第二十五章 結界とトンネル

第350話 お土産

 カリーヌの家に行った。

 カリーヌの無詠唱魔法の家庭教師と、僕のダンスの練習にためである。しかし、今は遊びの時間でしかなかった。

 玄関に入ると、執事に迎えられて、メイドの後についてガーデンルームに行った。

「お邪魔します」

 ガーデンルームに入った。

「よう。仕事は落ち着いたか?」

 アルノルトはいつものようにあいさつする。

「はい。一段落しました。今は様子見です」

「それより、浮島でしか手に入らないアイテムがあると聞いたわよ」

 レティシアは不満そうな顔をしていた。

「キーホルダーとキーストラップですね。貴族はお土産を買わないと思って出さなかったです。必要でした?」

 僕はいつもの席に座った。

「必要はないけど、欲しいわ」

「なら、ありますよ」

 僕は空間魔法の倉庫から取り出した。

 キーホルダーとキーストラップを出す。色は五種類ずつあるため並べてみせた。

 みんなはのぞき込むように見た。

「好きな色を、どうぞ。在庫はまだありますので、同じ色ならいってください」

 色は青、赤、黄、緑、黒である。

 みんなは好きな色をいう。僕はそれに合わせて倉庫から出した。

 四人ともうれしそうに並べて見ていた。

 空にかざして光具合を見たりしている。

「珍しいですか?」

 僕はみんなにきいた。

「ああ。カギなんか持たないからね」

 エトヴィンはいった。

「まあ、使い方はカギでなくてよいですよ。カバンにつけるなり、自由に使ってください」

「うん。ありがとう」

 カリーヌはうれしそうに笑った。

 みんなにもお礼をいわれた。

「なあ。新しいお土産もできると聞いている。それも浮島でしか手に入らないのか?」

 アルノルトはいった。

「はい。お土産ですから」

「それって、レアだろ?」

「そうですかね? 平民でも気軽に買える物です。持っている人は多いと思いますよ?」

「でも、浮島に入れないと買えないのは厳しいわ。貴族の日の予約は一か月先まで埋まっていると聞いたわよ」

 レティシアはいった。

 家業が新聞屋である二人には、情報は筒抜けのようだ。

「はい。ですが、半年もすれば、客の数は落ちますよ。今は新しいから注目されているだけです。浮島があることに慣れれば、客も少なくなります」

「そうなの?」

 カリーヌにきかれた。

「ええ。お城は珍しいと思いますか?」

「思わないわ」

「それと一緒です。あるのが当然と思ったら、観光地ではなくなります」

「でも、他国からも見に来ているみたいよ?」

 レティシアはいった。

「そうなんですか? 他国には広告を出していないんですが」

「人族が初めて手に入れた浮島よ。ウワサにならないわけがないわよ」

「そうでしたね。忙しくて忘れていました」

「シオンは仕事のしすぎ」

 カリーヌに笑われた。

「今度、他国の高官が見に来るそうよ。その国の王様が観光してみたいらしいわ」

 レティシアは楽し気にいった。

 僕の反応を楽しんでいるようだ。

「王様ですか……。また面倒ごとになりそうです。当分やめて欲しいですね」

 レティシアはクスリと笑う。

「まだ、ウワサよ。それに、他国の王様が来たら大ごとよ」

「そうですね。忙しいのはかんべんして欲しいです」

 僕は紅茶を飲んだ。

 変わらず、色々とブレンドしてあって同じ味でない。それなのにおいしい。

「シオンは勉強しないのか?」

 アルノルトはいった。

「してますよ。読み書き計算。後は魔法ですね」

「歴史は?」

 僕は首をかしげた。

 歴史など知らない。

「必要なんですか?」

 僕はきき返した。

「必要みたいだぞ。家庭教師にはうるさくいわれる」

 導師の方針とは違うようだ。

「導師が宮廷魔導士からですかね? 魔法のことはうるさいですけど、他はゆるいです」

「私も歴史は習わないわ。その代り、貴族の勢力図を覚えさせられる」

 カリーヌはいった。

「私は歴史は習うな。でも、力を入れていない。こんなことがあったのを知ればよいらしい」

 エトヴィンはいった。

「うちもそうよ。ざっとだけ習うだけ。まあ、家庭の方針の違いね。シオンは魔法に力を入れるのは当然。ランプレヒト公爵は宮廷魔導士ですもの」

 レティシアはいった。

「そうですね。昔は導師の頭には魔法のことしかないと思ってましたから」

 僕はいった。

「昔が異常なのよ。公爵家で執事もメイドもいない。いるのは助手だけ。貴族の道楽でもないわ」

「そのおかげで、導師には会えたんですけどね」

 僕は親である導師を恥ずかしく思いながら、運命の幸運に照れ笑いをした。

「そのおかげで、私はシオンと会えたわ」

 カリーヌはうれしそうにほほ笑んだ。

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