第286話 研究中

 朝食の席で導師はあくびをした。

 僕はすかさず見る。

 導師は決まりが悪い顔をした。

 いつもは僕があくびするのをしかるからだ。

「少し、大目に見てくれ。あの後も解析していたんだ」

 僕は導師の解析中に寝てしまった。そして、気がついたらベットに寝ていた。

「夜更かしをしたんですか?」

「まあな。解析には時間がかかる。しばらくは、寝不足が続く」

「素直に寝てよいのでは?」

「そうなんだが、熱中すると時間を忘れる。それに私は夜型だ」

 導師も僕と同じで夜型らしい。

「時間ならあると思いますよ?」

「まあ、そうなんだが、気分がのると続けてしまうな。まあ、二、三日の間だ。それより、今日は一日使って解析するぞ。お休みはなしだ」

 僕は一気にやる気がなくなった。

 カリーヌのところで休めない。それは苦痛だった。

「また、とっておきの場所に連れて行く。それで、かんべんしてくれ」

「ビーチパラソルとビーチチェアはできていますか?」

「ああ。私の倉庫に入っている」

 導師にいわれて、不満ながら了承した。


 一日で得た解析結果は少しだけだった。特に進展はなかった。

「基本構造は簡単では?」

 僕は導師にきいた。

「そうだな。特殊な仕掛けはなかった。思ったより簡単に解析できた。まあ、あれだけの大がかりの装置だ。構造は難しくはできないのだろう」

 単純ゆえに大がかりな結界ができたようだ。

「後は宰相に連絡だが、明日は休みにする。南の砂浜で一日だらけてすごすぞ」

 僕のテンションは上がった。


 南の島で一日中、寝てすごす。それはぜいたくな時間だった。

 水筒に紅茶入れてもらった。もちろん、お菓子と昼食のお弁当を作ってもらってある。

 僕は波打ちぎわに行った。

 もちろん、泳ぐこともできるのだが、水温は高くない。まだ、泳ぐには早いようだ。

 導師はビーチパラソルとビーチチェアを設置した。

「できたぞ」

 導師に呼ばれて、ビーチチェアに座った。

「座り心地はハンモックに似ているが、これでよかったのか?」

 導師はいった。

「ええ。本当ならぬれた水着で寝るんです。ソファーのように快適ではないですね」

「なるほど。そのための防水か」

「ええ。暑くなれば、海で泳いで休めます」

「うむ。これはこれでいいな」

 導師は満足しているようだった。


 お休みが終わって、いつもの日常が帰ってきた。

 僕は午前中は勉強して、午後からカリーヌ家に行った。

 ジスランに迎えられることはなく、素直にみんながいるガーデンルームに行った。

「よう。二日もどうしたんだ?」

 アルノルトにきかれた。

「遺跡の結界の解析で時間が取られました」

「ああ。本業か。それなら、仕方ないな」

 僕はいつもの席に座り、メイドから紅茶をもらった。

 礼をいって、紅茶に口をつける。

 相変わらず、あきないブレンドでおいしかった。

「変わったことはありますか?」

「おう。それならあるぞ。スロットの見本が届いた。あれはおもしろいな」

 アルノルトはまたやりたいようだ。

 スロットに思いをはせていた。

「おもしろくない話はあるわよ」

 レティシアはいった。

「それは?」

「となりのカシュゴ王国が軍を拡張している。近い内に戦争をしたいみたい」

 カシュゴ王国は軍事国家に変わろうとしている。それも、龍の牙を嫌う人達で。

 それは龍の牙で神霊族の干渉を弾いている僕たちにとって、敵になる行為だ。

「それって、確かですか?」

 僕はきいた。

「ええ。お兄様が危険視をしていたわ。仮想敵に私たちの国は入るから」

 カシュゴ王国は神霊族のコマになったと考えていいかもしれない。だが、神霊族の本当の目的がわからなくなった。

 神霊族は人族を。魔神族は魔族を。その二つを支配して戦争をして楽しんでいるはずだ。しかし、人族同士の戦争は遊びのルールから外れている。

 だが、神霊族が人族同士の戦争で遊んでいるとも考えられた。

 神霊族の考えが読めなかった。

「でも、戦争するなら半年は先になると聞いたわ」

 レティシアはいった。

 物資の調達が整ってないようだ。

 僕は半年でできることを考える。しかし、なにもよい案はなかった。

「カリーヌさんは新しいスロットを入れて変化はありました」

 僕はきいた。

「まだ、何も聞かされてないわ。カジノに並べたばかりだから」

「そうですか」

「それよりも遊びましょうよ」

 レティシアはいった。

 カリーヌはメイドからトランプをもらった。


 久しぶりに騎士団の練習場に顔を出した。

 相変わらず、黙々と修行をしている人が多かった。

「今日は鈍った体を元に戻しましょう」

 エルトンはいった。

「そうですね。エルトンさんもアドフルさんも練習は久しぶりですから」

「よろしくお願いします」

 アドフルはいった。

 その後、僕は棒を槍として稽古をした。


 夕食の席では導師は暗い顔をしていた。

「なにかあったのですか?」

「宰相に文句をいわれた。戦略級魔法使いを冒険に連れ出すなと」

 僕は反発したかった。

 かごの中の鳥になる気はない。

「自由に生きたいですよ。貴族をする。それだけは守りますけど……」

「だよな。宰相は過敏に反応しているのは感じる。まあ、となりの国が意味なく軍事国家になるんだ。心配なのはわかる」

「ふつうなら、戦略級魔法の威力を知っているはずです。なのに、攻めてくるんですか?」

「ふつうなら、ないな。だが、神霊族が関わっていたら意味がない。盲目の羊と一緒だ」

 僕は嫌気がさした。

 恐怖を知らない軍団とは戦いたくない。行きつく先は、どちらかの全滅だからだ。

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