第353話 ソース
昼食を食べると、カリーヌの家に遊びに行った。
カリーヌの家は公爵家が集まっている高台である。家は近かった。なので、エルトンとアドフルの二人に守られて徒歩で移動した。
「アドフルさん。魔法の初歩のやり方を書きました。もらってください」
僕は紙を出した。
アドフルは驚いていた。
「余計なお世話でしたか?」
僕はきいた。
「いえ。シオン様にも心配をかけていたのを気付きませんでした」
アドフルはいった。
「僕はできることをしているだけです。気にしないでください。それに、必要なければ捨ててください」
「いえ。ありがたくいただきます」
エルトンは紙を両手で取った。
「これで、苦手だと言い訳はできなくなったな」
エルトンはアドフルの肩を叩いた。
「そうですね」
アドフルは苦笑いを返した。
僕はアドフルとエルトンの間で、なにがあったのかわからなかった。だが、一つぐらいの進展はあったようだ。
いつものようにカリーヌたちがいるガーデンルームに入る。
「お邪魔します」
「よう。競馬の話はないのか?」
アルノルトはいった。
「まだ、ないですね。もう、一、二か月はかかると思います。基礎工事は終わっているはずですから」
「むう。早く行きたいぞ」
アルノルトはほほをふくらませた。
僕はいつもの席に座った。
「シオン。南の香辛料の栽培だけど、問題が出たわ」
レティシアは不安をのぞかせながらいった。
「邪魔が入りましたか?」
「ええ。今回は衛兵が止めてくれたんだけど」
「結界を張りますか?」
僕は報復を考えるが早いと思った。
「その前に相手を突き止めるわ。前と同じでマッシミリアーノ・アストーリ公爵だと思うわ。あの家は香辛料の栽培で存続できているから」
「その公爵には死活問題と?」
「ええ。だから、なりふりかまわないのよ」
レティシアはため息をついた。
「やっかいですね。菜園を拡張して、量を作ればよいのに」
「そう簡単な話ではないわ。南の地は辺境よ。魔獣とか危険が多いのよ」
南の地は人族の支配地域が少ない。暑さもあるが、単純に巣くっている魔獣が強いからだ。北と同じように、人族は進んで開拓していなかった。
「それで、香辛料が高いんですね。ゴーレムでも作りますか? いくつか問題がありますが」
「それなら、衛兵の数を増やすわ。
「南の地を開拓は、さらに開拓できなんですか? 邪魔をされても、大きければ小さな問題に収まります」
「それができたら、シオンに相談しないわ」
開拓は難しいらしい。他の方法を探すしかない。
「警備用の使い魔はりいますか?」
「そんなのあるの?」
「作れると思います。作るなら導師に相談します」
「それなら、お父様から正式に頼むわ。あとでお願い」
「わかりました」
仕事の話が終わり、一息の沈黙が降りた。
「ところで、情報商戦は結果が出ましたか?」
僕はエトヴィンにきいた。
「ああ。それなら、決まったようなものだね。生き残ったのは、五大新聞と呼ばれているよ。アルノルトとレティシアのところも含まれている。後は規模は小さいが複数あるよ」
アルノルトは自慢したいのが顔に出ていた。レティシアは冷静を装っているが口元はほほ笑んでいた。
情報商戦に生き残るだけでも厳しいのに、この中から二人も出るとは思いもしなかった。
「なにか祝った方がよいですかね?」
僕はエトヴィンにきいた。
「がんばったのは親だからね。僕たちだけががんばっていない。必要ないと思う」
「おい! 勝ち残ったんだ。お祝いぐらいして欲しいぞ」
アルノルトはいった。
「気持ちはわかるが、がんばったのは親とその従業員だろう? ここでの情報はお金になっていないと思うよ」
エトヴィンはいった。
「そういばそうね。ここでの情報は持ち帰っても、他の従業員が確認を取っていたわね。あれは信用されていないとガッカリしたわ」
レティシアはいった。
「まあ、年齢が年齢です。大人から見たらあやしいうわさに聞こえるのでしょう」
僕はいった。
「それが悔しいのよね。もっと早く大人になりたいわ」
レティシアは不満そうだった。
年齢の問題は時間しか解決してくれない。今はガマンするしかないようだ。
「ところで、カツサンドかとんかつって知っている?」
カリーヌはいった。
「おう。うちは知っているぞ。だけど、作れないけどな」
アルノルトはいった。
「私も知っているわ。でも、肝心のソースができていないと聞いたわ」
レティシアはいった。
「うちのコックがソースを作ったの。試食して。少し時間がかかるけど」
カリーヌはそういうとメイドを見た。
メイドはうなずいて部屋から出て行った。
おそらく、試食品を取りに行ったようだ。
僕たちはその間、トランプをして遊んだ。
しばらくして、出てきたのはカツサンドである。
メイドはおやつ代わりにみんなの前に並べた。
「食べてみて」
カリーヌはいった。
僕は一つ取って見る。
カツではあるが、ソースは赤かった。
僕は口に入れる。ソースはトマトソースのようだ。
僕にはとんかつソースは黒というか、茶色を濃くした黒である。違うのが残念である。だが、カツにもトマトソースは合っていた。
「シオン。どう?」
カリーヌにきかれた。
「トマトソースもおいしいですよ」
僕はいった。
「トマトソースは違うのか?」
エトヴィンはいった。
「僕の記憶だと、黒に近いほど、色々なものを煮込んでいました。あれのマネをするのは難しいです」
「シオンはなにが入っているのか知っているのか?」
「いえ。リンゴと玉ねぎなど種類は多いです。トマトも入っていると思います。僕には再現できないので、ノーラに任せました」
「そっか。複雑な味なんだ。料理って難しいね」
カリーヌは残念そうにいった。
「あのソースを作れたら、調味料として店に並べられます。それほど、難しいので気を落とさないでください。僕がわがままをいっているだけですから」
「でも、シオンには満足して欲しいわ」
カリーヌは残念そうに手にしたカツサンドを見ていた。
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