第302話 審査

「では、シオン伯爵の実演を見てもらう」

 宰相は係員に視線を飛ばした。

 係員は魔法を発動させた。

 土帝級の魔法である。

 東洋の龍が地面から伸び上がった。そして、見下ろすように高い位置で止まった。

「見ての通り、土帝のアースドラゴン《皇龍》である。これが的である。シオン伯爵。実演してくれ」

 宰相の言葉を聞いて浮かび上がった。

 浮かばないと床を傷つける可能性があるからだ。

 そして、皇龍に向かって手を伸ばし、ドラゴンブレスを放った。

 太く短いエネルギーのかたまりが飛んだ。

 ドラゴンブレスは皇龍の頭を消して飛んでいった。

「おお」

 受験者からどよめきが起きた。

「これが、真のドラゴンブレスである。皆にはこの域まで到達しているのを希望する」

 宰相はいった。

 受験者はざわめいた。

 ドラゴンブレスはいくつもの魔法と魔術を足せば強くなる。それを知らない人が多いようだ。

「ドラゴンシールドは?」

 受験者の中から聞こえた。

「もちろんできる。シオン伯爵、頼んだ」

 宰相にいわれて、ドラゴンシールドを張った。

 ブレスとは違って大人しい魔法である。しかし、受験者には違うようだ。

「おお」

 受験者は驚いていた。

 それほどのものとは思わない。巻物に書かれた言葉だけを信じて、力にした受験者の方がすごいと思う。

「では、実演は終わりである。各自の力を見せて欲しい」

 審査が始まった。


 僕は審査員の席で両手に旗を持っていた。

 受験者のブレスやシールドが魔法か魔術か判断しないとならない。そのための旗である。

 右の白い旗は肯定であり、左の赤い旗は否定だった。審議が必要なら両方の旗を立てる。

 僕は皇龍に向かってシールドとブレスを放つ様子を見続けた。

 その度に白い旗と赤い旗を挙げた。

 僕は二つの旗を挙げた。審議である。

 導師も二つの旗を挙げている。

 その受験者はクンツだった。

 理由はシールドが不完全だった。

「シオンもそう思うか?」

 導師はいった。

「ええ。四本の魔術の柱は屋根を支えていますが、魔法の柱は屋根に届いてません」

 僕は答えた。

「そうだな。あれでは魔術の方になる」

 宰相は導師の話を聞いて審判を下した。

 クンツは肩を落として、二階から一階に戻っていった。

 その後も受験者の魔法と魔術を区別した。

 受験者の全員の審査を終えると、二階は係の者と宰相と僕たちだけになった。

「お疲れ様。審査は終わったから帰ってよいよ。後は私の仕事だ」

 宰相はいった。

「はい。失礼します。慣れないことをしたので疲れました」

「では、私は受験者に資格を与えないとならない。また、今度」

 宰相はほほ笑むと、一階に降りていった。

「私たちも帰るとしよう」

 導師はイスから立ち上がった。

 僕は浮くのをやめて地面に足をつけた。

「思っていたより早く終わりましたね」

 僕はいった。

「ああ。昼食は外で食べないとならないな。ノーラにはわからないから必要ないといったから」

 外食は久しぶりである。

 今まで色々な料理を作り、ノーラを通してばらまいてきた。

 公爵御用達のレストランである。どんな料理になったのか楽しみだった。


 僕は腹を抱えて帰ってきた。

「食いすぎだ。バカもん」

 導師に怒られた。

「おいしいのが悪いんです」

「おまえは年齢を考えろ。前世の延長ではないんだぞ」

「そういわれても、食べたいのです。おいしいのが悪いんです」

「ノーラに似てきたな」

 僕はショックを受けた。

 ノーラと一緒とは思われたくない。食い気の権化でしかないノーラと同列と思いたくない。

 そのノーラが出てきた。

「シオン様。外食したと聞きました。料理の内容を教えてください」

「色々あったよ。でも、ノーラに教えたのをシェフが改良していた。基本は一緒だよ」

「そのシェフはどう改良したのか聞きたいのです」

 ノーラは言外に威圧してきた。

 料理人でない僕には理解できない話である。それを話せといっている。無理な注文だった。

「ノーラ。シオンはそこまで料理には詳しくない。あきらめろ」

 導師はいった。

「ですが、再現したら、もっとおいしくなります」

「公爵家御用達のレストランだ。簡単にマネされたら生き残ってないよ」

「そうですか……。残念です」

「紅茶を用意してくれ。リビングでシオンと審査をした話をする」

「わかりました」

 ノーラは台所の方に戻った。


「魔法の使う魔法使いは少なかったですね」

 僕はソファーに沈み込みながらいった。

「ああ。そこまで知られていないのだろう。魔術師がばかりだった」

 導師もソファーに座った。

「ええ。帝級になったのは、五人ぐらいですか?」

「ああ。五人だな。まあ、最初はこんなものかもしれん」

「でも、王都だけで五人は多いのでは?」

「いや。この国中らしい。他国からも来た人間もいると聞いたよ」

「それで、五人ですか。少ないですね」

「ああ。問題だな」

「これから、人は増えないんですか?」

「おそらくとしかいえない。ドラゴンブレスもシールドも難しい。威力を知らずに、難易度で無視する人間は多いと思う」

「人族以外は?」

 僕はマールを思い出した。

「いるかもしれないが、人族の国だ。数には入らんよ」

「消えていく魔法なんですかね?」

「可能性はあるな」

 導師はため息をついた。

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