第二十三章 結界と冒険者

第304話 試作台

 午前の勉強の家庭教師はギードに戻った。

 ギードは言葉にはしないが、土帝級魔法使いと判断されたことに喜んでいるようだ。

 魔法だけの授業でもニコニコして教えてくれていた。

 普段なら読み書きも必要と切り替えるのだが、そんな様子もない。

 僕は人型の使い魔の機能向上に時間をつぎ込んだ。


「クンツさんが動いていますが、手を打たなくてよいのですか?」

 昼食の席で導師にきいた。

「ああ。昨晩もいったが、王が許可しないと教えられない。だから、きかれても教えるなよ。最悪な時はエルトンを盾にしろ。エルトンもわかっている」

「はい。それと、龍族の長老が許可していないのが気になります」

「まあ。近い内に宰相を連れて行くと思う。それから、外界の調査は必要だ。各国から冒険者が旅立つと思う。おまえは心配するな。早いか遅いかの違いに過ぎない」

「そんなものですか?」

「ああ。そんなものだ。おまえは心配性だな」

 導師はほほ笑んだ。

「問題は早くに片づけたいだけです」

「時間が解決することもある。静かに構えている必要もあるぞ」

 導師の顔はほほ笑んだままだ。

 導師には僕はまだまだ子供らしい。


 午後からカリーヌ家に行く。

 建前は無詠唱魔法の家庭教師と、ダンスの生徒になりに行くのだが、遊んでばかりである。

 だが、今日は家長のジスランに捕まった。

 パチンコとスマートボールの試作品ができたようだ。

 遊戯室に案内されて、完成した二つの台を見た。

 作る度に見た目も洗練されている。

「試してもらえないか?」

 ジスランにいわれてパチンコ台の席に座った。そして、レバーを弾いた。

 パチンコの玉は台の中を自由に動く。だが、チューリップの中になかなか入らず、羽を開くギミックを試せなかった。

「失礼します」

 メイドがパチンコ台のガラスを開けて、チューリップの中に玉を手で入れた。そして、台を閉じる。

「どうぞ」

 そういわれて、僕はレバーを弾いた。鳥の形をかたどった羽が開く。その中に向かって玉を弾いた。

 ギミックはおもしろい。そして、払われる玉の数が多いので満足感があった。

 残る課題は連射式のようだ。

「スマートボールも試してくれ」

 ジスランにいわれて、スマートボールのレバーを引いた。

 こちらは何度も弾くと仕掛けである九つの穴に縦に入った。すると、玉は台の下に落ちて、新しいボールが流れてきた。

 この仕掛けも面白い。どちらもよくできていた。

 ジスランに感想をいうとよろこんでいた。

「これを並べるよ。次は連射だね。これは前々から注文してある。時間の問題だと思う」

 僕もジスランも納得できるものができていた。


 僕はガーデンルームに向かった。そして、ドアを開けて中に入る。

「よう。今日は遅かったな」

 アルノルトはいった。

「ええ。新しい台を試しに触ってきました」

 僕はいった。

「それは、新しいパチンコか? それとも、スマートボールか?」

「両方です。よくできていましたよ」

「それって、オレも触れるか?」

「まだです。見本ではないですから」

 僕はいつもの席に座った。

「カリーヌ。頼む」

 アルノルトはカリーヌに拝んでいた。

「見本ができたらね。それまではダメよ」

 アルノルトは死にそうな顔をする。

「時間の問題です。それまで、ガマンしてください」

 僕はいった。

「わかった」

 アルノルトはがっかりしたままだった。

「それより、魔法使いと魔術師の線引きができたな」

 エトヴィンはいった。

「そうですね。どれくらいの人が魔法使いに昇進したんですか?」

 僕はきいた。

「ん? シオンは知らないのか?」

「ええ。審査したのは龍属性だけですから」

「そうか。なら、知らなくても仕方ないか。数は五千人らしい。でも、試験に来たのは十万人らしい」

「そんなに多いんですか?」

「ああ。傭兵や冒険者には国境がない。他の国からも試験に来たらしい」

「そんなに多くの人が試験したんですか?」

「ああ。ふつうなら魔法を教えた師匠に階級を決められる。だが、今回は国が決めるんだ。階級が上がると思って、挑戦する術者が多いのだろう」

「でも、龍属性は二十人ぐらいですよ」

「それは最低でも、無詠唱で四つの魔術を同時起動できるのが前提だ。それだけの術者は少ないよ」

「無詠唱ができれば、使える魔法ではないと?」

「ああ。無詠唱でも難しいんだ。龍帝級なら一握りしかいないと思ってくれ」

「そうですか。わかりました」

 僕はドラゴンブレスの価値は、そこまで高いとは思いもしなかった。

「審査員としての感想は?」

 レティシアにきかれた。

「やっぱり、僕では文句はありましたね。子供には審査員は勤まりません」

「なにかいわれたの?」

 カリーヌにきかれた。

「ええ。不満な人はいましたね。まあ、宰相が責任をもってくれたので、審査員をできました。まあ、ふつうなら経験のある魔導士が適任なのです。今回は異例だと思います」

「シオンのお母様だけではダメなの?」

「ええ。審査員は一人では偏りますから。最低でも三人は欲しいと思います」

「そっか。シオンも大変ね」

「次は呼ばれませんから、問題ないです」

「でも、一年に一度の試験になるようよ。次も呼ばれる可能性はあると思うわ」

 レティシアはいった。

「今回では、合格者の中で術士らしき人はいました。来年から、その人たちが審査員になると思います」

「そうなの。なら、残念ね。シオン見たさに受ける受験者もいると聞いたわ」

「変わってますね。そこら辺の子供と変わらないのに」

「うん。一度、鏡を見ようね」

 レティシアは額に青筋を立てていた。


「エルトンさんは魔法使いの資格を取れると思います。試験は受けないんですか?」

 騎士団の練習場に向かう道で、僕はエルトンにきいた。

「私は騎士です。下手に取ると術士と勘違いされます」

「魔法も使えるとは認知されないんですか?」

「はい。残念ながら。偏見というか、思い込みがありますから」

「なにか、もったいないですね。剣と魔法。両方を使える人は強いと思うんですが」

「残念ながら、世間は違いますね」

 騎士には騎士の流儀があるらしい。

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