第299話 ポテトチップ
午後から、カリーヌの家に行った。
素直にメイドはガーデンルームに案内した。
「よう。今日はなにもないのか?」
「ええ。今日はなにもなしです」
僕はいつもの席座った。
「今日は新しいおやつがあるって」
カリーヌはいった。
「へぇ。どんなおやつですか?」
僕はきいた。
「ポテトチップというらしいの」
「それって、ノーラから聞いたんですか?」
「名前は知らないけど、シオンのメイドから聞いたらしいわ」
「それって、昨日、話したばかりのおやつです。もう、伝わっているんですか?」
「そうみたい。お父様は朝の買い出しに、わざわざメイドを向かわせているわ」
ノーラの口は軽すぎる。二十四時間も経たずに広まるのは異常である。
「それに、他の公爵もメイドを朝の買い出しに向かわせているようよ」
ノーラは他の貴族に狙われているようだ。まあ、気は良いので、誰にでもすぐに話すのだろう。
「今、コックに色々と試作してもらっているわ」
カリーヌはいった。
「それって、どんなのだ?」
アルノルトはいった。
「わからない。シオンなら知っていると思うわ」
カリーヌは僕を見た。
「ポテトを薄切りにして油で揚げたものです。ポテトフライと似ていますが、硬くて日持ちします」
「ポテトフライの親戚か?」
アルノルトはいった。
「似てますが、違いますね。ポテトフライはおかずになります。ですが、ポテトチップはお菓子でしかありません。それが大きな違いですね。見てみればすぐにわかると思います」
「ふーん。それは楽しみね」
レティシアは冷静そうに見えて来るのを待ち望んでいるようだ。視線は入り口に向かっているからだ。
「それで、いつできるんだ?」
アルノルトはカリーヌにきいた。
「試作品はできていると思う。試しに食べてみる?」
「おう。どんなものでも食ってやる」
アルノルトはチャレンジャーのようだ。どんなゲテモノが来るかわからないのに。
カリーヌはメイドに頼んだ。
メイドは部屋から出て行った。
「シオン。どんな種類があるの?」
カリーヌはいった。
「教えたのは塩だけです。後はメイドの判断に任せました。使う調味料で当たり外れがありますから」
「そうなると、まずいのもあるんだ?」
「はい。ですので、試作品を食べるのは冒険だと思います」
その後、運ばれたポテトチップには感心していたが、試食して一同は黙った。
ポテトチップにステーキソースは微妙だった。ソースがポテトチップ用でない。そのため、ポテトフライで食べるのが最適だった。
その他にも、ソースが並んでいる。それにつけて食べるようだ。
「これが、正しいポテトチップなのか?」
僕は首を振った。
ポテトチップは香辛料の粉が降りかかっているのが、本来の形と思っている。
「ソースは斬新ですね。ふつうは調味料や香辛料がまぶされます」
カリーヌは僕の話を聞いてメイドに指示した。
「ふつうに塩で食べましょう。それが、原点だと思います」
だが、油を切っていて温度が下がっているため、ポテトチップに塩は弾かれた。
ポテトチップの完成は、まだまだ先のようだ。
カリーヌの家から騎士団の練習場に向かう。
「シオン様。魔法使いの試験があるのを聞きました。それで、その審査員に選ばれたと聞きました。本当ですか?」
エルトンはいった。
「それなら、宰相の間違いです。子供に審査員は勤まりません」
「シオン様なら問題ないと思います」
「もし、騎士として僕が選ぶとしたら納得できますか?」
「騎士なら、剣の実績がないので納得しませんね」
「それと一緒です。僕はウワサでしか知られてません。僕が審査員の席に座っていたら嫌でしょう? 同い年の子供に判定されるのは、僕でも嫌ですよ」
「うん……」
エルトンは考え込んだ。
「そういえば、衛兵の時の部下で、一目見れるとよろこんでいる術士もいました」
アドフルはいった。
「七歳って知ってますか?」
「成人前とは知っているようです」
「まあ、僕は審査員にはなれません。年齢が年齢ですから」
夕食の席につくとすぐに、導師は一枚の紙をだした。
「宰相は本気らしい」
僕は紙に書かれている内容を見る。
宰相は試験で見本として僕を使うようだ。
「よいのですか?」
「仕方ないだろう。宰相がおまえをご指名なんだ。それに、龍帝級と簡単に名乗れない方法でもある」
「僕は当て馬ですか?」
「そうなるな。まあ、宰相の狙いは術者の戦力向上だ。一人でも多くにがんばって欲しいんだろう」
「それで、恨まれたくないです」
「あきらめろ。それに、戦略級魔法使いはおまえしかいないんだ。代えがいない。それも理由の一つだろう」
「僕が審判してよいんですかね? 経験が足りなさすぎますよ」
「まあ、それは私たちに任せろ。大人の仕事だからな」
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