第287話 不穏

 午前の勉強をしていると執事のロドリグに呼ばれた。

 クンツ・レギーンが来たらしい。

 僕は隠し部屋に執事と共に入った。

「すまないな。解析は終わったかい?」

 クンツはいった。

「まだだ。だが、破壊方法は見つけた」

 導師は答えた。

「それは?」

「禁呪による破壊だ。だから、教えられない」

「なら、柱を破壊してくれないか?」

「それは危険だったのでやめた」

「なぜ危険になる?」

「柱は破壊されると、生きている柱が新たに結界を結ぶ。もし、結界が四角だったら、中央に二分するように結界が修正される」

「つまり、柱の破壊は中にいるオレたちも危険ということか?」

「ああ。世界が二分される可能性がある」

「つまり、破壊は危険なんだな?」

「ああ。それで、他の方法を模索している最中だ」

「ランプレヒト家にしてはおおらかに構えているな」

「ああ。千年単位で存在している結界だ。慎重になる」

「それで、外には出れないのか?」

「その前に外は危険と考えないのか?」

「危険はある。だが、なにもしていない方が危険だ。世界は進んでいくからな」

「外の世界は私たちよりも進んでいると思わないのか?」

「その可能性はあるだろう。しかし、足を止める理由にならない」

「この世界はゆりかごで守っているかもしれない。外の世界の支配者に潰される可能性は考えないのか?」

「考えるが、意味はない。強いものが生き残る。それは自然の摂理だ」

「自分自身は強いと考えているのか?」

「いや。わからない。ただ、それで死んでも後悔はないだけだよ」

「それは他人を巻き込んでもいいというのか?」

「人生は短い。後悔なく生きたいだけだよ」

「そういう考えなら、協力はできないな」

「外の世界を知らないで死ぬつもりか?」

「あこがれはないだけだ。あるのは生存競争。それに勝たないと生きていけない。だから、あこがれや好奇心で、結界を破壊することはできない。自分さえよければよいとは考えられない」

「そうか。わかった。必要なら呼んでくれ。結界の破壊には付き合う」

「まだ、破壊すると決まってないが?」

「いつかはするだろう? その時、頼ればよい」

「わかった。考えておく」

 チリンと魔道具のベルが鳴った。

 執事はあわてて隠し部屋から出た。

 そして、クンツは執事に案内されて応接室から出て行った。


「シオン。結界の壁に穴は開けられたか?」

 昼食の席で導師はいった。

 僕はその方法を考えていなかった。柱さえなんとかすればいいと思っていた。

「……考えてませんでした。柱しか頭になかったです」

 僕は気まずいが素直に答えた。

「そうか。その方法も探ってくれ。場合によっては必要になる」

 導師は気にしてないようだった。

「わかりました」

 終わったと思っていた仕事は終わっていなかった。

「それより、となりの国が気になっていると聞く。そうなのか?」

 導師には意外なことのようだ。

「はい。神霊族の次の一手がとなりの国と思います」

「まあ、そう考えてもおかしくないな。だが、戦争ができるようになるのは、まだ先の話だ」

「はい。半年後とか」

「早くてもな。だから、心配するな。動く時には教える。今は先のことより今のことを考えてくれ」

 導師は僕を心配していたようだ。

「はい。しばらくは結界の研究でよいですか?」

「ああ。そうしてくれ。魔導書の魔法の再現は後回しでよい」

「わかりました」


 カリーヌの家に行った。

 今日はジスランに迎えられた。

「やあ。スロットの件でききたいんだ。よいかな?」

 僕はうなずいてジスランの後に続いた。

 そして、書斎に入った。

「スロットなのだが、あまり評判は良くない。それで、改良したスロットを早めに出そうと考えている」

 ジスランはデスクに座った。

「まだ、設置してから日は浅いですよね?」

 僕が調査にいっている間にカジノに置いたはずだ。

「うん。そうなのだが、食いつきが悪くって」

「それはパチンコとスマートボールがあるからです。その二つは初めてできた一人用の博打です。ですから、食いつきはよかったと思います」

「なるほど。僕はあせっているのかな?」

 ジスランはほほ笑んでいるが、目は本気だった。

「もう少し様子見をするべきかと。一か月経っても、人が座らなかったら撤去も考えないとならないです」

「そうか……。僕はパチンコと同じように考えていたようだ。今回も新しい博打だから、すぐにウワサになると思っていた」

「ウワサになるのは、まだ時間がかかると思います。……新聞屋に広告をのせてもらう方法もありますよ」

「新聞か……。それもよいかもしれない。でも、それは経理と相談だね」

「はい。今は経過観察でよいと思います」

「うん。ありがとう。少し神経質になったようだ。おとなりの国のウワサが気になってね」

「おとなりは戦争するんですか?」

「今の時点ではわからないね。だけど、軍の拡張に進んでいるのは確かだ。でも、他国と戦争するには、まだまだ先になる。競馬の開業と重なるかもしれない。それが嫌でね」

 僕は競馬場の進捗を思い出した。

 競馬も半年後をメドに建設している。時期が合うようだ。

「あー。それは嫌ですね。戦争はしないで欲しいですね」

「そうだね。博打は平和な時にしか楽しめないからね。また、なにかあったら知恵を貸して欲しい」

「僕でよければ」

 僕は書斎を出た。

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