第290話 完成
「クンツさんには、停止方法があるとバレています」
夕食の席で導師にいった。
「そうか。やはり、あの程度でだますには無理だったか……」
導師は難しい顔をしていた。
「それで、どうします? 一か月はかかるといいましたが、その間に許可をもらうとはりきっていました」
「一か月ですべての許可はもらえないだろう。だが、万が一という可能性もある。……今度は素直に答えるとするよ」
「はい。その間に呪文を作っておきます。結界を壊さなくてもよいですから」
「そうだな。保険は必要だな」
導師はふうと息をはいた。
僕も同じ気分だった。問題は少ない方がいい。特に人族の未来に関係しそうな大きな問題は。
僕は書斎で魔力の流れから、言葉を得るように考えを切り替えた。
過去に再現した魔法と同じように、魔力が流れるものを思い出す。そして、その言葉を試すことで流れに違いを見た。
再現した魔法の数は多い。だが、その中でも合った言葉はない。
やはり、地道に言葉を探すしかないようだ。
僕は類語辞典を読んで、魔力の流れを調べた。
一日目は外れだった。
最初の言葉が決まらない。意味のない言葉のつづりでもよいが美学に反する。だが、ぜいたくをいっていられない。
僕は同じ流れをするように一文字づつ並べた。
出来上がったのは、呪文らしく理解できない言葉だった。
これを起点として、意味ある言葉に並べ替える。
仕事は早い方がいい。
僕は美学を追うのをやめた。
すると、三日目には完成した。
だが、言葉を見ると理解不明である。やはり、美学は必要のようだ。
意味のない言葉を意味ある言葉にする。すると、さらに意味の分からない呪文になった。
『まほろばの、夢と思いし境で、歌って遊ぶ水辺へと』
まるで短歌のようだ。
だが、導師にいった一週間でできたのでよしとした。
「呪文にはできたのか?」
導師は食卓に着くときにいわれた。
導師はなにかうれしそうだった。
「ええ。一応の完成はできました。だけど、意味不明な呪文になりました」
「それは別にいい。おまえの死んだような目は見たくないからな」
「そんなにひどかったですか?」
僕は平静を装っているつもりだった。
「ああ。見ているこっちが不安になる。それで、どの階級になった?」
「それなんですが、結界の規模によるので、模型では測れません。予測では少なくとも帝級は必要かと」
「そうか。それは今後の課題でいい。今は休め。例の場所に行くか?」
「行きます!」
僕は身を乗り出した。
「なら、今日は休みだ。羽を伸ばすとしよう」
南の海岸でぐったり昼寝もできる。
そう思うと、やる気が出てきた。
一日中、南の海岸で遊ぶ。
皮で作ったビーチボールで遊ぶ。もちろん、ノーラも連れて来ている。メイドがいた方がなにかと都合がよい。
二人だけで遊ぶのもいいが、数は多い方がいい。それに、メイドがいれば紅茶を出してもらえる。
「ノーラ。すまないな。二人だけだと手が足りん」
「いえ。遊んでいるのと同じなので気にしていません。こうして休めますから」
ノーラもビーチチェアに座って横になっていた。
日はまぶしいが、泳ぐには早すぎる。夏を前にした春の終わりを感じる。
僕は砂で山を作っていた。そして、トンネルを掘る。
なつかしい遊びに僕は楽しんでいた。
やはり、海水で固めないと崩れやすいようだ。開通する前に穴は崩れた。
「こうしてみると、シオン様が子供に見えます」
ノーラには太陽がまぶしいようだった。
「そうだな」
導師はクスリと笑った。
翌日はいつも通りの生活に戻った。
僕は魔導書の魔法の再現をしている。導師はまだ結界の研究をしていた。
破壊と停止。再起動はできている。障壁に穴を開けることも。
だが、他にも考えることがあるようだ。
それに、僕のように魔道具を複製したいらしい。だが、僕では教えることができない。すべて感覚の問題だからだ。
なので、導師は魔力を模型に流して機能を複製しようとしていた。
「シオン。魔道具の複製は難しいのか?」
導師に昼食の席できかれた。
「感覚の問題ですね。魔力の流れと変換点。これを掴んでいればできると思います」
「変換点がわからん」
「魔力を流して変わる時ですよ。その変換を理解できれば、同じことができます」
「魔法とは違うのか?」
「基本は一緒ですよ。魔法は言葉によって魔力の流れを決めて変換します。その変換を理解すればいいだけです」
「それが難しい」
「慣れるしかないですね。僕は何度も試して、感覚で理解しましたから」
「ふむ。感覚だけで理解するか。難しいな」
「最初は簡単な水道では? 僕が最初に覚えた魔道具です」
「ふむ。結界に手を出すのは早かったか?」
「勉強は簡単なものから入った方がよいと思います」
「結界とは別に覚えるか……」
導師は悩んでいるようだった。
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