第330話 好奇心

 ガーデンルームに入るとアルノルトはいう。

「よう。今日は遅いな。なにかあったか?」

「お父様とスロットの話をしました」

「それって、新しく台ができるということか?」

「はい。当たる線が三つになるスロットです」

 僕はいつもの席に座った。

「確率は三倍になるのか?」

「そんな単純なものではないだろう?」

 エトヴィンはいった。

「だけど、確率が上がっていても不思議ではないぞ」

 アルノルトは熱くなっていた。

「希望はわかる。だが、夢見て裏切られても知らないぞ」

 エトヴィンは冷静だった。

「シオン。どうなんだ?」

 アルノルトは真剣な顔だった。

「確率は変わるかもしれません。ですが、魔道具屋との話し合いで変わります。少なくとも総合的な確率は変わらないと思います」

 僕はいった。

「勝てる確率は上がらないのか?」

「おそらく。ですが、長い時間楽しめると思います。子役でもメダルは戻てくるのですから」

「一攫千金が望めるのか?」

「大当たりすればですけどね。スロットはパチンコよりも当たり外れが大きいです」

「なら、オレ向きだな」

「その自信はどこから出てくる?」

 エトヴィンはツッコんだ。


「今度、辺境の森に行くのは決まりましたか?」

 戦闘の稽古の帰りにエルトンにきかれた。

「それが、未定で。宰相から導師にも連絡がありません」

「外交は難航しているのでしょうか?」

「許可を求める国は多いです。時間がかかっても仕方がないと思っています」

「……となりの国の様子が変なのです。今にでも戦争をするかのように武器や食料を買っています」

「となりは神霊族の息がかかっています。どのように動くかわかりません」

「シオン様でも読めませんか?」

「ええ。神霊族は僕に会っても敵意を向けません。敵対しているのなら、敵意を向けられるとわかりやすいのですが、それがありません。それとも、僕の存在は小さすぎると、無視しているのかもしれません」

「神霊族の考えは人とは違うようですね」

「ええ。ですが、『早い』といわれました」

「神霊族と話したんですか?」

「二言だけ聞きました。『早い』と『外』です」

「順当に考えるのなら、外の世界は早いということになりますね」

「僕もそう思います。ですが、人族は外の調査に乗り出しています。手を引くことはないでしょう」

「はい。外の世界があるのを知った。それは安全が保障されていないということです。未知とは好奇心を満たすだけでなく、危険でもありますから」

「やはり、調べないとならないですね」

「はい。クンツにはそれがわかっていません」

「そうですね。遅かれ早かれ手を出すのです。クンツさんは男爵でもあります。待っていれば、最初の切符をもらえるでしょう」

「はい。その通りと思います」

「エルトンさんはそのことをクンツさんにいわないんですか?」

 僕は笑いそうになりながらいった。

「試さないでください。察しないクンツが悪いのです。それに浮かれさせたら、実験を早めろと催促されます」

「そうですね。これは内緒でよいですね。クンツさんは優秀なので、少しぐらい欠点があってもよいでしょう」

「シオン様はお優しいですね。ですが、大きな欠点は知っているでしょう?」

「好奇心が強すぎるところですか?」

「はい。それは行動力を与えてくれますが、危険でもあります。冒険者なら当然の心構えなのですが、危険や死を自覚していないと思います」

「優秀さゆえの欠落ですか?」

「そうですね。ですが、それで通るほど世界は優しくありません。最初の失敗が死を招きます」

 エルトンはエルトンでクンツを心配しているようだ。

「それは痛い目を見ないとわからない話ですか?」

「はい。しかられて理解するほど、子供ではありません。もう、一人の大人なのです」

「そうですね。指摘しても理解してくれないと思います」

「相手も大人です。責任の取り方も知っているでしょう。シオン様が悩む問題ではありません」

「そうですね。僕はできることをするだけです」

「シオン様は隠すことを考えてください。ふつうの人ではできないことをできるのですから」

 僕はそれほど特殊なことはしてないと思っているが、周りの目は違うようだ。

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