第325話 怒り

 僕は久しぶりにカリーヌの家に行った。

 そして、ガーデンルームに入った。

「よう。浮島が来てから忙しいと聞いたぞ?」

 アルノルトはいった。

「ええ。それで、記事にしてもらいたいんです」

 僕はいつもの席に座った。

「シオン。怒っている?」

 カリーヌにきかれた。

「はい。考え直したらムカつきました。それで、二人には記事にして欲しいのです」

「ん? なんだ?」

 アルノルトは真面目に聞く態勢に変わった。

 レティシアも前かがみになった。

「見出しは、『浮島で公爵家の子供が落下。責任を取り一般開放を三年後に延期』でお願いします」

「シオン。落ち着いて、よくわからないわ」

 カリーヌにたしなめられた。

 僕は浮島で起きた話をした。

 元々は調査と点検で観光はできない。それなのに無理やりねじ込んできて、文句をいって帰っていたのだ。偉いからといってガマンできるほど大人ではない。

「でも、そんなことを書いてよいの? お母様が責められない?」

 カリーヌはいった。

「王でさえ招けないんですよ。それを、立場を利用してさせたんです」

「それで、仕返しか。まあ、これで相手の評判は悪くなるな」

 エトヴィンはわかっているようだ。

「ちなみに相手の公爵は?」

 レティシアはいった。

 僕は名前を並べる。

「新聞には公爵夫人の名前を書かないでください。名前以外はよいです」

 僕はいった。

「もちろんよ。でも、ウワサはするけどね」

「よろしくお願いします」

「シオン。落ち着いて。ミルクティーよ」

 カリーヌには落ち着くまで心配された。


 新聞が発行されて、浮島のウワサは駆け巡った。

 アルノルトとレティシアの新聞屋は大手である。手に取る人間は多かった。

 関係ないと思っていた浮島は平民にも関係があることを知った。貴族のだけでなく平民にも行ける観光予定地だ。

 平民の認識は変わった。

 しかし、新聞を読むと、一部の貴族により長い期間を待たざるを得なくなった。そのため、浮島の早い開放を邪魔した公爵夫人に不満が向いた。

 それで、導師のもとに公爵夫人の夫は来たようだ。

 夫人の夫は派閥のトップであるが、プライドは高くないようだ。導師に謝罪の言葉を並べていた。

 同じ公爵でも相手の方が立場は上だ。導師は謝罪を拒めない。だが、世論はこちらの味方である。少しは夫人のわがままは減るかもしれなかった。

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