第303話 資格
次の日には新聞で龍帝級の合格者の名前が発表されていた。
新聞には大きく一面でのっていた。これで、龍帝級魔法使いは優遇されるだろう。
龍帝級というだけで貴族に召し抱えられると思う。
それに、新聞の内容では龍帝級が一番上の魔法使いとして書かれていた。
龍の力を使わなくても、他に帝級の魔法使いはいると思う。しかし、四大属性の上に龍属性があるように書かれていた。
無詠唱が前提で、最低でも四つの魔術と一つの魔法を同時発動する。もっとも、めんどうで難しい魔法である。それだけの権威はあってもよいだろう。
騎士団での練習の帰り道でクンツに会った。
「よう」
クンツは僕に手を振った。
「男爵様。龍公級魔法使いとなったと聞きました。おめでとうございます」
エルトンはいつものようにクンツの足止めをした。
クンツはため息をつく。
「嫌味に聞こえるのは、幻聴か?」
「それは男爵のお心しだいです」
クンツは苦笑いで答えた。
「今日は何の用ですか?」
僕はクンツにきいた。
「試験で少しぐらい手心加えてくれてもよいだろう?」
「公平性がなくなります。それに、知っていても、一人の参加者として見るようにしてましたから」
「まあ、そうだな。おかげで仲間が龍帝級になった」
「シルヴェーヌさんでしたか?」
「ああ。覚えてくれていたか。……それで、話がある。結界の障壁に穴を開ける魔法を教えてくれ」
「まだです。その前に許可はもらっていますか?」
「まだだ。シルヴェーヌは新しい魔法を覚えるのに時間がかかる。だから、前もって教えて欲しい」
「導師の許可がないとできません。これは国でなく、結界内に住む生き物全員の問題です。好奇心だけで簡単に許可できません」
「知っている。だから、妖精族のルシア・ハーギンには許可をもらった」
「龍族は?」
「……まだだ。なかなか、うなずかない。龍族の長老になにかいったのか?」
「なにもいってません。それに長老は背中を押す方ですよ」
「だが、許可が下りない。理由は知らないか?」
「いえ。知りません」
龍族の長老は結界で空が狭いと文句をいっていた。それに、龍族なら外の世界は恐ろしくはないだろう。それだけの強さがある。だが、許可は下りない。意外な話である。
近い内に尋ねに行かないとならないだろう。
「そうか。わかった」
「ところで、となりの国は軍事国家になろうとしていると聞きます。本当の話ですか?」
「ああ。確かに兵の増強はしている。そして、軍事国家になろうとしている。だが、理由はわからない。仮想敵はいても明確な敵はわかっていない」
「それなのに、軍の増強ですか? お金がいくらあっても足りないと思いますよ」
「確かにそうだ。だが、そう動いている。だから、亡命する貴族は多い。オレにはこれ以上はわからない。時間がもらえるなら、仲間に調べさせるが?」
「今はやめておきます。下手に動くと導師に怒られますから」
「そういうところは見た目通りだな」
クンツはクスッと笑った。
「導師は怒ると怖いですよ」
「それはわかる。まあ、今日は引き下がるよ。でも、近い内に屋敷に行く。その時までに用意しておいてくれ」
「できるだけ、がんばります」
クンツは手を振って去った。
「よいのですか? 勝手に約束して」
エルトンは立ち上がった。
「ダメといっても従う人ではないです。それに、最低でも、この国の王の許可が必要です。クンツさんも導師もそれがわかっているはずですから」
「そうですね。ヤツが蛮行に走るのなら、呼んでください。よろこんで排除します」
「うん。でも、家は壊さないでね」
僕は苦笑いを浮かべるだけだった。
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