第300話 練習

 魔法使いの試験には一週間かかるらしい。

 それほど、多くの人が試験を受けるようだ。

 僕と導師は最終日だけ、審査員をすればよいらしい。

 その間に魔法使いと名乗れる人をしぼるようだ。

 家庭教師のギードは休んで試験を受けに行った。そのため、自習である。

 僕は午前の授業をファンネルの機能向上と共に、新たに六機追加した。


 午後からはカリーヌの家に行った。

「やあ。始まったね。試験が」

 家長のジスランに迎えられた。

「こんにちは。今日はどうしたんですか?」

「まずは書斎に行こう。玄関で話す話ではないからね」

 僕はジスランの後を追って書斎に入った。

「君たちが審査員として選ばれたと聞いた。宰相の目的はなにかと思ってね」

 ジスランはデスクのイスに座った。

 僕はデスクを挟んで立っている。

「それでしたら、戦力向上を考えていると導師はいってました」

「うん。でも、君もご指名だ。大人のすることに子供を使うのは、他に理由があると考えている」

「そうですね。僕もわかりませんが、僕の使い方はよくないと思います」

「そうなのかい?」

「まだ、何も決まってませんけど、当て馬に使う気みたいです」

「なるほど。その可能性は高いね。君には悪いが、審査員とは経験と能力がある者がするべきだと思っている。経験の少ない子供を出すはずがないと思っている」

「ええ。僕もそう思います」

「でも、使うなら、なにかしらの意図がある。心当たりはないかね?」

「それはわかりません。ですが、一度は断ったのですが任命されました」

「やはり、宰相はなにか考えていると?」

「重大なことはないと思いますよ。僕みたいな子供が高位の魔法を使う。それを見せたいのだと思っています」

「なるほど。術者の尻を叩きたいというわけだね」

「はい。僕には他に推測できません」

「そうだね。僕もわからない。引き止めて悪かったね」

「いえ」

 僕は書斎から退室した。


 ガーデンルームに入ると、いつものようにアルノルトに声をかけられた。

「よう。今日はなにかあったのか?」

「ええ。魔法使いの審査が始まったのです。それで、お父様と話すことがありました」

「ふーん。そっか」

 アルノルトは興味を失ったようだ。

 僕はいつもの席に着いた。

「魔法使いの資格試験でしょ? 詳しい話を教えて」

 レティシアは好奇心を丸出しにした。

「僕もよくわかりません。僕は最終日に呼ばれただけです。なにをするのかわかりません」

 レティシアはメモを取っている。

「それまでの試験は?」

「さあ。宰相はなにを考えているのかわかりません」

「宰相が関わっているの?」

 レティシアは驚いていた。

「ええ。この試験は宮廷魔導士が仕切っていません。宰相が仕切っているようです」

「試験の内容は?」

「わかりません。一週間でしぼるとしか聞いてません」

「そうなの? 他にはなにか聞いている?」

「ないですね。でも、新聞屋なら知っている情報ですよ」

「そうでもないわ。シオンが最終日に審査員として出るのは、誰も知らないわ」

「そうなんですか?」

 僕は他の三人を見た。

 みんなはうなずいていた。

 僕は口をすべらしたようだ。

「あくまで、ウワサでお願いします。確定情報にはしないでください」

「……わかったわ。そうする」

 レティシアは素直に退いた。


 カリーヌの家から騎士団の練習場にいく。そして、槍の稽古をしていた。

「よう。すまないが、ドラゴンシールドを教えてくれ」

 クンツはそういって現れた。

 すぐにエルトンは、クンツのところに行ってひざを着いて、僕に近づくのをさえぎった。

「今は稽古中です。男爵といえど、やめていただきます」

「わかっているよ。すぐに終わる」

「でしたら、お帰りは反対方向です」

 エルトンはそのまま帰らせたいらしい。

 僕はいつものことなのでエルトンの背後に立った。

「どうしたんですか?」

「ああ。ドラゴンシールドを教えて欲しい。試験に必要なんだ」

「それでしたら、ドラゴンブレスをシールドにすればいいだけですよ」

「それでわかれば、ここに来ていない。おまえの母親の講義を受けたヤツがいないんだ」

 導師は過去にドラゴンブレスの講義を開いている。しかし、難しさを知ると、生徒はいなくなったと聞いている。

「それでしたら、魔法のシールドを組み込んで、意識して出せばよいだけですよ。それが一番簡単だと思います」

「他の手はないか? 急ぎで必要なんだ」

「四大属性を全部シールドにするとかありますね。その場合、魔法はなんでもよいです」

「おまえの構成内容は?」

「十種類以上使っているので、きいても参考になりませんよ?」

「十?」

「ええ。ドラゴンブレスは数を増やすと威力が上がりますから」

「なら、さっきいったやり方だと、どちらが短期間でできる?」

「魔法のシールドですね。覚えるのは一つで済みますから。でも、四大属性のシールドが無詠唱でできるのなら、それでよいと思います」

「わかった。両方試してみる。ありがとな」

 クンツは手を振って帰った。

「よいのですか? 簡単に教えて」

 エルトンはいった。

「ええ。導師が講義をしてたのですが、難しさで誰も受けなくなったのです。それに比べたら、熱心だと思いますよ」

「そうでしたか。でも、これから覚えられるのでしょうか?」

「一度、ドラゴンブレスを放てるようになると、何度でもできます。感覚を知るのがコツですから」

「なるほど、自身の感覚ですか……。騎士にも同じものがあります。必殺の一撃は自分で感覚を掴まないとなりません。言葉では伝えられないといわれています」

 騎士は体育会系だからいいが、術士は違う。強制的に当てはめるとしたら文系だろうか? とにかく、畑は違った。

「それが才能なんですか?」

 アドフルはいった。

 僕とエルトンは考える。土台は教えてもらっている。それをものにするかは、練習と創意工夫だ。才能とは思っていない。

「わかりません」

「右に同じ」

 僕とエルトンはいった。

「ですが、簡単に身に付くのは才能では?」

 アドフルは納得いかないようだ。

「その前に、何度も工夫して失敗している。どれだけ、工夫をして挑戦したかだと思う」

 エルトンは答えた。

「そうですね。失敗は成功のもとといいますから」

 僕は同意した。

「アドフルは実直すぎるだけだ。だから、今まで習っていない剣の使い方に拒否反応が出る。剣の道はもっと柔軟だと理解すれば伸びる。それと、魔法を否定するのが欠点だな。適正は低くとも覚えれば選択肢は増える。仲間の傷を治せたり、転移して逃げられない」

 エルトンはいった。

「……はい。了解しました」

 アドフルは王直属の騎士団に来て苦労をしているようだ。昔なら、アドフルは僕に根性で覚えろといっていたと思う。

 僕のわがままでアドフルを王直属の騎士団にしてもらった。しかし、アドフルにとって悪い気がしてきた。

「シオン様。ご安心を。理想に騎士になるまで、歩みを止める気はないです」

 アドフルは僕にいった。

 その目は力強かった。

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