを示すことになる。皆にはその一歩を踏んで欲しい」

 集まった魔法使いたちの中から拍手が起きた。

 ハンプス宮廷魔導士長は拍手を抑えるように手を動かした。

「今回はザンドラ・フォン・ランプレヒト宮廷魔導士が指揮を取る。では、ランプレヒト魔導士。あいさつを」

 導師は魔導士長の隣の箱の上に立った。

「ザンドラ・フォン・ランプレヒトという。このたびは時間を割いて協力してくれることに感謝する。この実験は皆の力が必要である。実験する魔法は一人一人が放った力の結晶である。それを意識して実験に協力して欲しい。みんなが満足して帰れる結果にしよう」

 魔法使いの中から拍手が鳴った。

 ハンプス宮廷魔導士長は拍手を抑えた。

「これから、ランプレヒト魔導士から説明と前準備がある。皆はランプレヒト魔導士の指示に従うように。ケガをするからね。では、ランプレヒト魔導士、あとは頼んだ」

 ハンプス宮廷魔導士長は台から降りて後方で待機した。

 その後は導師の説明が続いた。そして、注意事項なども話された。

 僕は導師の指示で呪文が書かれている紙を配った。悪用を防ぐために事前には教えなかったためだ。それに、覚える時間は明日まである。覚える時間はあった。

 それと安全の確認だ。僕は導師に指示されて、横から流れる結界をさえぎるように、土の壁を縦に魔法で並べた。

 土の壁には結界に近くなるほど穴が開き崩れていく。

 野営している位置が結界から遠い理由と、大規模魔法を必要とする理由を話した。

 最後に魔法を使う並びを決めた。トンネルに対して横一列に並ぶだけだ。これは疑問が挙がった。

 導師は僕に指示してトンネルを作るように指示した。

「今回はこれと同じものを大規模魔法で作ってもらう。シオン一人では一分も持たない。そのための大規模魔法である」

 僕は周りを見て安全を確認する。騎士も魔法使いも横から前にはいない。

 僕は確認すると、トンネルの魔法を使った。

 トンネルが形を成して結界に当たり穴を開けて進んでいく。そして、向こう側に抜けたと思ったら、トンネルをそのままにして魔法を切った。

 トンネルは残った魔力で形を成している。しかし、強度は落ちて結界に飲まれていく。

 バキッバキッキ――

 トンネルは引きずられて木々を倒していった。もし、魔法使いがトンネルの両脇にいたら、片方はトンネルに当たって死ぬ可能性がある。

 魔法使いたちは危険を目のあたりにして顔を青くさせていた。

「結界には流れがある。その下流にいなければ問題ない」

 導師はそう注意した。

 その後も説明と注意で夕方になって解散した。


「キャンプみたいで楽しいです」

 ノーラはのん気に鍋をかき回していった。

「おまえは変わらないな」

 導師もあきれているらしい。

 ノーラは良くも悪くもマイペースだ。なので、キャンプなどの非日常では安心する。

「私たちも一緒でよろしんですか?」

 エルトンはいった。

「かまわんよ。料理は五人前だ。それにここは森の中だ。爵位を気にする必要はない」

「かしこまりました」

 五人で火を囲んで夕食を食べた。

 そして、日が落ちると共にテントに入って眠気が来るのを待って寝た。


 朝は早い。ノーラに揺さぶられて起きた。

「もう、朝?」

「はい。鍋を出して火を点けてください」

 ノーラは朝も変わらなかった。

 僕は寝袋から出て服を着る。そして、ノーラに連れられてテント前の焚火のところに来た。

 僕はノーラに凍った鍋を渡す。ノーラはそれを器具につないで吊るした。

 僕は鍋の底の焚き木に魔法で火を点ける。

 ノーラは火の勢いを強くさせるために、必死になって口で吹いていた。

 僕は半分寝ている頭のままでノーラを見ていた。

 僕はノーラの姿を見て倉庫から金属の筒を出す。

「これで吹くと安全だよ」

 ノーラは受け取ると、熱心に火を強くしていた。

「早いな。もう起きたのか?」

 導師にいわれた。

「ノーラに起こされました」

「まあ、メイドなら起きている時間だな。朝の食事で忙しいからな」

 朝には弱い僕にはできないことだった。

「導師も早いですが?」

「まあ、気になって起きた。野営では気を張っているからな。冒険ごっこをした時の習性だな」

「冒険ごっこ?」

 導師の言葉が気になった。

「ああ。他の国を見て回った時がある。街道でも魔獣に襲われたよ」

「導師って公爵家の子供だったんですよね?」

「ああ。変か?」

「ええ。貴族が冒険者をしているのは普通ではないと思います」

「まあ、あの時は両親に反発していたからな」

 導師も反抗期があったようだ。だが、行動力は並ではないようだ。

「なにを見にいったんですか?」

「色々だな。なんでもよかったから。最初は隣国の遺跡だ。それから――」

 僕は導師の冒険譚を聞いたが、宮廷魔導士とは思えない内容だった。

 最後には世界の果てを目指したらしい。だが、その時はとん挫したらしい。

 だが、今は目の前に世界の果てがある。皮肉なものだとボーとした頭で考えた。

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