第357話 菜園の守り
「導師。レティシアさんから、監視用の使い魔を発注したと聞きました。話は来たんですか?」
夕食の席で僕はきいた。
「ああ。耳が早いな。まあ、夜間の監視用だ。昼は日の光があるから問題ないが、夜間では人も少なくなるし、問題があるらしい」
「では、赤外線とか超音波を使うのですか?」
「おまえは当たり前にいっているが、それを知る魔法使いはいない。いい加減、わかってくれ」
「そうですか? 遺跡からは僕の知る科学より高度な物が出てますよ」
「あれも、理解不能な構造だ。前時代の科学はわからないんだ。そもそも、科学という言葉は前世のおまえがいっていただけだぞ」
「前世では普通だったので。この世界ではなんというのですか?」
「名前はないな。魔法と思っている学者が多いと思う」
「結構、いい加減ですね?」
「そんなものだ。わかっていることより、わからないことの方が多いんだ。前世の知識は簡単に広めるなよ」
「わかりました」
そう答えたが、僕にとってこの世界の魔法の理論体系は理解できないものだった。
公式がない。感覚がものをいって理論的ではない。それに尽きた。
翌朝に僕は導師と共に南の地に来た。
夏のように、日差しは強かった。
今回来たのは、導師の作った監視用の使い魔を配置するためだ。
「ようこそお出でくださいました」
ジャゾン・モラン男爵が出迎えてくれた。
僕と導師は男爵の歓迎を受けて家に行った。
家は僕が生まれた商家と同じぐらいである。男爵は狭い領地で苦労しているようだ。
「栽培は順調かな?」
導師は男爵にきいた。
「はい。でも、邪魔が入ります。ローランサン公爵には目をかけてもらっていますが、対処しきれてません」
「枯らされた木でもあるのか?」
「今はありません。ですが、傷を付けられました」
「そうか、なら、結界を張るか?」
導師はもらった紅茶を揺らしながらいった。
「それなんですが、結界は人と共に雨なども防ぐと聞きます。栽培に影響はあるのでしょうか?」
「それは調節しだいだな。男爵でも展開したり切ったりできるようにできるが?」
「よいのですか? 今回は使い魔を持ってきただけだと聞きました」
「私もこの菜園に関わっている。他人事ではないんだよ」
「そうでしたか。では、よろしくお願いします」
男爵は頭を下げた。
話は決まったようだ。
「導師。どの結界を使うんですか?」
僕はきいた。
「龍からもらった魔導書にあった結界を使う。結界としては弱いが人払いは簡単にできる。それに使い勝手が良いからな」
僕たちは紅茶を飲み終わると菜園に向かった。
菜園では騎士がイスに座って周囲を警戒している。そして、男爵を見ると立ち上がった。
「お疲れ様」
男爵は衛兵にあいさつした。
「ありがとうございます」
衛兵は背筋を伸ばしていた。
「こちらは、今回、使い魔と結界を張ってくれる公爵様だ。みんなを集めてくれるかい?」
衛兵はうなずくとどこかに走って行った。
「コールの魔術は使えなんですか?」
僕はきいた。
「うん。衛兵だからね。騎士なら違うんだけど」
王都の衛兵はレベルが高いようだ。コールの魔術は必須とアドフルからきいていた。
集まった衛兵に使い魔の説明をする。
魔力を定期的に補充することなど、使い魔を使う上で必要な説明をした。
衛兵たちは使い魔が理解できないようだ。
「シオン。出してくれ」
僕は導師にいわれて、使い魔を空間魔法の倉庫から、何十もの使い魔を出した。
フクロウに似た鳥である。これなら、菜園にいても不思議ではない。だが、数が多いので見抜かれるのは時間の問題だ。
フクロウたちは空に飛んで行く。そして、役目を果たすべく散らばった。
それだけで、驚かれた。使い魔を満足に使うには時間がかかりそうだ。
「この鳥型の使い魔は、夜間の活動を助ける。コウモリみたいに音で人を認識する。また、体温でも認識する」
導師は説明する。
衛兵の中から手を挙げるものがいた。
「なにか?」
導師はきいた。
「それは衛兵も認識されるのですか?」
衛兵の一人がいった。
「もちろん認識する。その代り、先に体から自然と発する魔力を認識して、敵味方を判別する」
「攻撃はするのですか?」
また、他の衛兵はいった。
「それはしない。衛兵にコールの魔術で伝える。このコールの魔術は衛兵が魔術の適性とは関係なく届く」
「夜の見回りは任せてよいのですか?」
また違う衛兵が質問した。
「いや、全部を任せないでくれ。使い魔でも抜け穴がある。補助ぐらいに考えてくれ」
衛兵たちはざわざわと話し出した。
使い魔の導入は不安があるようだ。
「みんな、静かに。まだ、話は終わっていない」
男爵がいうとざわめきは収まった。
「あとは結界だ。これは男爵に任せる。ただ、結界が発動すれば、人は中に入れなくなる。雨や風は入るけどな」
「では、菜園は農家に任せてよいんですね?」
衛兵の一人がいった。
「もちろん。衛兵には農業はさせない。今まで通りだ」
男爵はいった。
衛兵たちは納得したようだ。
自分たちの仕事に不満があると思われたら嫌だろう。だが、守りを増強するのは必須だった。
「今回は公爵様からの増援だ。それに、みんなを頼りにしている。それはわかって欲しい」
衛兵たちから感じる反応は悪くはないようだ。
解散すると、男爵を連れて菜園の中央に進んだ。
「導師。ここを起点にすると、周りの木々は枯れますよ。マナを吸い取られますから」
「必要な犠牲だ。かんべんしてもらおう」
「……そうですね」
導師は結界の起点になる魔道具を出す。そして、魔法で土を持ち上げる。それに魔道具をめり込ませて、魔法で地中に埋め込んだ。
その後は、男爵に必要な呪文を教えて、起動と解除を試した。
「ありがとうございます。これで、少しは安心できます」
男爵は喜んでいた。
「もとを断ち切れれば文句がないが、それはできない。対処療法ですまないな」
「いえ。公爵様が直々に来てくれたのです。文句はありません」
「そうか。だが、それだけ期待しているのを忘れないでくれ」
「はい。必ず、栽培は成功させます」
僕と導師は男爵の言葉をきいて、ゲートの魔法で屋敷に帰った。
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