第324話 接待

 僕は玄関に続くろうかで待った。ゲートの魔法の入り口を作るためだ。

 応接室からおばあさんたちが出てきた。

「おはよう。シオン伯爵」

 おばあさんの一人がいった。

「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

 僕は手を胸に当てて、足を引いて貴族のあいさつをした。

「お上手ね」

「ありがとうございます」

「それより、あなたが送ってくれるのかしら」

「はい」

 僕は答えると、カギ付きのゲートの魔法を使った。

「こちらになります。危険なので導師を先頭にして入ってください」

「そうなの? ザンドラ。お願いね」

「もちろんです」

 導師はそういうとゲートの中に入った。

「アダーモちゃん。行くわよ」

 男の子はおばあさんと手を握ってゲートに入った。

 全員が入るのを確認した。

「では、後は予定通りにお願いします」

 僕は執事にいうとゲートの中に入った。


 僕はゲートから出ると閉じた。

 そして、見回す。

 おばあさんたちはおしゃべりもよそに景色に見入っている。

 その中でアダーモと呼ばれた男の子は走っていた。

 開放感があるからだろう。だが、危険な行為である。導師の目はその子にクギづけだった。

「アダーモ!」

 おばあさんの一人が呼んだ。

 男の子は足を止めて振り返る。

「こっちにおいで。王都が見えるわよ」

 おばあさんは手招きしていた。

 男の子はその手招きに従って走って、おばあさんのところに行った。

 男の子はおばあさんに寄り添って王都の方を眺めていた。

 その後は、狭い範囲だが、導師は島を巡った。

 もちろん危険なところには行っていない。公爵の貴族を浮島から落としたとなれば問題だからだ。

「あの青色の水晶みたいのは、なに?」

 おばあさんは欲しそうだった。

「あれはこの島を浮き上がらせる。浮遊石です。折ったりしないでくださいね。浮かんで消えますし、島を支える希少な物です」

 導師はいった。

「そう。お土産にできないのは残念だわ」

「もし、持って帰っても、天井に持ち上げて突き抜けます。使い方は難しいと思います」

「そう。管理も大変そうね」

「ええ」

 導師は顔は笑っている。だが、管理できていない今に来るな、という言葉を飲んだのがわかった。

 一通り、島を巡ると、ガラスの家に帰って来た。

「これから、昼食の用意をします。少しお待ちください」

「よろしくね」

 僕はゲートの魔法で屋敷に帰った。そして、ノーラに頼んで昼食を作ってもらった。


 僕は先に食事をすませる。

 導師と交代で見張らないとならないからだ。

「昼食のメニューです。ご確認を」

 執事に運ばれて食堂で食べた。

 食べたのはハンバーグである。特別なメニューではなかった。違うのはソースと目玉焼きが乗っているぐらいだ。

 ハンバーグに合うように何種ものソースがある。客はこれをつけて食べればいいだけである。

 ノーラが作ったものだ。まずいわけはないので素直に食べた。

 試食して、課題が残った。

 お菓子やスイーツは種類が増えた。だが、おかずが乏しい。もっと、種類が欲しかった。

 僕が食べ終わると、同時に料理はできたようだ。

 僕は鉄の箱に料理を入れて空間魔法の倉庫に入れる。

 僕はカギ付きのゲートの魔法で料理を運んだ。

 導師はその料理をガラスの家にいるおばあさんたちに出していた。


「ふう。次は人を雇わないとならないな。私たちの仕事ではない」

 導師はいった。

「そうですね。それより、食事してください。僕は食べました」

「わかった。後は頼む」

 導師は僕の作ったゲートを通って屋敷に帰った。

 僕は岩の影で、客が食事が終えるのを待った。だが、先に導師の食事が終わったようだ。

 ゲートを出して導師を迎えた。

「食事は終わったか?」

 導師はいった。

「まだです」

「なら、よい」

 導師は心配で早く戻って来たようだ。

 しばらく、待っていると、アダーモといわれた男の子が、ガラスの屋敷から飛び出した。

「頼んだ」

 導師は僕に任せた。

 僕は男の子を追う。すると、柵の手前で止まった。

 冒険したい年頃だ。柵の外に行こうか迷っていた。

 柵はなわで囲っているだけの簡素なものだ。子供でも通れる。

「申し訳ありませんが、危険なので柵の向こう側に行かないでください」

 僕はいった。

 僕の言葉を嫌ったのか、不満な顔をした。そして、外に顔を向けて、柵を超えた。

 僕は念動力で腕を掴んだ。

 しかし、男の子は振り払って、柵の向こう側に行った。

 僕は後を負う。

 そして、男の子は消えるように姿が見えなくなった。

 おそらく落ちたのだろう。

 僕は浮遊魔法で柵の向こう側に行って、島の側面を通り下に行った。

 下を見ると、セーフティーネットの上に男の子はいた。

「だから、止めたのです。危険なので、柵は超えないでください」

 僕はいうが、相手は震えるだけだった。

 よほど、怖かったのだろう。股間をぬらしている。

 僕は男の子を念動力で浮かして、浮島の上に戻った。

『導師。男の子が落ちて震えています。今は浮島の上にいますが、立てないようです』

 僕はコールの魔法で導師に伝えた。

『今、行く』

 導師はすぐに来た。

 導師の後ろにはおばあさんたちがいた。

「あらあら。落ちたと聞いたけど、なにもしなかったの?」

 おばあさんの一人に責められた。

「念動力で止めたのですが、振り切られました。それに、島の下にはネットが張り巡らされています。落ちても問題はありません」

「そうなの?」

 導師はきかれた。

「はい。対策はしています。ですが、もらってからの時間は短いのです。今は管理と維持で手一杯なのです」

「そう。悪いことしたわ。あなたなら、できると思っていたから」

「期待に答えられず、申し訳ありません。それに観光は私の専門ではありません。できるのは、浮島の管理と維持です」

「そう。わかったわ。今日は帰るわ。今度に期待するわ」

 おばあさんたちは、また来るらしい。やめて欲しいという言葉が浮かんだ。

「帰り道を作って」

 おばあさんにいわれた。

 僕はゲートを開いた。そして、屋敷にいる執事にコールの魔法で報告した。

 執事はいつでも動けるように待っていたようだ。簡単に話をすると、風呂を用意するといっていた。

 男の子の汚れた体を洗い服を取り替えるようだ。

 僕は執事に任せることにした。

 僕はおばあさんたちを送るとゲートを閉じた。

「導師。疲れました」

 僕はいった。

「ああ。私もだ」

 導師も疲れた顔をしている。

「人を雇いましょう。導師も僕も客をもてなす技術は欠けています」

「そうだな。適材適所だ。早急に探すよ」

 僕と導師はしばらく景色を眺めていた。

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