第二十四章 宮廷魔導士と浮島
第326話 ケンカの後
浮島の管理は導師に任せた。
導師は使い魔を浮島のために作ったり、使用人を探している。
浮島の制御は邪魔がないため、順調に進んでいた。
僕は邪魔しないように、カギ付きのゲートの魔法を呪文にしている。
呪文化は何度やっても慣れない。言葉を探し、何度も石板に書いては消すのを繰り返した。
僕は日常を取り戻し、カリーヌの家に遊びに行った。
だが、家長であるジスランに迎えられた。
「あのばあさんたちに一矢報いたらしいね。楽しませてもらったよ」
ジスランも公爵だ。名前など出さなくてもわかっているようだ。
「僕が勝手にやったことです。問題はありましたか?」
「特にないよ。あのばあさんたちがやりすぎていたんだ。不快に思っていた公爵はいるよ」
「そうでしたか。まあ、後悔はしてませんが」
「うん。そうだね。そうでないと貴族は勤まらない」
ジスランは認めているようだ。
「ところで、今日は案件があるのですか?」
僕はきいた。
「君を必要とする案件はないね。順調に進んでいるよ。今日はおもしろい話を聞いたので来たんだ」
「それほど、おもしろかったですか?」
「うん。僕もあのばあさんたちには困らせられたからね」
「お父様でも困るのですか?」
「もちろん。夫である公爵は派閥のトップだからね」
導師が強気に出れない理由がわかった。
「大人しくなると思いますか?」
「無理だね。しばらくは大人しいけど、ヒマを持て余している。また、問題を起こすのも時間の問題だね」
また、なにか無理難題を押し付けられるようだ。
「まあ、時間が解決してくれるよ。公爵はお歳だから、先は長くない。それまでのガマンだね」
ジスランはいった。
「はい。できるだけガマンするように勤めます」
「別にしなくていいよ。応援している貴族もいるんだから」
「そうでしたか。導師に力関係をききます」
「そうだね。頭に入れておいてもよいだろう。君はそれだけの力があるんだから」
ジスランは僕を買いかぶるところがある。僕はふつうの子供と変わりがないのだが。
「まだ勉強中です。お父様には色々と教えて欲しいです」
「うん。僕にできるなら。それより、引き止めて、すまなかったね。今度は新しいスロットのことを話そう」
ジスランはいった。
「はい。楽しみにしています」
僕はメイドの後に続いて、ガーデンルームに移動した。
ガーデンルームに入ると、アルノルトの第一声が聞こえた。
「よう。公爵夫人は大人しくなったか?」
「ええ。夫が謝りに来ました。今回はありがとうございました」
「いつも、楽しませてもらっているんだ。これぐらい、軽いって」
アルノルトは照れくさそうに笑った。
僕はいつもの席に座った。
「レティシアさんにもお世話になりました。ありがとうございます」
「おもしろい記事が書けたからよいわよ。それに、売れたから」
レティシアは楽しそうにいった。
「浮島の話は記事として集客力があるんですか?」
「もちろんあるわよ。人族が初めて手にした浮く島だもの。浮かんでいるのは見ることがあっても、そこには行けないわ。手の届かない宝石と一緒よ」
僕は龍族の島で慣れてしまったのかもしれない。他の人の様にあこがれは感じていない。
「浮島はいつ頃、解放できるんだ?」
アルノルトはいった。
「早くて三か月から半年らしいです。導師はまだ、完全に制御ができていません。それと、管理者を探している最中です。今は人がすごすには設備が不足しています」
「そっか。競馬より遅れるか……」
「はい。制御が完全にできれば、みんなを呼べるんですけどね。それまで、ガマンしてください」
「気長に待つとするよ。それより、新しい博打の話はないか?」
「今度はスロットですね。機能を拡張する予定でお父様と話し合いですね」
「どんな風になるんだ?」
「それはまだ内緒です」
僕はほほ笑んでかわした。
「シオン様。浮島を観光地にするのですか?」
騎士団の練習場で戦闘訓練をした帰り道で、エルトンはいった。
「ええ。本当は僕が勝手にいっていたんです。ですが、新聞に書いてもらったので、後戻りができません。今は観光地にするべく動いています」
「あの新聞はシオン様が書かせたのですか?」
アドフルは驚いていた。
「はい。知り合いに関係者がいるのでお願いしました」
「問題の公爵は、なにかいっていましたか?」
エルトンはいった。
少し心配しているようだ。
「夫の公爵は屋敷に謝りに来ました。ですが、相手は派閥のトップなので、許すしかなかったです。まあ、問題は夫人の方です。しばらくは静かにすると聞きました」
「敵にはならないのですね?」
アドフルも心配なようだ。
「カリーヌさんのお父様はおもしろい話を聞いたといっていました。大した問題ではないらしいです」
「そうですね。メイドのノーラさんに話を聞きましたが、問題ないと思います」
エルトンはいった。
ノーラは屋敷の中でもおしゃべりのようだ。
「心配かけて申し訳ありません。今回はガマンできませんでした」
「いえ。相手に痛みを知らせないと、わからない人間はいます。それに貴族には貴族のやり方があります。私たちにはわからない駆け引きです」
僕もまだ、貴族になって一年も経っていない。貴族を名乗るには早すぎるぐらいだった。
「いつもながら、面倒をかけます」
「いえ、シオン様と一緒にいると退屈しません。毎日が楽しいです」
「そういってもらえると助かります」
僕は苦笑いを浮かべた。
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