第279話 貴族

 今日はジスランの迎えもなく、素直にガーデンルームに行けた。

「よう。今日は早いな」

「ええ。用事はなかったです」

「そっか。それより、神器って呼ばれた武器が盗まれたぞ」

 過去、神器を持つ人に狙われた。神器は神霊族の敵を殺すように作られた。しかし、クンツによって呪いは反転している。それでも、持っていくのなら、また、狙われる可能性があった。

「本当ですか?」

 僕はいつもの席に座った。

「ああ、亡命した貴族が持っていったらしい」

「よく持ち出せましたね」

 紅茶をくれたメイドに感謝を告げて一口飲む。

「ああ。侯爵だったからな。衛兵は偽造された書類を信用したようだ」

「その侯爵は亡命ですか?」

「ああ。第二王子が責任を追及されているぞ」

「龍の牙のブローチを嫌う貴族は危険ですね」

「ああ、なにが気に入らないのかわからないが、捨てた貴族はいるな」

「数は多いんですか?」

「いや。少ない。だから、目立っている」

「亡命先はカシュゴ王国ですか?」

「ああ、そう聞いている。あそこに亡命する貴族は他国でも多いらしい。これ以上の情報は確証がないな」

 アルノルトは今日はいつもと違って真面目だった。

「どうしたんですか? 今日は真剣ですね?」

 僕はきいた。

「まあな」

 アルノルトはそういうと顔を赤くした。

「お父様に力になれといわれたらしいわ。まあ、新聞屋だから情報は持っているわ」

 レティシアは捕捉した。

「レティシアさんも同じ情報を持っているんですか?」

「ええ。捕捉すると、第二王子の失態で第三王子との関係が悪くなったらしいわ。それで、第一王子が盛り返しているわ」

「権力争いも大変そうですね」

「これは、シオンには遠い話ね。貴族のイロハの勉強中ですもの」

 カリーヌはいった。

「ええ。そこら辺は理解できません。まあ、導師の影響もありますね。権力争いは宮廷魔導士として才覚でしのいでいるようですから」

「それだけで、足りると思って?」

 レティシアは意味ありげにほほ笑む。

「裏で動いていると?」

「ふつうはね」

 レティシアは楽しそうにほほ笑んだ。

「シオンには早すぎるわ。後、二年は必要ね」

 カリーヌはいった。

 九歳にして貴族を語るには早いと思うが、カリーヌとレティシアを見ていると早すぎでもないみたいだ。

 エトヴィンは頭がよいので、除外である。まあ、ふつうならアルノルトぐらいの考えが、年齢にそっていると思う。

「だけど、シオンは例外だと思う。この歳で大人と同じ仕事ができる。ふつうではないよ」

 エトヴィンはいった。

「まあ、そうね。でも、貴族を知らない。私たちは幼い時から染まっているから知っている。でも、シオンが貴族になってから一年ぐらいよ。まだまだ、足りないわ」

 レティシアは答えた。

「貴族としては、同じ意見だ。だが、大人と同じ仕事ができると思うか?」

 エトヴィンはいった。

「ふつうはできないわね。まあ、発案者であるから、できるのかもしれないわ」

 レティシアはそういいながら紅茶に口をつけた。

「お父様に仕事を覚えされているだけですよ。お父様のように大きな決断はできません」

 僕は答えた。

「それでもよ。新聞屋の仕事を手伝っているけど、雑用よ。大人と同じようにあつかわれないわ」

「僕も子どもあつかいですよ」

「そうは見えないわ。お父様は頼りにしているから」

 カリーヌはいった。

 僕はジスランの求めているのは前世の知識だ。僕自身の意見は必要としているのか不安になる。

「それなら、うれしいですけど……」

「まあ、シオンは自分の評判に関心がないのが欠点ね。自覚しないと、嫌味になるわよ」

 レティシアは嫌らしくほほ笑んだ。


「シオン様。シオン様の気がかりは本当でした。傭兵では静かにウワサになっています。カシュゴ王国は優秀な傭兵を隠れて集めているようです。それも報酬がよいようです」

 騎士団の練習場に向かう道でエルトンにいわれた。

「そうですか。貴族も亡命しています。カシュゴ王国には、なにかあるようですね?」

「はい。ですが、今は動けるほど情報は集まっていません。しばらくは傍観ぼうかんしていればよいと思います」

「わかりました。しばらくは平和を楽しみます。おいしい料理が出ていますから」

「そうですね。私は食いすぎて、少し太りました」

 エルトンは笑った。

「エルトンさんは飲みすぎです」

 アドフルはあきれたようにいった。


「クンツさんから、結界の破壊の依頼を受けました」

 夕食の席で僕はいった。

「そうか。冒険家らしいな。結界は閉ざしているのか、守っているのかわからないのにな」

「では、断りますか?」

「いや、調査が必要だ。どちらかわかれば、選択肢は増える」

「行くのに、ゲートを使っても一日かかるようです。往復で二日といわれました」

「なら、よけい慎重にならんとならんな。ゲートの魔法が干渉する結界点だ。巨大な魔法装置でもあるのだろう」

「そうなるんですか?」

「ああ。ゲートの魔法を使えないというなら、近くで巨大な力が働いていると考えられる。それが、なければ、その装置まで直行できるはずだ」

「では、時期をみて調査ですか?」

「ああ。クンツには悪いが破壊は、その次になる。交渉は私がする。おまえは近々、調査に行くと考えてくれ」

「わかりました」

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