第328話 合格点

 騎士団の練習場に稽古のために向かった。

「浮島の調査が進んだと聞きました。観光地になるのは時間の問題ですか?」

 エルトンはいった。

「ええ。導師はがんばっています」

 僕は答えた。

「それなんですが、きっと王も招待を希望すると考えられます」

「そうですね。その時までには設備を充実させる予定です」

「それで、前準備として、宰相ら高官の貴族が派遣されると思います」

「そうなるのですか?」

「はい。安全を確保しないとならないです」

「王を呼ぶ前に宰相には来てもらう予定です。その前に安全を考えて、設備などを充実しないとなりません」

「はい。護衛の騎士も派遣されます。大人数で押しかけると思います」

「それは恒例と聞いています。覚悟はしています」

「なら、安心しました」

「その前に、エルトンさんとアドフルさんには来てもらいますよ。騎士の観点から見て欲しいですから」

 エルトンは驚いた顔をした。

 アドフルを見ると同じようだ。

「うちのメイドも気軽に往来しているんです。二人には来て欲しいです」

「ありがとうございます」

 エルトンは頭を下げた。

「いえ、これも仕事と思ってください」

 僕はエルトンとアドフルにいった。


「よう」

 練習場での稽古中にクンツは現れた。

 エルトンは急いでクンツの足元にひざを着く。そして、クンツの足を止めた。

「今日はどうしたんですか?」

 僕はエルトンの背後に立った。

「浮島で肝心の話が後回しになっている。進んでいるかききたい」

 外への話は浮島の衝撃で薄くなっていた。宰相も忘れているのかもしれない。

「次は大人数の大規模魔法を試します。それの日程の調整で遅れているのでしょう」

「浮島で忘れ去れていないか? そんな話は聞かないぞ?」

「導師から宰相に話が通っているはずです。準備ができるのを待つしかありません」

 クンツは不快そうな顔をする。

「なら、よいが、ランプレヒト公爵は浮島の管理で忙しいと聞いたぞ」

「ええ。ですが、大規模魔法の呪文はできています。後は実地で試すしかないので、空いた時間を使っているだけです」

「お役所仕事で遅いのか?」

「さあ? そこまではわかりません。少なくとも宰相は承諾したとは聞いていません」

「そうか。おまえでも聞いてないか……」

「はい。あくまで、障壁の先は新しい遺跡でしかありませんから」

「ああ。そうだったな。忘れていた」

「それと、国家間の調整が必要です。長くなると思います」

「そうなのか? 足並みをそろえなくても問題ないだろ?」

「それは宰相の考えによって変わります。僕にはわかりません」

「わかった。少し様子を見る。新しい情報があったら連絡してくれ」

「ええ。ですが、次も実験です。ですので、次も教えませんよ」

「わかっているって。大人しく待つよ」

 クンツは手を振って帰って行った。


「クンツさんがしびれを切らしているようです。催促がありました」

 僕は夕食の席で導師にいった。

「そうか……。だが、準備ができていない。待ってもらうしかないな」

「他国との調整ですか?」

「それもある。それに魔法使いの人材の育成が急務らしい」

「魔術師でも使えるのでは?」

「魔術と魔法で使う魔力量は違う。それで、決定的な差ができたようだ。それで、魔術師を魔法使いにしたいらしい」

「宰相はそんなことも考えているんですか?」

「そのようだ。それと、高官の貴族だな。魔術と魔法の威力の違いは衝撃的だったらしい」

「そうですね。僕でもすぐに魔法に切り変えましたから」

「まあ、前時代は魔術師でなく魔法使いだったんだ。今まで楽していたツケだな」

 導師は苦笑いを浮かべた。

「宰相は外には否定的なのですか?」

「わからないな。各国とやり取りしているが、足並みはそろってないようだ」

「では、外は当分先になりますね」

「そうだな。ジスランの進めている競馬の方が早いかもしれない」

「その前に浮島では?」

「かもしれん。考えたくないが、順調に進んでいる。なにかしたか?」

 導師は僕の顔を見た。

「なにもできませんよ。抗議します」

 導師はクスッと笑う。

「まあ、よい。観光を早めてもジスランから文句は出ない。王を招待する頃には、問題らしい問題はなくなるだろう」

 観光地の合格点は王を招くことができれば十分らしい。

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