第285話 解析中

 いつもの時間にカリーヌの家から屋敷に帰った。普段なら、城にある騎士団の練習場に向かうのだが、研究が先だった。

 屋敷に帰ると、実験室に移動して、問題の模型を机の上に置いた。

「かかっている魔法の解除はできますか?」

 僕はきいた。

「まだだな。今はいじっているだけだ。それより問題だな。結界を一つ壊すと他とつながる。これでは壊すことができない」

「はい。同時に二つ壊さないとならないと思います」

「ん? 結界の柱は四つとは限らないぞ。発見されているのは一つだけだ。他に何本あるかわからない」

 僕は抜けていたようだ。結界は四角と決まっていると思っていた。

「すべての柱を同時にとめるしかないんですか?」

「まあ、何本あるかわからない。他の柱を見つけないと、話にならないな」

「それって、不可能では? 閉じた世界といえど、人族には広いですよ」

「そこは龍族を頼るしかないな」

 僕は納得した。龍族の飛行能力なら簡単に発見できるだろう。

「宰相に頼んで、宝石とか用意させるんですか?」

 僕はきいた。

「気が早い。まだ、実験段階だ。柱の機能を解析してからで遅くない。それで、この模型を何度か壊す。復元に協力してくれ」

「わかりました」

 その後は導師は模型を壊して試す。それを何度も繰り返した。


 夕食の時間になり強制的に実験は中止された。

「導師。なにをしているんですか?」

 導師は模型を壊して、考える。そして、僕に復元させた。

「同時に破壊する方法だ。共振を使って壊せるかみたんだが、一つ一つ独立している。まあ、無理な話だった」

 導師は先を考えていたようだ。だが、無茶な話である。

「食後の実験は?」

「解除か停止の魔法を構築する。おまえは見て方法を学べ」

「わかりました」


 解除の魔法の構築は難易度が高いらしい。

 魔力を流し込んで、構造を理解してとめる。カギ穴をピッキングで回すようなものらしい。

 カンが頼りで何度も挑戦しては失敗する。それを、根気強く繰り返す。

 何度も失敗して何度も挑戦する。

 まるで、魔法を呪文にするかのような作業だ。

 僕には根気はいらないと思うほど、時間がかかるもののようだ。

 一時間ほど、僕は柱の構造をいじる導師を見ていた。

 僕はあきていた。人の作業を見ても楽しくはない。それなら、自分がしようと考えた。

 結界の柱を粘土で作って鉄の板の上に置いた。

 理由はわからないが、導師が悪戦苦闘している模型とは反応しなかった。

 術者の意識で変わるようだ。

 僕は新たに柱を作って四角の結界を張る。

 それの結界の柱の機能を止めようとしたが、複製できるから機能は理解しているのを思い出した。

 僕は一つの柱に魔力を流して機能をとめた。

 簡単に止まった。そして、囲んでいる結界は新たに結ばない。

 機能が止まった柱の結界は消えている。となりの柱からとまった柱に、障壁は伸びているが、途中で薄れて消えていた。

 これなら、一本ずつ消しても問題ない。

「導師。できました」

 導師は模型をのぞき込んでいた顔を上げた。

 その顔はパズルの解けなくて、ムカついているような顔だった。

 僕はデスクの上に置いた。

「ほう。面白い結果だ。でも、なんですぐにできた?」

 導師は興味深そうに見ていた。

「複製ができるからかと。機能を理解していないと複製はできないのでは?」

「理屈では理解できる。だが、どうやって停止させたか見せてくれ」

 導師は自分の模型を指した。

 模型の柱の一つを停止させた。

 この模型でも同じ結果だった。

「ふむ。これなら、柱を停止すればいいだけだ。それより、シオン。なぜ、早くに教えなかった?」

 導師に攻めるような目で見られた。

「さっき、気付きました。これまで、解析はしても、停止はしたことがありません。今まで壊していましたから」

 導師は顔を押さえた。

 なにか失敗したらしい。

「すまん。今までは未知でも危険なものが多かった。だから、壊して終わらせていた。本来はこの結界のように解析する」

「そうなんですか。大変ですね」

 宮廷魔導士は根気が必要らしい。パズルを解くような解析は、僕はすぐにでも投げ出す自信はあった。

「他人事みたいにいうなよ」

 導師はため息は吐くと、身を起こして椅子の背もたれに体重をかける。

「まあ、よい。結果は満足だ。宰相に連絡しておこう。それと、龍族に結界点の柱の数を教えてもらわないとな。人族では未知の場所にあるだろう」

 導師は考えながら答えた。

「結界は解くんですか?」

「ん? まだ、決まらない。宰相や王の考えによるな。まあ、クンツが目をつけた。破壊される前に外に出さないとならない。まあ、クンツにも連絡が必要だな」

「クンツさんには、なんと話しますか?」

 僕はきいた。

 クンツと会った時にきかれる可能性が高いからだ。

「ああ。話を合わせないとまずいな。クンツのことだから、外の世界しか目に入っていないかもしれない」

 僕は苦笑した。

 クンツならあり得るからだ。

「結界の破壊の結果を教える。だが、停止の時の結果は教えるな。それと、バレても協力はするなよ。外が危険か安全かわからないからな」

 外の世界は人族にはわからない。古い文献にものっていないと思う。

「了解しました。それと、外の世界なら龍族にきいてみては? なにかを知っていると思います」

 僕はいった。

「そうだな。まずは宰相と話し合いが先になる」

 導師は面倒くさそうな顔をした。

「すぐに教えなくてもいいと思いますよ。教えたら、クンツさんが嗅ぎつけて押しかけられます」

 導師はクスリと笑う。

「そうだな。それに結界の特性を解析するぞ。停止できても他の機能があると思う」

「そうですね」

 僕は導師の意見に賛成だ。結界には、理解できていないところがあった。

「おまえは解析ができていないのか?」

「こういうものとわかるんですが、言語化はできません」

 感想を言葉にできない感じに似ていた。

「それは内側からはわからないということか?」

「そうと思ってもらえばいいです。言葉にしたくても、最適な言葉がわからないという感じです」

「なるほど。調査は必要だな」

 その後は停止した柱の起動など、試すことになった。

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