第347話 貴族の開放日
貴族限定の開放日になった。ゲートを開く屋敷の玄関には、何台もの馬車が並んでいた。
僕は雑用係として職場に入った。
きちんと、係員の腕章をしている。
客である貴族は僕を見ても気付かないようだ。ゴミを渡されて捨てるようにいわれた。
僕は下男の頃を思い出しながら、雑用係に徹した。
外ではケンカが起きている。
先を譲るくらいの気品さはないようだ。醜い争いが起きていた。
僕は静かにその光景を見ながら、貴族を観察する。侯爵以上は名前を名乗るだけで譲られる。しかし、それ以下の伯爵や子爵ではケンカが起こっていた。男爵は一番下なのか道を譲ることが多かった。
僕も伯爵なのでケンカをする側のようだ。だが、収容人数は決めてあり、ここに並んでいる貴族は入れる。それなのに、ケンカをする意味がわからなかった。
僕はその様子を眺めていた。
一時間もすると、大方の人数はゲートの魔法で浮島に移動したようだ。
僕は接客係にいって、ゲートに入り浮島に移動した。
ゲートから出ると、平和だった。こちらではケンカはしないようだ。
望遠鏡を順番に並んで待っていた。だが、並んでいるのはメイドである。貴族は自由に景色を見ているようだ。そして、順番が来ると変わるようである。
僕には予想通りであるので、気に留めなかった。
それより、トイレである。これが問題だった。身分と関係なく列を作っている。女性の方は足りないようだ。だからといって、足すに移動式トイレはない。今日はガマンしてもらうしかなかった。
僕は移動した。
景色でなく浮遊石を目的にした泥棒予備軍を見に行った。
騎士は柵の前で立っているが、泥棒予備軍には関係ないようだ。ギラギラした目を柵の外に向けている。そして、騎士の目を盗んで柵を乗り越えようとしている。
浮遊石の結晶はすべて刈っている。なので、残りはない。休憩所に飾られた浮遊石しかなかった。
しかし、泥棒予備軍には関係がないようだ。
騎士の目を盗んで柵を飛び越えた。そして、結晶があった場所に行くとノミを地面に突き立てた。
僕は念動力で三人の行動を止める。そして、騎士が駆けつけるのを待った。
騎士は引退しても騎士である。力仕事は任せられた。
三人は地上に運ばれた。その代りヒルデベルトが現れた。そして、問題児を連れた侯爵と話している。しかし、話はまとまらないようだ。なぜが、ヒルデベルトは僕を見る。僕は係員の腕章を見せた。しかし、ヒルデベルトは僕に助けて欲しいようだ。
『導師。問題が出ました。浮遊石の盗みです。相手は侯爵です』
僕は導師にコールの魔法を飛ばした。
『わかった』
導師は簡潔にいうとコールを切った。
そして、次の瞬間にゲートは開いて導師が現れた。
「相手は誰た?」
僕はヒルデベルトの方に目を向けた。
導師はずんずんと歩いて行った。僕は後に続いた。
「こんにちは。ここを管理しているランプレヒト公爵である。断りもなく盗みを働いたと聞いた。本当なのか?」
「何かの間違いです」
「では、私の雇っている係員や騎士はウソをついているというのか?」
「そうではありません。何かの間違いです」
「どう違うかききたい。私の息子であるシオン・フォン・ランプレヒトがウソをいったと?」
侯爵は見回した。
「どこにいるのでしょうか?」
「いうわけないだろう。次の対策をされるだけだ。おまえには窃盗で衛兵に捕まえてもらう」
「私は侯爵だ! そんなあつかいを受ける覚えはない!」
「残念だが、ここは私の領地だ。私が規則なんだよ」
侯爵は周りを見る。
ゆっくりと来る白髪のおじいさんを見ると安心していた。
「こんにちは。子であるこやつが何かしたか?」
「ええ。窃盗未遂です」
「では、盗んだ証拠はないんだな?」
「証言ならありますが?」
「そこら辺の草がなにをいおうと関係ないな」
「では、なにをしてもよいと?」
「そのための爵位だ。人ではない雑草には用はない」
「では、そのように対処します」
導師はヒルデベルトにコールの魔法で命令を出した。騎士たちがやってきて、二人の侯爵と公爵を力ずくで押さえた。
「なにをする! 私がわからないのか?」
おじいさんは怒っている。初めて、ぞんざいなあつかいを受けたようだ。
「私にとってはあなたは雑草です。爵位など生まれを示しているだけですから」
導師は冷たい目でいった。
「こんなことをしてタダですむと思うなよ」
「貴族としての覚悟はありますよ。いつでも手袋を投げてください」
おじいさんは手袋を投げずににらんでいる。だが、動こうともしない。
「連れていけ」
導師は控えている騎士に命令した。
騎士はおじいさんの肩に手をかける。
おじいさんはその手を払って、出口に向かって歩いて行った。
「これだから、貴族は嫌いだ」
導師はボソッという。
「シオン。こんなことが一週間は続く。覚悟してくれ」
導師には今回の騒動は日常のようだ。
だが、よく周りを見ると、他の貴族はちらりと見ただけで、自分たちの観光に戻っていた。
他人のケンカには慣れているようだ。
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