第291話 平面説
いつものようにカリーヌの家に行った。
メイドに迎えられたのだが、家長であるジスランの書斎に通された。
「やあ。仕事は終わったようだね」
「なんで知っているんですか?」
僕は顔には出さないようにしていたはずだった。
「君は素直すぎる。顔によく出ていたよ。カリーヌは心配していた」
「申し訳ありません。なるべく抑えたつもりだったのですが」
「まあ、気にしてないよ。疲れているだけだからね。それより、スロットに人気が出始めたよ」
「それは、おめでとうございます」
「うん。今は増産中だよ。それに、広告を出さずにすんだ」
「なら、このまま経過観察ですね」
「うん。それでパチンコとスマートボールなんだけど、新しい仕組みを入れようと思う。候補は部下から出ているんだ。それを見て意見を聞きたい」
「はい」
僕はジスランから書類をもらって読んだ。
おもしろい発想がある。だが、実現できるかはわからない。
「おもしろいですね」
「うん。僕もおもしろいと思った。でも、君の羽ものの方が堅実と思っている」
前世のパチンコの発展を見て来たのだ。廃れたものと流行ったものはわかっていた。
「そうですね。でも、冒険するのもありと思います。パチンコは色々な台が出て消えていきましたから」
「ほう。冒険するんだね」
「ええ。余裕があるならしたいです。ちなみにスマートボールは三つの穴に玉が落ちて、初めて報酬がもらえる方法があります」
「それも、おもしろいな」
「パチンコとスマートボールは似ていますので、どちらかが消えると思います。それは考えて置いてください」
「そうなのか? 二つとも悪くない結果だよ」
「ええ。でも、玉を打って穴に落とす。似すぎているんです」
「なるほど。少し考えてみるよ」
「ええ。お願いします」
その後は部下たちが上げてきた提案を話し合った。
ジスランとは満足な時間をすごした。
博打とはいえ、おもしろいかどうかを考えるのは楽しかった。
僕はいつものようにガーデンルームに入った。
「よう。今日は遅いな。……仕事は終わったのか?」
「ええ。僕の仕事は終わりました。今日はお父様の仕事の話をして遅れました」
「ほう。それなら、新しい博打ができるのか?」
「まだ、考え中ですがパチンコとスマートボールに新しい機能をつける予定です」
「その機能とは?」
「わかりません。考え中ですね」
僕はいつもの席に座った。
「今日は人生に疲れた顔をしてないわね」
レティシアはいった。
「そんな顔をしてました? 疲れた顔は隠していたつもりなんですけど」
「全然よ。死んだ魚の目をしていたわ。もう少し、上手くやりなさい」
「そうなんですか?」
僕はカリーヌにきいた。
「うん。心配になるほどね」
カリーヌは気まずそうにほほ笑んだ。
「すみません」
「まあ、いつものシオンに戻ったから問題ないわ。浮き沈みは人だからあるからね」
レティシアはいった。
「ところで、あの話は聞いたか? 世界平面説が違うといわれているのを」
エトヴィンは僕にいった。
「それは知りません。どんな話なんですか?」
「うん。世界の外はまだあるらしい。だから、平面説と決めつけるには不十分と話が出ているらしい」
「学者だけの話ですか?」
「いや、王や宰相も疑っているようだ」
今、世界が平面説を唱えても不思議ではない。理由は結界の外の世界を知らないからだ。だが、外の世界は未知なはずである。ゆえに、平面説であっても問題はない。
「なんで疑っているのですか?」
「この世界は本来の世界から切り取られているらしい」
結界の話が伝わっているようだ。
おそらく、クンツが動いた結果だろう。だが、問題にする貴族は少ないと思う。
自分の目で確かめないと確信できない。それが、ウワサで流されない処世術の一つだ。
「それで、王はなんと?」
「なにもいっていない。ただ、備えよといっていた。なので、よくわからないウワサが飛び交っている」
「僕のところには来ていません。導師が教えないだけかもしれませんが」
「そうか。シオンは知らないか……」
「最近は仕事で精一杯でした」
「シオン。知っている情報を吐きなさい」
レティシアににらまれた。
「記憶にはございません」
僕は目をそらした。
「都合のよい頭ね。では、思い出させてあげるわ。シオンが私たちと会った頃の話がいいかしら。あれは――」
「ごめんなさい」
僕はレティシアの言葉を止めた。
「なら、さっさと吐きなさい」
僕は何を話すか考える。しかし、一部だけを話してかわすような器用なまねはできない。
「新聞にのせない。それが最低条件。もちろん、他で話すのもなし。ここだけの話です」
僕は知っていることを話すことにした。
「……わかったわ」
レティシアはメモをしまった。
「アルノルト。あなたもよ」
アルノルトは渋っていた。
「ここだけの話。新聞とか貴族とか関係ない。友達だけの話よ」
レティシアにいわれたアルノルトはメモ帳をしまった。
エトヴィンとカリーヌはすでにメモ帳をしまっていた。
そして、カリーヌは控えているメイドに合図を送る。すると、メイドは部屋から出て行った。
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