第296話 仲直り

 僕は騎士団の練習場に行く時間になった。しかし、レティシアは戻ってこなかった。

 カリーヌは安心してといっていたが、心残りはあった。

「お友達とケンカしたんですか?」

 アドフルはいった。

「似たようなものです。調子に乗って、僕はいってはならない情報をいったようです」

「神霊族を含む本質的な問題ですか?」

「はい。いうべきではなかったです」

「その程度で離れるのなら、友達ではなかったのでしょう。それより、ふつうなら笑われるような話です。神霊族はおとぎ話の中にしかいません。話を真剣に受け止めたのなら、信用しているということです。その時はシオン様はお友達を信用してください」

「……はい」

 僕には他人の考えていることはわからない。他人に興味がないとは思わない。それより、人付き合いにおける暗黙のルールがわからない。

「シオン様はまだ子供なのです。ぶつかりながら何度も失敗して覚えていくのです。それに悩みならなんでもいってください。力になります」

 エルトンはにこやかにいった。

「二人には心配かけて、申し訳ありません。明日、出直すとします。仲直りしたいですから」

「ええ。早い方がよいですからね」

 二人は笑っていた。


 夕食の席で導師にレティシアの話をした。

「アルメルと似て、好奇心が強いんだろう。わからないことがあると、徹底的に調べるクセがある。その性格を引き継いだんだろう。それより、あれ以上の詳しい話はしてないな?」

「神霊族に会う方法は教えました。探知魔法を最大限に広げればよいと」

「そうか。なら、問題ない。私でも見つけていないからな」

「それならよいです。……仲直りの方法はないですか?」

「あちらが悪いんだ。他の友人に相談するのがよいと思う。それより、謝ってきたら素直に許してやれ。まあ、おまえが謝ってもいいが、勘違いされたら困るからやめとけ」

「……はい」

「おまえは前世でも人間関係に苦労したのか?」

「ええ。暗黙のルールがわかりません」

「そんなものあってないようなものだ。気にするな。それより、おまえは自分に向けられた好意を否定するように感じる。自己肯定感は低かったのか?」

「……はい。高くはありませんでした」

「それでは損するぞ。自分を信じてやれ。少なくとも私はおまえを信じている。それだけは忘れないでくれ」

「もったいないです」

「それが、問題なんだ。謙虚なのはよい。だが、一方では、私の選んだ選択が間違っているとも取れる。時として謙遜は相手を傷つけるぞ」

「……申し訳ありません。そんなつもりはなかったです」

 何もいわない導師に視線を戻す。

 導師は困った顔をしていた。だが、どこか優しい顔だった。


 夜にマナをためる修業をする。

 全身にマナを通して練る。そして、球状になるとマナを吸い込みながら、体の中を回す。

 すると、瞑想状態になって、金色の世界が広がった。

 神霊族はいつものようにいた。

 そして、僕を見ると金色の草の中に隠れた。


 午前の勉強では使い魔を作った。目標である四体はできた。

 剣士と弓兵、僧侶に魔法使いだ。

 どれも、僕が求める性能はなかった。

「最初はこんなものですよ。人型を作れただけで、がんばっていると思います」

 家庭教師のギードはいった。

 僕の本心は、この人型を作る労力を、ファンネルの機能向上に使いたかった。

「明日からはこの人型の機能向上ですか?」

「そうですね。それには覚えてもらう紋章と紋様があります」

 僕の勉強は終わりがないようだった。


 昼食を食べていつのようにカリーヌの家に行った。

 玄関では執事に迎えられて、メイドの後を追って歩いた。

 行先は遊戯室だった。

 中に入ると、メイドは頭を下げて持ち場に戻っていった。

 遊戯室にはレティシアがいた。

 僕を見ると椅子から立った。

 レティシアは僕を真っすぐ見る。

 僕はなにか恥ずかしかった。

「ごめんなさい。私の好奇心で迷惑をかけたわ」

 そういうとレティシアは顔をそむけた。

「気にしてません。導師から聞いたのですが、その好奇心は母親譲りらしいですね」

「うん。お母様と似ているとよくいわれるわ。でも、本心は新聞にのせようと考えていた。ごめんね。信用して話してくれたのに」

 レティシアは罪悪感からか、僕を見れないようだ。

「それでしたら、新聞にはならないから心配ないですよ。記事にしても弾かれます。神霊族はおとぎ話です」

「でも、私は実在すると示したかった」

「それは今のところ無理ですね。導師でも見つけられません」

「でも、シオンは見ているのよね?」

「ええ。正確には感じるですが……。あちらはマナと魔力のかたまりです。人のように目にうつる体を持たないらしいですから」

「そう。目では見れないのね」

 レティシアはうつむいた。

「はい。残念ですが」

「……」

 レティシアは黙った。

「……みんなのところに行きませんか? いつもように遊びましょう」

「いいの? シオンを裏切ったのよ」

「でも、約束は守っているでしょう。秘密にすると」

「結果的には同じだけど……」

「なら、問題ありません」

 僕は笑ってみせた。

「許してくれるの?」

「ええ。もちろんです。友達を失いたくありません」

 僕は手を出した。

 レティシアは恐る恐る手を伸ばす。

 じれったい手を取って引っ張った。

「少し痛いわ」

 レティシアは小さく文句をいった。

「すみません。でも、離す気はありませんから」

 僕はレティシアを連れて遊戯室を出た。

 そして、そのまま、みんながいるガーデンルームに移動した。

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