第二十二章 魔術と魔法と龍属性

第295話 神霊族

 朝食の席で神霊族に声をかけられたことを話した。

「あちらかいわれた? 信じられんな。神霊族は人族とは存在がかけ離れている」

 導師は食べる手を止めていた。

「ですが、早いといわれました」

「それで、外といわれたのか?」

 僕はうなずいた。

「私たちの行動を見ていると考えると、忠告のようだな。だが、早いと外では、結界外に行くなと忠告していると考えられる。神霊族はこの世界を遊び場にしているのではなかったのか?」

 導師は考え込んだ。

「……前向きにとると外の危険をいっているように思えます。しかし、勇者と魔王の存在の意味がわかりません」

「それなら、簡単だ。戦争で文明を進歩させようとしている。新技術は兵器から始まるといわれている」

「そのための戦争ですか?」

「前向きに考えるのならな。だが、情報が少なすぎてわからん。おまえもこだわるなよ。言葉にしばられてはできることもできなくなる」

「はい」

 僕は神霊族の真意はわからなかった。


 午前は家庭教師と人型の使い魔を作ることにした。

 核に刻む魔法陣は一応の完成はした。だが、はっきりいって弱い。これなら、ファンネルの機能向上をしたかった。

「一回目です。これでもよいできだと思いますよ。ふつうなら魔獣を最初に作りますから」

 家庭教師のギードはいった。

「魔獣と人型の製作難易度は大きいのですか?」

「ええ。違いますね。魔獣には武器を使うという工程がありません。ですので、人型は難しいのです」

 サルと人を比べるようなもののようだ。

 剣士なら剣の使い方を、僧侶なら魔法の使い方の機能をつぎ込まないとならないらしい。

 だが、おかげで、ファンネルの機能の向上方法はわかった。


 午後になるとカリーヌの家に行く。

 今日はメイドにジスランの書斎に案内された。

「やあ。すまないね。パチンコとスマートボールの発展型を確認して欲しい」

 ジスランは数ある提案の中から選んだようだ。

「やはり、パチンコは羽ものにしたよ。ギミックが簡単らしい」

 僕には構造がわからない。機械工学を勉強すればわかると思うが、それだけの頭脳はなかった。

「スマートボールも君の提案を採用した。その代り、少し難しくしたけどね」

 スマートボールは九個の穴に入る列や数で決まるようだ。

 僕は素直におもしろいと感じた。

「スマートボールはおもしろそうですね。僕はこの方法は知らないのでやってみたいです」

「そうか。なら、決まりだね」

 ジスランはうれしそうだった。

 パチンコはチューリップと羽が開いて穴に入りやすいものになった。

「パチンコの連射機能はできませんか?」

 僕はきいた。

「うん。それも発注しているんだけど、スロットで手一杯だったみたいだった。今回は見送りだね」

 おそらく連射機能がパチンコで作られれば、スマートボールは終わる。スマートボールは玉が大きく机のような台の上に並ぶからだ。玉が邪魔でしょうがない。これの解決方法も考えないとならないだろう。

「そうだね。これは必要だ。僕も部下にきいてみるよ」

 ジスランはいった。

 僕は考えたが解決方法は、すぐには浮かばなかった。


 ジスランの書斎を出てガーデンルームに行った。

 中に入るとアルノルトと目が合う。

「よう。今日は遅いな」

「ええ。お父様と新しいパチンコとスマートボールの話をしてきました」

「ほう。新しい台ができるのか?」

「ええ。新機種ですね。後はできるまで待つだけです」

「おおー」

 アルノルトは興奮していた。

 僕はいつもの席に座る。

「お疲れ様」

 カリーヌはほほ笑んだ。

「ありがとうございます」

 僕はほほ笑み返した。

「それより、神霊族や魔神族に会う方法ってないの?」

 レティシアにきかれた。

「こりたのではないのですか?」

「それはそれよ。知らないと、置いて行かれるわ」

 誰に? と思うが、そこまで突っ込む必要もない。

「探知魔法を限界まで伸ばすと会えますね。神霊族ですが。魔神族はわかりません」

「私ではできないのよ。他に方法はない?」

「僕は他の方法を持ってません。古い文献をあさるしかないですね」

「それってできる?」

「すみません。僕も仕事と勉強で余裕はないです。それに神霊族に会っても、何もいわずに去るだけですよ? 会う意味がありません」

「でも、見てみないと始まらないわ」

「始まる方が怖いですよ。導師には接触を禁止されていますから。あちらが攻撃してきたら、危ないですよ」

「え? 攻撃があるの?」

「可能性は高いですよ。邪魔なら排除すると思いますよ」

「なら、なんでシオンは神霊族を見れるの?」

「さあ? でも、一つだけいえることがあります。神霊族に対して戦う手段を持っています。ですので、僕は神霊族と会っても素通りなのでしょう」

「その手段は?」

「いえません。これ以上は、導師の許可なく話せません。神霊族に関わるのは危ないですから」

「でも、見てみたいわ」

「それができたら、最後になると思いますよ。僕は対処方法を持っていますが、レティシアさんにはないでしょう?」

「その対処法は?」

「教えられません。自殺しに行くようなものです。関わっている規模を考えてください。人一人はチェスのコマ以下ですよ。邪魔なら排除されます」

 この問題はすべての国でなく、すべての種族に関わる問題となっていた。

「なら、なんでシオンは関われるの?」

「さあ? どうしてか家に仕事が来るんです。持ってくる人にいってください」

「それは誰?」

「いえません。調べるのはやめてください。命に関わります」

 レティシアがここまでこだわるのは異常だった。

「記事にはしないわ。だから、本当のことを教えて」

 そういったレティシアはレティシアらしくない。

「僕もすべてはわかりません。みんなが自分の考えで動いています。僕の知っていることは、一部だけです。ですから、本当のことといわれても、僕も知りません」

「でも、シオンは知っているのでしょう?」

 レティシアらしくないセリフだ。

「レティシア!」

 カリーヌは声を強くしてレティシアにいう。

「シオンは私たちに先の情報を教えてくれても、踏み出してはいけないことは止める。それはわかっているでしょう? 本当に危険なの。好奇心で間違わないで」

 レティシアは驚いた顔でカリーヌを見た。そして、うつむいた。

「……ごめん。ちょっと頭を冷やしてくる」

 レティシアはガーデンルームから早足に出て行った。

「大丈夫なのか?」

 エトヴィンはカリーヌにいった。

「レティシアなら大丈夫よ。それぐらいでめげないわ。……たぶん、お父様の力になりたいのでしょう? 新聞の部数を伸ばしたいから」

「貴族は嫌っていたのではないのか?」

「表向きはね。でも、新聞屋は貴族らしくないから、がんばっているのかもしれない」

「そうか……」

 カリーヌは僕を見る。

「シオン。ダメなことはダメっていってね。私も力になるから」

「……はい。死んで欲しくはないですから」

 カリーヌの芯の強さは、僕にはないものだった。

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