第359話 移動
一週間という期間は短かった。
香辛料の栽培場にちょっかいを出されなくなったらしい。今は静かに香辛料になる草木の育成を待つばかりになった。
「シオン様。料理を凍らせてください」
ノーラに頼まれた。
料理は前もって作って持っていくようだ。だが、ずん胴に作った料理を、そのまま凍らせるのは問題があった。
「ノーラ。分けないと、あとで困るよ。食べるたびに、これだけの量を溶かして凍らせるのは大変だよ」
「そうですね。朝昼晩に分けます」
僕は小さなずん胴を凍らせて、空間魔法の倉庫にしまった。その他にパンやお菓子などしまった。
「そういえば、アイスの作り方を教えたっけ?」
僕はノーラにきいた。
「初めて聞きます」
僕はノーラにアイスクリームの作り方を教えた。しかし、失敗だった。アイスクリームを作るには氷が必要である。そのため、ノーラは僕に水を凍らせる。それは、ノーラが満足するまで続いた。
「また、新しいお菓子を作ったようだな?」
導師に朝食の席でいわれた。
「ええ。陽気が温かいので、そのように新しいお菓子を教えました」
「少しは自重しろ」
「冷たいお菓子です。夏場には必要です」
「ほう。それは楽しみだな」
導師は簡単に手のひらを返した。
「はい。あとは種類が増えるのを待つばかりです」
「まあ、その前に仕事だ。用意はよいか?」
「はい。できています」
朝食後は、僕と導師、ノーラとエルトンとアドフルは城に移動した。そして、実験に参加する人達を合流した。
城ではゲートが開かれている。辺境につながっているようだ。僕と導師の乗る馬車は公爵らしくゲートをくぐった。
ゲートの潜り抜けた先では騎士があたりを警戒していた。
すでに仕事は始まっていた。
導師はゲートを作り馬車と門番を帰した。そして、野営の場所を示して荷物を出す。そして、テントの設営はエルトンとアドフル、ノーラに任せた。
導師は僕を連れて、貴族の旗があるテントの入り口に声をかける。
「失礼します。ザンドラ・フォン・ランプレヒトです」
「入りたまえ」
中から、男の声が聞こえた。
導師は僕を連れて中に入った。
中には白いひげを生やした老獪そうな老人がいた。
「お久しぶりです」
導師は貴族の礼をする。
僕も習って、胸に手を当てて貴族の礼をした。
「久しぶりだ。もっと、顔を出して欲しい」
老人は堂々としていた。
導師より偉いのだろう。魔力の流れが魔法使いと一緒なので、宮廷魔法使いかもしれない。
「忙しいので、ごあいさつが遅れました」
「うん。それは風のウワサで聞いている。今度は香辛料に手を出したとか」
「その通りです」
「それで、その子が例の子かな?」
「はい。シオン・フォン・ランプレヒトと申します。お目通りを」
僕はどうすればよいのかわからない。導師と老人を見比べた。
導師は僕の背中を押して老人に向ける。
老人にはジッと目を見られた。
「うん。想像していたより幼いね。ウワサはウワサにすぎなかったのかい?」
「それは使い魔を見ればわかります。シオン、出してくれ」
僕は導師のいう通り使い魔を出した。
「ほう。この歳で人型を造るか。関心だね」
「それが、使い魔なのにドラゴンブレスを使います」
導師はあきれたようにいった。
「はぁ?」
老人は驚いていた。
ドラゴンブレスを使える龍帝級なら使い魔でもできると思う。しかし、実態は違うようだ。
「戦闘態勢に移行すればわかります」
「そうなのか。頼む」
僕は使い魔を戦闘態勢にした。
刃はドラゴンシールドを変形させたドラゴンエッジである。そして、盾はドラゴンシールド。魔法使いはドラゴンブレスを使う。
「うん。使い魔なのに戦力過剰だね」
老人はあきれたようにいった。
「はい。困っています」
「宮廷魔導士にするかい?」
「いえ。今は成長の期間です。十年後で十分です」
僕の知らないところで将来が決まるらしい。
「これ以上、成長するのかい? 将来が怖いね」
老人は笑った。
「まだ、子供ですから知識が偏っています。他にも教えることは多いです」
「そうだね。そうでなかったら、僕は宮廷魔導士をやめないとならない」
老人は笑った。
「まだ、子供なので至らぬ点がありますが、よろしくお願いします」
導師は頭を下げた。
僕も習って頭を下げた。
「承知した。私がいる間は安心して欲しい」
「感謝します」
その後は導師と雑談が続いた。僕はそれを眺めているだけだった。
やがて、雑談は終わった。
「では、実験を楽しみにしているよ」
「はい。必ず成功させます。では、失礼します」
僕は導師に連れられてテントから出た。
僕は老人は誰かと導師にきいた。
名前はハンプス・フォン・ベントソンというらしい。公爵の位で、宮廷魔導士を束ねる長であるらしい。
今回の実験には外の世界が関係しているため重要度は高い。それで、宰相から派遣されたようだ。
だが、実験は導師の主導で行われる。僕はその手伝いをすればいいようだ。
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