第280話 準備

 寝るまでの間に、日課である瞑想をする。

 マナを集めて体全体で練り回す。そして、腹の下にためる。

 それを繰り返していると、その輪は大きくなり。体中に。そして、体を起点として回る。

 ふと、意識が拡大した。

 探知魔法を可能な限り広めた時と同じだ。

 そこにはマナの輝く草原があった。そして、その草原の海から一柱の神霊族が僕を見ていた。

 僕は見返すと、神霊族はマナの海の中へ隠れた。

 相変わらず、神霊族がなにを考えているかわからない。

 僕は瞑想を解いた。

 息をはいて精神を整える。

 僕はわきにある粘土に滅殺の魔法を使った。

 粘土は砂に変わった。

 神霊族もこの粘土のように崩れるのかと考えた。


 クンツとの約束は果たされないが、調査には行くことになった。

 執事に頼んで必要な物資を集める。そして、僕と導師が行くことになった。

「悪いな。これが、旅の予定だ」

 クンツは応接室で導師に紙を出した。

 導師は紙に目を通した。

「行き当たりばったりだな。もう少し、計画的にはならないか?」

 導師は手の中の紙を振った。

「途中に魔獣がいる。それの排除で時間がかかる。結界点にはマナが集中している。魔物がいるのは理解してくれ」

「なるほど。結界点はマナが集まっているのか?」

「ああ。それで、ゲートでは近づけない。転移でもな。だから、歩くしかないんだ」

「面倒な場所だな。下手するとマナに酔うかもしれない」

「それは魔道具で対処する。障壁を張ってマナの分布を一定数にする」

「そんな魔道具があったか?」

 導師は目を細めた。

 導師でも知らないらしい。

「仲間が作った。だから、魔道具屋には置いていない。後で作って持ってくる」

「人数分頼む。それで、そんな危険地帯に少数でいくのか?」

「ああ。大勢だと行動が鈍る。精鋭を選ぶからガマンしてくれ」

「それは見てみないとわからんな。まあ、任せるしかないけどな」

「そっちはあの騎士の二人を連れて行かないのか?」

 クンツは探るように導師を見た。

「エルトンとアドフルか……。おまえと相性が悪いと聞いた。連れて行かないつもりだ」

「こっちに気を使う必要はない。少なくとも、エルトン・カールトンは連れていけ。アドフル・セルウェイはダメだけどな」

「そうか、本人にきいてみよう。王直属の騎士なので簡単に使えん」

「まあ、それはそっちの問題だから、オレはなにもいえん。それより、破壊はしないんだな?」

「ああ。調査が先だ。それに無秩序の破壊したらなにが起こるかわからん」

「そうだな。お手並み拝見させてもらうよ」

 クンツは破壊しないことに納得したようだ。

「悪いな。これでも貴族だ。国にとって不利益ならやめるしかない」

「わかっているよ。だが、あの結界点を破壊できる人物は、ランプレヒト家しか知らない。他に探すには時間がかかるし、詳しい人物も知らない。まあ、手詰まりだったんだ。まあ、利用するといえば言葉は悪いけど使わせてもらう」

「わかっている。おまえとはなれ合いはしない。そのつもりでいて欲しい」

「ああ。それで十分だよ。では、さっそく準備にとりかかる。三日後には準備は整う。そっちも、そのつもりで待っていて欲しい」

「わかった。三日後だな。それに合わせる」

「では、三日後の朝に、ここに来るよ。それから、ゲートで移動しよう」

 クンツは席を立った。

「わかった」

 導師はベルを鳴らした。

 執事が間を開けて応接室に入ってきた。

 クンツは執事の案内で屋敷から出て行った。

「シオン。どう思う?」

「クンツさんに強制的に壊すようにされるとかですか?」

「それもあるが、結界点だ。人族に壊せると思うか?」

 神霊族は物理的な体を持たない。その代り、マナなどのエネルギーの体を持っているのだろう。だから、エネルギーに特化していると思う。魔力やマナを使うはずだ。

 だが、結界点は物理的にも存在している。それは物理的な体を持っている必要がある。有翼族の白い羽の方が協力したと考えられる。

「結界を作るのに、有翼族も関わっていると考えます。人族では難しいかもしれません」

「そう考えたか……。まあ、現物を見ないと始まらない。旅の用意をしてくれ」

「はい。わかりました」

 僕はそう答えたが、空間魔法の倉庫がある。そこに、必要なものは入っていた。


 昼食を食べてカリーヌの家に行った。

 なぜか、ジスランに迎えられた。

 ジスランの書斎に行くと、デスクには紙が二、三枚しかない。

「案件は問題ないのですか?」

「うん。もう君に見せるほどの問題はない。まあ、会場ができれば、問題が出てくるだろう。また、その時に頼むよ」

「はい」

「それで、結界を調査しに行くと聞いた。君はこの世界を、どうしたい?」

 顔はにこやかに笑っているが、目は本気だった。

「……わかりません。必要なら結界は壊しますし、必要なければそのままでもいいと思います」

「君は外の世界にあこがれがあるかい?」

「今はないです。閉じていても、この世界を理解していませんから」

「そうか。ザンドラと同じ意見のようだ。安心した」

「……もし、僕は外の世界が見たいといったらとめますか?」

「……人にきいておいて、自分が話さないのは悪いと思うから話すね。僕は外とつながるには怖い。なにが起きるかわからないからだ。神霊族や魔神族の手のひらの中でもガマンができる。今まで、そうだったからね。でも、外の世界に希望があるのなら見てみたい」

「外の世界には危険と希望があると思います。どちらも一組であると思います」

「うん。そうだね。では、帰ってきたら感想を聞かせて欲しい」

「はい。……導師から連絡はあったのですか?」

「うん。家を頼むといわれた。まあ、親戚だからね。それぐらい頼まれるんだ」

 ジスランはほほ笑んだ。

「よろしくお願いします」

「うん。心配しないで行っておいで」

「はい。三日後ですが」

 僕は書斎を出てガーデンルームに移動した。

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