第288話 強さ

 ガーデンルームに入ると、いつものようにアルノルトに話しかけられる。

「よう。今日は遅いな。なにかあったのか?」

「ええ。スロットに人気がないのを相談されました」

「あれがおもしろくないだと! 触ってみればおもしろさはわかるはずだ!」

 アルノルトの声は力が入っていた。

 僕はいつもの席に座った。

「出たばかりの博打です。これから、人気が出ると思いますよ」

「だよな。あれのおもしろさがわからないなんて、博打を語る資格はない!」

「その前に、あんたは年齢で博打はできないわよ」

 レティシアは冷静にツッコんだ。

 僕はメイドから紅茶をもらって飲んだ。

 変わらず、おいしい。

「でも、どうするんだ? 人気がないのは困るだろう?」

 エトヴィンにきかれた。

「今は知られていないからだと思います。しばらくすればウワサになると思いますよ。それでもダメなら新聞で広告を出す必要があるかと」

「はい! はい! 広告ならオレのところに」

 アルノルトは手を挙げた。

「それはお父様が決めることなので、僕にいっても意味がないですよ」

「なら、カリーヌ。頼む」

「それはお父様しだいね。おそらく、部数と理解ある新聞屋に任せると思うわ」

 カリーヌは答えた。

「なら、私のところもチャンスはあるわね」

 レティシアはいった。

「博打なら、オレのところだろ?」

 アルノルトはレティシアにいう。

「方針しだいよ。アルノルトのところは理解があるかしら?」

「オレがあるから、あると思いたい……」

 アルノルトの声は小さくなった。

 情報商戦はまだ続いている。

 僕は二人の新聞屋が生き残ることができるか心配だった。


 カリーヌに家から城にある騎士団の練習場に移動する。

「エルトンさん。冒険ってあんなものですか?」

 僕はクンツと結界の柱に行った時を思い出した。

「私は傭兵としか雇われたことしかありません。ですので、冒険家のする冒険はわからないですね。ですが、魔獣と会わなかったのが不思議です。街道でも来るときは来ますから」

 エルトンは答えた。

「アドフルさんは?」

「私はないです。騎士になるべく訓練の毎日でした」

「そうですか……」

 アドフルは貴族の血が入っているかもしれない。

「母上との話を聞いてしまったのですが、探知魔法内に入った魔獣が、逃げたというのは本当でしょうか?」

 エルトンはいった。

「ええ。導師の探知魔法を感じると逃げていました。例外はイノシシの魔獣ですね」

 冒険中に会った敵は、その一匹だけだった。

「なるほど、探知魔法を触れた魔獣は逃げたんですね。力量を身体向上魔法で計るのと同じですか?」

「似たようなものですね。探知魔法はマナに影響を与えます。それを察知した魔獣は逃げたと思います」

「獣のカンですか……。母上もお強いのですね」

「そうだと思います。でも、魔法の研究で強くなるとは思いません。どうやって強くなっているか謎です」

「騎士には騎士の練習方法がります。魔法使いのも同じと思います」

「それですと、僕は知りません」

 僕はくちびるをとがらせた。

「今度、母上にきくのがいいと思います」

「そうなのですが、秘密にしているのは納得できません」

「まあ、シオン様はこれからですので、今は必要ないのかもしれませんね」

 エルトンはほほ笑んだ。

 そんなものかと思うが、エルトンを困らせるのも悪いと思った。

「街道でも出てくる魔獣は、どんなのがいますか?」

 僕は話題をそらした。


 夕食の席で導師に魔法使いとして強くなる方法をきいた。

「それなら、自分が作った使い魔に、自分自身を襲わせればいい。使い魔は自身の投影でもある。だから、弱点とかはっきりわかる」

「僕の使い魔に人型はいません」

「なら、作るしかないな。作り方の本は後で届ける。……それより、あの使い魔は前の知識か?」

「ええ。理想形だと思ったんですが……」

「まあ、あまり人には見せるなよ。使い魔を見ればその術者の性格がわかる。あの使い魔では変人あつかいされるぞ」

「でも、魔力量は少なく、攻守をできます。人型の方が実戦的ではありません」

「まあな。だが、宮廷魔導士では、それが普通だ。力比べは使い魔で決めることもある。遊びと思って作りな」

「宮廷魔導士もめんどうですね」

「まあな。貴族の出しかなれないからな」

「わかりました。作ります」

 魔法でも貴族用に作らないとならないらしい。


 僕は結界の模型を前に考える。

 結界の機能は体が知っている。なので、何度でも復元できる。そして、機能を知っているから、破り方もわかっている。

 僕は結果の障壁に、魔力を帯びた指を刺した。すると、簡単に通った。

 帯びた魔力は特殊で、この結界のために変えてある。なので、この結界に通り道を作るなら、特殊な魔力にしないとならない。

 だが、これを伝えるには一つの方法しかない。こんな魔力と出されても、再現できるのは天才ぐらいだからだ。

 僕はあきらめてベットに入った。

 明日からは呪文にするべく、言葉をつむがないとならない。それは書いては消すを何千回と繰り返して、最適な言葉を探さないとならない。

 僕はその苦痛は明日に回して寝ることにした。

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