第327話 島の解析

「シオン。近い内に採用試験をする。おまえも審査に付き合ってくれ」

 導師は朝食の席でいった。

「なんの採用試験ですか?」

 朝が苦手な僕には頭が回らなかった。

「浮島の管理人だ。ロドリグに頼んで見つけてもらった」

「それって、僕が必要ですか? 執事を選ぶようなものでしょう?」

「魔法も使えないと困る。セーフティーネットは常時展開してもらわないとならない」

 島からの落下に対して安全装置がある。それは、魔力が貯められないので、管理人に張ってもらわないとならなかった。

「執事のような管理人とは別に頼んだ方がよいですよ」

「その管理人を選ぶんだ。一人でも島の管理ができないと困る。私たちがいない時に働いてもらうからな」

「島の管理人であって、観光の管理人ではないのですね?」

「そうだ。だから、シオンも審査に付き合ってくれ」

「わかりました。それと、観光の方は?」

「まだ、必要ないな。島の制御の安定が先だ。それはこれから選ぶ管理人にも任せられない」

「では、管理人を選ぶのは早いんですね?」

「ああ。思ったより、早く制御ができる予定だ。その時には居て欲しい。私も休みたいからな」

 導師は浮島が来てから忙しい。島の解析と制御に一日の大半の時間を使っていた。

「僕も浮島を解析しないでよいですか?」

「そうだな……。空いた時間に頼む。カギ付きのゲートの呪文できたからな」


 僕は勉強を終えると、空いた午前の時間を使って、浮島の解析をした。

 僕は魔道具と同じように、浮島に魔力を流す。そして、力の動きなどを魔力で感じた。

 思ったより簡単な構造だった。だが、そうでなければ、この大きさの島は浮かせられないだろう。

 広さを測ると学校の敷地ほどである。思ったより狭い。

 これなら、管理人の魔力量は少なくとも問題ない。魔法使いを名乗れるのならできる範囲だった。

 予想では二人の管理人がいれば十分だろう。

 ガラスの家で休んでいる導師のもとに行った。


「導師。解析が終わりました」

 導師はガラスの家で、ビーチ用のリクライニングチェアに横になっていた。

 どうも、疲れているらしい。

「ん? 解析できたのか?」

「ええ。魔道具と一緒です」

 導師は不満そうな顔をした。

「シオン。こちらに来い」

「なんですか?」

 僕は導師の横に立った。

 導師は僕の首に腕を回して締めた。

「私が苦労して解析しているのに、一日で終わらすな」

 導師の腕は首に食い込んだ。

 僕は苦しくて腕を叩いた。すると、すぐに腕は解けた。

「理不尽です」

 僕は抗議した。

「私の苦労を考えろ。あっさり解析されると、立ち直れなくなる」

「まあ、わかりますが……」

「不満だが、まあよい。それで解析結果は?」

「構造は単純です。導師が難しく考えているだけです。浮遊石がマナを吸い込んで浮遊しているだけです。それと、結界は別に動いています。核になるものがあります。これは世界を区切る結界と似ています」

「結界は解析してある。だが、浮遊は解析ができていない。本当にマナだけで動いているのか?」

「はい。浮遊石は魔力でなくマナで動いています。マナの流れを知ればわかります」

「なるほど。魔力でなくマナか。忘れていたな。結界と同じでマナで浮遊していると思わなかった」

「そうですね。人族の使う浮遊石は魔力で動いていましたから」

「まあ、これで、最低限の準備はできる。近い内におまえの友達を呼ぶ。それで、今後の施設や整備の案を出してもらおう」

「はい」

「おまえも休め。私は疲れた」

 僕はガラスの家の中に、リクライニングチェアを出して寝っ転がった。

 昼食は導師のわがままで浮島で食べることになった。

 しかし、高所である。高ければ高いほど、水の沸点は下がる。そのため、ノーラの持ってきた水筒の熱い紅茶が沸騰して惨事になった。


 僕はいつものようにカリーヌの家に行った。

 メイドに連れられてガーデンルームに入った。

「よう。今日はなにもなかったのか?」

 アルノルトはいった。

「浮島の制御は近い内にできます」

「おお。それは早いな」

 僕はいつもの席に座る。

「それで、みんなには島に必要な設備や整備をききたいのです」

「おお。任せろ」

「その時はお願いしますね」

「それって、浮島に行けるの?」

 レティシアはいった。

「ええ。導師はその予定です」

「おっしゃっ!」

 アルノルトはガッツポーズをした。

「まだ、予定であって決まっていません。最低でも一か月は待つと考えてください」

 僕はこんなにも期待されるとは思わなかった。

「でも、浮島よ。みんな行きたいと思うわ」

 カリーヌはいった。

「……そうですね。景色はいつもきれいでした」

 僕は浮島に慣れてしまったようだ。

「ねえ。記事にしてよい?」

 レティシアはいった。

 僕は考える。期待だけ持たして失敗を考えていない。

「それは導師の許可が必要です。責任者ですから」

「では、待つとするわ」

 レティシアはそういったが楽しそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る