第352話 とんかつと使い魔
朝はサンドイッチが定番になりつつあった。ノーラは色々な具を考えついたようで、定番から冒険をしたものと多くの種類が出てきた。
「ノーラ。最近の流行りはサンドイッチなの?」
僕はきいた。
「はい。買い物仲間のみんなには色々と教えてもらいます」
どうやら、ジスランのところだけでなく、他にも目をつけた貴族やコックがいるようだ。
僕には種類が増えるのでうれしい話である。
「なら、今度はカツサンドを教えるね」
「どのようなものですか?」
ノーラはすぐに食いついた。
「豚の厚切りをパン粉でまぶして揚げたものだよ。ソースをつけてパンで挟むんだ。でも、揚げたのはステーキ代わりにとんかつとしても出せるけど」
「なるほど。食後に教えてください」
「うん。魚でもエビでもできるから、覚えると料理の幅は広がるよ」
「はい。かしこまりました」
僕は導師の視線を感じた。
導師に視線を向けるとあきれているようだ。
「シオン。食文化を進めるのはよい。だが、加減を知っていくれ。おまえは急ぎすぎる」
導師はなにかに危機感を持っているようだ。
「……はい。ですが、忘れないうちにいわないと、記憶から消えていきます」
僕の前世の記憶は歳と共に薄れつつある。忘れるのも時間の問題だと危機感があった。
「そうだな……。紙を渡す。それに書いて保管してくれ。食文化は色々とでき過ぎて混乱している節がある」
「では、揚げ物で止めておきます」
「そうしておくれ。王都には新しいものができすぎてあわただしい。それにジスランの競馬もでき上がるのは時間の問題だからな」
「そうでしたね。でも、王都では経済活動が活発して、国はもうけているのでは?」
税金の率は知らないが、公庫にお金は落ちていると思う。
「宰相は喜んでいたな。他の国からも王都に来るらしいからな」
導師は喜んでいなかった。
「問題でもあるんですか?」
「ああ。治安が悪くなっている。まあ、人が増えれば当たり前だが」
「衛兵は足りてないのですか?」
「よく募集をかけているようだ。人手不足なので、平民からも募集している」
僕が思ったより王都の光は強くなり、反対に影が濃くなったようだ。
「解決法はありますか?」
「これというような方法はないな。地道に改善するしかない。おまえならどうする?」
「どうにもできません。衛兵を増やすか、最低限のルールを敷くしか思いつきません」
「そうか。おまえでも無理か」
「はい。治安は人の意識が改善しないと、回復はしないと思います」
「そうか。その線で宰相と話してみる」
なぜか僕に意見が採用されていた。
国を動かす大ごとに僕の意見が入るのはおかしいと感じる。僕はこの世界を知り始めたばかりである。にも関わらず、影響力があるのは異常に思えた。
僕はノーラにとんかつの作り方と揚げ方を教えた。二度揚げと余熱で火を通す方法を教える。豚肉はきちんと火が通ってないとお腹をこわすからだ。
それから、その応用で串カツやコロッケ、メンチカツなどを教えた。
ノーラは感激していた。試食するノーラはほほを赤くしている。本当にうれしそうだった。
しかし、一つ問題があるソースのレシピはわからない。リンゴなどを入れるのだが、なにが原材料かわからなかった。
そのため、ノーラに任せることにした。ノーラならとんかつに合うソースを作れると思う。それにできなくても、ノーラの買い物仲間が作ってくれると思った。
午前の勉強は読み書き計算である。
歴史のことをきいたのだが、今は必要ないらしい。それよりも、使い魔の機能向上をいわれた。
人型は他人に自分の力量を見せるために必要だと、家庭教師のギードは力説する。しかし、使い道のない人型ではやる気は失せる。自分でもわかるように、進みは遅かった。
「使い魔の魔法使いがドラゴンブレスを出せれば、誰も文句はいいません」
僕はそんなものかと思う。
ドラゴンブレスを使えるようにするのは簡単である。もちろん、ドラゴンシールドも。
僕は淡々と作業に徹した。
やる気が起きない。それに尽きた。
僕は面倒くさくなった。
魔法の自習時間に使い魔を徹底的に改造した。もう、ギードから文句が出ないように。
僕は一時間だけだがやり切った。
使い魔の魔法使いはドラゴンブレスとドラゴンシールドを使えるようにした。そして、剣士と戦士の刃はドラゴンシールドの鋭利な刃にした。もちろん盾もドラゴンシールドだ。
回復の僧侶は再生の魔法を使えるようにした。これで、剣士と戦士が倒れても、僧侶は再生の魔法で生き返る。そして、魔法使いは遠距離からドラゴンブレスで削れる。
ギードに見せれば納得するだろう。
もう、僕は使い魔をいじる気にはなれなかった。
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