第297話 夢

 レティシアの手を引っ張ったまま、ガーデンルームに入った。

 みんなの視線を受けるが、気にせず席に向かう。そして、レティシアの席の前で手を離した。そして、僕はいつもの席に着いた。

「仲直りはできた?」

 カリーヌはレティシアにいった。

「……たぶん」

 レティシアは顔を赤くしていた。

 僕はメイドから紅茶をもらった。

「シオンは怒っていない?」

 カリーヌに確認された。

「ええ。怒ってませんよ」

 僕は怒った覚えはなかった。

「そう。なら、解決ということで」

 カリーヌはしめるようにいった。

「ところで、どれだけ探知魔術を広げれば、神霊族を見れるんだ?」

 アルノルトはいった。

「少なくとも魔法にしないと。それに金色の世界まで伸ばさないとならないです」

「うん。オレには無理だわ。魔術で精一杯だからな」

 アルノルトは魔法の適応性は低いようだ。

「私も試したが、無理だった。王都も越えられない」

 エトヴィンはいった。

 エトヴィンぐらいが魔術師として標準に感じた。

「魔術師では無理みたいね。最低でも魔法使いでないとダメかな?」

 カリーヌはいった。

 最近では魔術師は素人で、魔法使いが玄人くろうとのように別れていると感じる。

「その前に魔術師と魔法使いの線引きはあるんですか?」

 僕はきいた。

「今度、正式に決めるようよ。試験を設けるみたい」

 初耳だ。それに試験なんかしたくない。学校のテストようで嫌だった。

「シオンは聞いてないの?」

 カリーヌには意外なようだ。

「ええ。初めて聞きました」

「でも、シオンは龍帝級でしょ? 試験は簡単では?」

「その前に試験を受けたくないんです。めんどうですから」

 前世の学校や資格試験を思い出す。それは苦痛だった。

「へえ。シオンでも嫌なことはあるのね」

「他にもたくさんありますよ。勉強とか」

「そうなの? 意外だわ。お父様の仕事の手伝いができるのに」

「仕事は楽しい部分がありますが、勉強は苦痛です。魔法に関しては別ですけど」

「読み書き計算は嫌い?」

「はい」

 僕は堂々と答えた。

「頭の悪いシオンは想像できないわ」

 カリーヌは笑った。

「だけど、勉強が好きなヤツっているのか?」

 アルノルトはいった。

「この中ではいないわね。いるとしたら、エトヴィン?」

 カリーヌはいった。

「私も義務でしているだけだ。自分からしようとは思わないよ。それに私は本が好きなだけだ」

 エトヴィンは少し不満そうだった。

「でも、色々な本を呼んでいる。勉強とは違うの?」

「違うな。つまらない本なら読まないよ」

「ふーん。エトヴィンて将来は術士になりそう」

「私もそうなるかもしれないと思い始めている。まだ、先のことは決めていないけどね」

「オレは騎士しか考えられないな。術士は騎士の補佐役という印象だから」

 アルノルトはいった。

「騎士でも魔術を使えると待遇がよいらしいですよ。空間魔法の倉庫や転移、後は飛行を覚えると、王直属の騎士団に入れる可能性が高いと思います」

「ハードル、高すぎ」

 アルノルトは不機嫌な顔でいった。

「傭兵から王直属の騎士団員になった例です。まあ、生まれが貴族ならそれほど求められませんが」

「オレは普通の騎士で十分だ。王直属とか重圧がすごそうだし」

 アルノルトには騎士はあこがれではないらしい。 

「王直属の騎士団は花形よ。騎士の頂点よ」

 カリーヌはいった。

「いらない。いらない。オレが輝く場所はカジノだ。それ以外、いらね」

 九歳でもう方針は決まっていた。騎士でお金を稼いで、博打につぎ込むようだ。

 僕にはうらやましかった。僕はやりたいことは思いつかない。

 僕は魔法使いとして働くぐらいしか思いつかないからだ。

「レティシアは?」

「私は記者になりたいかな。知らないことを調べるのは苦でないし。それで、お金がもらえるのなら問題ないわ」

 レティシアは普段の感じに戻っていた。

「私だけ決まってないのね」

 カリーヌはいった。

「カジノの経営は?」

 僕はいった。

「お兄様達がすると思うわ。領地の管理と一緒に」

「お嫁さんでよいと思うよ。今、決めることではない」

 エトヴィンはいった。

「でも、夢は持ちたいわ」

 カリーヌにはカリーヌの悩みがあるようだった。


「お友達と仲直りできましたか?」

 エルトンはいった。

「はい。いつものように遊べました」

「それなら、よかったです」

 アドフルも笑顔だった。

「心配かけました」

「いえ。話を聞くぐらいしかできませんでした。お気になさらずに」

 エルトンはいった。

「ところで、使い魔は新しくできましたか? 我々が護衛しても、シオン様の身を守る使い魔は必要です」

 アドフルはいった。

「それなんですが、人型を作ったのです。でも、弱いのです。見せるのも恥ずかしいです」

「人型は難しいと聞きます。できる魔術師は少ないと聞きますよ」

 エルトンはいった。

「それなんですが、魔術師と魔法使いの区別は、なにで区別していますか?」

「そうですね。自己申告が多いですね。ですが、魔法使いと名乗っても、魔法の方の呪文でなく、魔術の方の呪文を使っていたりします」

 騎士の中でも魔術師と魔法使いの違いはあいまいらしい。

「試験があると聞いたのですが、知っていますか?」

 エルトンはアドフルを見る。しかし、アドフルは首を横に振った。

 試験の話は聞いてないらしい。

「母上は宮廷魔法使いと認知されています。もちろん、シオン様も魔法使いといわれてます」

 エルトンはいった。

「ん? なんで僕の名前が出るんですか?」

「もちろん。魔法使いでは、最初に二人の名前が出ます。ドラゴンブレスと魔法を伝えた人物ですから」

「僕もですか?」

「ええ。もちろんです。ドラゴンスレイヤーとして有名です」

 僕は納得したというより、自覚した。

 劇になるほど有名なのだから、魔術師ではカッコウがつかない。魔法使いになるのは当然だった。

「エルトンさんは有名になったと思いますが、生活は変わりましたか?」

「変わりません。劇で知る私とはとても似ていません。なので、悪龍の討伐に参加したと知らない騎士は多いです」

「僕と一緒ですね。僕の年齢は十三から十七らしいです」

「まあ、劇ですからいたし方ありません」

 エルトンは笑った。

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