第292話 漏洩

 僕はそれを見届けてからいう。

「僕の最近の仕事は世界を囲む結界の調査です。世界の端に行って、結界の柱を見てきました。そして、同じものを作って研究していたんです」

「えっ? 結界はあるのが前提なの?」

 カリーヌは驚いていた。

「ええ。この世界は囲まれているらしいです。少なくとも外界との壁は存在します」

「なんで、シオンが関わっているの?」

 レティシアはいった。

「冒険者に依頼されたからですね。それと、導師の方針でもあります」

「それで、冒険してきたというのか?」

 エトヴィンはいった。

「ええ。前にした冒険の話は結界の柱を調査に行った時の話です」

「それで、なんで調査は王都でできるの?」

 レティシアはいった。

「僕が結界の柱の機能を複製できたからです。それで、情報だけ持って帰って、屋敷で調査してました。いえ、今もしています。王や宰相が地面平面説に懐疑的になったのは、冒険者が働きかけたからと思います」

「問題の関係者がここにいるとは思わなかったわ」

 レティシアは顔を押さえた。

「だから、いいたくなかったんです」

 僕は不満を表しながらいった。

「もう、地面平面説とか、どうでもいいな。問題は結界にある。外が危険だから守るために囲ったのか、それとも、何かするために囲ったのかわからない。それより、だれが囲ったんだ?」

 エトヴィンはいった。

「神霊族と魔神族。後は有翼族が関わっていると推測しています」

「神霊族と魔神族は絵本の中での話ではないのか?」

「いえ。実在しています。探知魔法を限界まで伸ばすと引っかかります。神霊族だけですが」

「本当にいるのか……?」

 エトヴィンは懐疑的だがショックを受けているようだった。

 しかし、証明はできない。納得するものは出せなかった。

「……シオンは他になにを知っているのよ?」

 レティシアは頭を押さえながらいった。

「龍族は不満らしいですね。空が狭くなったかららしいです。龍の牙を配ったのは、神霊族に干渉されないためです。ブローチを失くさないように気を付けてください」

「ここでも、龍族が関係するの?」

「ええ。他の種族も関係しています。聖霊族ぐらいですね。どうでもいいと考えているのは」

「人族の問題を超えているってこと?」

「はい。なので、秘密でお願いします」

「いえるはずがないわよ。いったら笑われるわ。妄想がすぎているとね」

「だから、いいたくなかったんです。知らない方が幸せってあると思うんです」

「うん。よくわかったわ」

 レティシアは頭を抱えた。

 みんなはうつむいて暗くなっている。

 事実とは時に残酷のようだ。


 僕は騎士団の練習場で汗を流す。そして、屋敷に帰ると導師の書斎に行った。

 ドアをノックして返事を聞く。そして、書斎に入るとすぐに謝った。

「すみません。友達の四人に知っていることを話しました」

 書斎のデスクに座る導師に頭を下げた。

「隠せなかったのか?」

「はい。申し訳ありません」

「どの程度教えた?」

「結界の仕事と、それに関わっている種族などです」

「これから先の話は?」

「それはきかれませんでした。ショックを受け止めきれなかったようです」

「口止めはしたか?」

「はい。メイドには外に出てもらいました」

「そうか……。まあ、おまえはすぐに顔に出る。それにウワサしか回っていないが、冒険者を雇って確認する貴族はいるらしい。時間の問題だった」

「では、新聞にのるかもしれないと?」

「ああ。時間の問題だな。クンツが動いているんだ。ウワサを広げて、世間を早足にしたと考えられる」

「僕が話したのは失敗ですか?」

「いつかは知る。だが、知るには早すぎた。まあ、これで無暗に突かれないだろう。真実を知らない者には絵空事の話だからな。……それより、障壁を貫通させる魔法を羊皮紙に書いて持ってきてくれ。宰相に渡す」

「外の世界を調べるのですか?」

「ああ。宰相から結界に穴を開けて、冒険者に外を調査させようと考えている。それが、クンツになるかはわからないが」

「わかりました」

「それともらしたことは気にするな。ジスランも知っているからな」

「導師は話したのですか?」

「ああ。あいつは数少ない私の味方だからな。それに、話を通しておくと問題が減る」

「問題とは?」

「色々としかいえないな。おまえが大人になったら教えるよ。だから、まだ、子供でいてくれ」

「はあ……。わかりました」

 導師はまだ貴族としての流儀を教える気はないようだ。

「この先、私たちの活動の内容をきかれることもあるだろう。だが、できる限り私に回せ。これでも親だからな」

「はい。わかりました」

 僕は書斎から出た。

 僕は怒られると思ったが、導師は怒らなかった。僕が情報をもらすのはわかっていたようだ。

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