第348話 開放後

 その後も、貴族専用の開放日は続いた。

 やはり、なにかしらトラブルが出てくる。

 トイレが長いとか、座るソファーがないなど数えきれないほどだった。

 ヒルデベルトは対応しようとするが、場慣れしていない。僕はコールの魔法で助言するが、解決できないことは多い。そのため、導師を呼ぶことが多かった。

 僕では年齢と身長が足りない。それと、爵位も中途半端である。そのため、係員以上のことはするなと導師にいわれている。それに、暴力で解決する問題はほとんどないので、魔法を使うことは少ない。使ってもゲートとぐらいだった。

 わかったことは、貴族はわがままな人が多いということだ。

 導師の派閥の貴族は矜持があるようで、変なわがままもなかった。そのため、トラブルなどないに等しかった。

 導師の派閥はまともな人が多い。それが、この一週間で理解できた。

「お疲れ。おまえから見て貴族に対する感想は?」

 導師は人がいなくなった浮島でいった。

「わがままな人が多いです。それと、常識がないです」

「そうだな。爵位にあぐらをかいている人間が多い。私の派閥はそれを嫌っている。シオンも気をつけろよ。油断すると、あのような貴族になる。魔は心のすき間から入ってくるからな」

「はい。友達にはあきれられたくありません」

「そうだな。では、下に行って、みんなに次の仕事の話をしよう」

 導師はゲートの魔法を使った。そして、中に入った。僕も続いて中に入った。


 一般開放の日まで三日ほど空けた。

 三日の間に宣伝する。そして、設備を見直すためだ。

 一日目は掃除をして終わった。そして、ヒルデベルトをのぞく従業員には休みにした。働きすぎでブラック企業にはしたくはなかった。

 ヒルデベルトには悪いが、働いてもらう。

 導師と僕の仕事を見せて仕事を覚えてもらうためだ。

「では、ソファーとテーブルを変える。貴族とおそろいでは貴族から文句がでる。それと、お土産コーナーを作る」

 導師はヒルデベルトにいった。

「物は届いていませんが?」

 ヒルデベルトは周りを見た。

「それなら、ある。シオン。頼む」

 僕は空間魔法の倉庫から木のイスを大量に出した。

「片づけるのが先だ」

 導師は苦笑いを浮かべる。ヒルデベルトが驚いているからだ。

 僕はすべてのテーブルとソファーを念動力で動かす。そして、空間魔法の倉庫にしまった。そして、テーブルを出して、念動力で配置する。すると、導師は先に出したイスを念動力で並べた。

 僕は空いている一角に、台を置いて土産物コーナーを作る。台に並べられたのは浮島を横から見たキーホルダーと、浮島の形に穴が開いたストラップである。

 お土産の種類はもっと多く置きたいが、時間がない。今後に職人と話して種類を増やす予定である。

「では、次に行こう。トイレは昨日交換したが、追加でもらってきた。これで、女性の方は少しは解消できるだろう」

 導師はトイレを五つ出した。女性の方は十になる。男の方は五でよいらしい。

「今後もトイレは増やしますか?」

 僕はきいた。

「三日から一週間で増やすか決める」

「わかりました」

「後は望遠鏡を二つ増やす。今は作ってもらっている最中だ。できしだい、設置する」

「はい。後、ガラスの床はどうしますか? 貴族は子供しか使わなかったようです」

 僕はいった。

 ガラスの床が壊れないように出入口を狭めて作ってある。これは体重が重い人を入れないためである。なので、入るには大人はひざを着かないとならない。

「それも、様子見だな。人気がなかったら撤去でよいだろう」

「そうですね」

「ヒルデベルト。なにか要望はあるか?」

 導師後についてくるヒルデベルトにいった。

「いえ。ありません。……それより、あのように魔法を使えないとならないですか?」

 ヒルデベルトの声は心細かった。

「ん? なんの話だ?」

「休憩所のイスやトイレです。僕は魔法が苦手です。あのようにはできません」

「ああ。それなら、気にするな。一般開放の試しが終われば、設備は定着させる。それまでは私とシオンが力任せにやっているだけだ。魔法を鍛える必要はない。それより、貴族のわがままをかわす方法を身に着けてくれ。今後はおまえに任せたいからな」

「できるだけ、がんばります」

 ヒルデベルトは自信はないようだ。

「まあ、貴族のわがままだ。私が出ないとならないこともある。その時は臨機応変に対応してくれ」

「かしこまりました」

「あっ。お帰りの音楽は流さないのですか?」

 僕は思い出して導師にいった。

 導師は首をひねる。

「帰る時間がわかるように同じ音楽を流すんです。『三十分以内にお帰りください』といって、音楽を流して誘導します」

「なるほど。魔道具屋に急いで作らせる。ヒルデベルト」

 導師はいった。

「はい!」

 ヒルデベルトは緊張した。

「帰りの知らせと音楽はおまえが流すように」

「わかりました。時間はなにで計ればよいのですか?」

「それなら、懐中時計を渡す。後で持ってくる」

「かしこまりました」

 ヒルデベルトは懐中時計と聞いてうれしそうだった。

 懐中時計は金持ちの証のようなものだ。借りるとしてもうれしいのだろう。

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