第282話 冒険

 旅は昼食が終わると再開された。

 僕は疲労が抜けていない。エルトンが背負うといっていたが、魔獣が現れた時に対処が遅れる。そのため、宙に浮かんで導師の手に捕まっていた。

 やがて、マナの濃度が濃くなった。結界点が近くなったようだ。

 ふと、みんなが警戒した。

 僕はみんなが見る方に視線を移した。岩の上にイノシシのような巨大な獣がいた。

「ブレイクブレット」

 僕は魔法を展開した。

 すると、イノシシのは反転して姿を消した。

 一気に上がった緊張が溶けた。

 僕は魔法を解除する。

「それって、本当にブレイクブレットなの?」

 杖のシルヴェーヌはいった。

「そうですけど?」

 シルヴェーヌは僕の答えに納得してないようだ。

「こいつはそういうヤツだ。気にしていたら、精神が持たんぞ」

 導師はいった。

「ところで、いつまで浮かんでいられるのですか?」

 シルヴェーヌは導師にきいた。

「さあな。丸一日はできるだろう」

「人族の魔力量を超えてますよ?」

「それができる。シオンはふつうではない。だから、先にいっただろう? 手がかかると」

 シルヴェーヌはあきらめたかのような顔をした。

「英雄になる理由がわかった気がします」

 シルヴェーヌはなにかをあきらめたようだ。


 だいぶ、マナの密度が濃くなっている。遠くにはマナが集まり固まっている。

「これから、魔獣が出てくる。武器をかまえろ」

 クンツはみんなにいった。

 僕は宙から降りる。そして、ノクラヒロの腕輪をつけた。

「おまえは浮かんでいていいぞ」

 導師にいわれた。

 歩いていても飛んでいても変わらない。だが、背丈が低いので草で周囲が見えなかった。

 僕は再度浮いて周りを見る。

「導師。気配とか感じるんですか?」

「なにをいっている。探知魔法を使ってないのか?」

「ええ。探知魔法を使うとマナが動きます。それで、こちらを特定できますから」

「そうなのか? それで、探知しても魔獣は離れていくんだな」

 今まで、魔獣に襲われなかった原因のようだ。だが、探知魔法で乱されえたマナを感じて逃げ出している。おそらく、野生のカンで逃げているのだろう。それだけ、探知魔法を使っている人間が怖いということだ。それを無視した先のイノシシは、強い魔獣のようだ。

 先頭のクンツは少し速度を落として歩き続ける。しかし、魔獣は出てこなかった。

 濃密なマナの壁があった。僕たちはそこに入っていく。

 あきらかにマナを集める装置があるようだ。壁と感じるほどマナの濃さが変わった。

「おかしいな。ここに来るまでには魔獣が現れるのに」

 クンツは頭をかしげていた。

 魔獣などいない方がよい。戦っても疲れるだけだ。

 先頭ではなにやら話しているが、僕も探知魔法を使うと周囲には魔物の影はなかった。

 少しばかり話し合うと先頭は足を進めた。

 僕たちもそれに続いた。

 空を見ると、世界の境目が見えた。

 結界点である。そこから区切るようにかすかに見える壁があった。

 その二つの壁の融合点に向かって進む。

 やがて、大きな塔のような柱が見えた。

「あれが目的の結界の柱だ」

 クンツは大声でいった。

 もう、魔獣に襲われないのだろう。

 その柱に向かって僕たちは進んだ。

 柱を目の前にして、僕たちは野営地を作った。

 日が傾いているからだ。まだ、夕方のオレンジ色は見えないが、野営地は先に作る方がいい。何日かここでキャンプをすることになるからだ。

 空間魔法の倉庫からテントなどを出す。もちろん、火をつけるまきもある。

 導師とエルトンと共に大きなテントを張った。

 野営の準備ができると、クンツがテントに顔を出した。

「こっちも野営の準備はできた。まだ、時間があるから、柱を見にいかないか?」

「柱の近くに魔獣は?」

 導師はいった。

「いない。マナが濃すぎるようだ。それより、渡した魔道具は使っているか?」

「私には必要なかった。シオンは?」

「使ってません。この濃度なら問題ないです」

 僕は答えた。

「エルトンは?」

 導師はきいた。

「少し気分が高まります。なので、魔道具を使っています」

「そうか。マナはそう働くか……」

 導師は考え込んだ。

「考察は後にしてくれ。日がある内に柱を見る」

 導師は顔を上げた。

「すまない。では、行くとしよう。まあ、時間がないから、さわりしかわからないと思うけどな」

「それでもいい。印象をききたいから」

「そうか。わかった」

 僕と導師はエルトンを連れて柱に向かった。


 柱のもとに来た。

 結界点の柱は大きかった。下からでは見上げても、頭は見えなかった。

「感想は?」

 クンツはいった。

「人族が作ったとは思えんな。これだけの装置なら他にも使うだろう」

 導師はいった。

「なるほど。人族が作ったとはいわないんだな?」

「ああ。これを作れる魔法使いはいないな」

「そうか。まあ、好きなだけ観察してくれ。オレは野営地で飯を作るよ」

 クンツは柱から野営地に帰っていった。

「導師。これの柱を触ってよいですか?」

「少し待て。探知魔法で分析する」

 導師は探知魔法を広げた。

 僕も同じように探知魔法を広げた。

 結界点はマナであふれている。そして、壁は探知魔法を通さなかった。

 世界はこの柱で区切られているようだ。

 導師は探知魔法を解いた。そして、息をはいた。

「さっぱり、わからない」

 導師はいった。

「探査系では?」

「それも使った。だが、未知な魔法だ」

「柱に触っても問題ないですか?」

「今日はやめておけ。明日に魔道具も使って試す」

「わかりました」

 僕はそびえる柱を見上げた。

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