第278話 隣国

 ガーデンルームに入るとアルノルトはいう。

「よう。今日は仕事があったのか?」

「ええ。スロットができました。それで、試験していました」

「なぬ? 新し博打ができたのか?」

「ええ。スロットです。パチンコと同じで一人でできる博打です」

 僕はいつもの席に座った。

 アルノルトは指をくわえてカリーヌを見た。

「今日はダメよ。試作品だから。完成してからにして」

 カリーヌはいった。

 アルノルトはビシッといわれてあきらめたようだ。

 アルノルト相手にはけじめが必要なようだ。

「まあ、いつも通り、トランプで楽しみましょう?」

 レティシアはいった。

 カリーヌはメイドからトランプをもらって切った。


「となりの国は人が集まっていますが、兵を集めているとは聞きません」

 騎士団の練習場に向かう道でエルトンにいわれた。

「でも、なんで、人が集まっているのですか? それが不思議です」

「そうですね……。私には想像できません」

 エルトンの情報網でもわからないようだ。

 あまり、小さなことに執着しない方がいいかもしれない。僕の敵は神霊族がいる限り、どこにでもいるのだから。

 その日は近接戦闘の訓練をして痛い目にあった。


「導師。となりの国のことは気にしない方がいいですか?」

 僕は夕食の席でいった。

「そうだな。おまえは神経質になっている。人が集まっても動くには時間がいる。だから、大きくかまえていた方がよい。国単位の話ならなおさらだ」

 僕はあせっているようだ。神霊族という敵に対して早まっているのかもしれない。神霊族はとらえどころがない種族だ。だから、あせっているのだろう。

「なんでも、神霊族につなげるなよ。判断をあやまる」

 導師の言葉に納得した。

「わかりました。今は平和な時と考えます」

「ああ。事態はゆっくりと動いていく。もう少し余裕を持て」

「はい」

 僕は平穏だと感じてよいようだ。


 カリーヌの家に向かっている道中、クンツにあった。

 エルトンは息もつかせず、クンツの前にひざを着いた。

「せめて、シオンと話ができる距離にしてくれ」

 クンツはエルトンにぼやいた。

「いえ、男爵様に礼をするのは当然です」

 エルトンは当たり前のようにいった。

「王直属の騎士団だ。そこら辺の男爵より偉いだろう?」

「いえ。騎士の身ですから」

 クンツは肩を落とした。

「シオン。隣国りんごくの情勢は異様なのはわかる。だが、まだ、準備段階だ。何も始まっていない」

 クンツは手紙を振っていった。

「では、予兆はあると?」

 僕はきいた。

「可能性の問題だ。あるといえばある。ないといえばない。その程度だ。取り入れるには情報が早すぎる」

「そうですか。なら、安心です」

 僕はほほ笑んだ。

「それより、結界の柱を壊せないか? 外の世界が見たい」

 クンツがいっているのは、僕たちを囲っている結界だろう。

「それは導師と相談しないとならないですね。遠い上に物理的にも魔法的にも、やっかいだと聞きましたから」

「まあな。オレの仲間では壊せなかった。そこで、ランプレヒト家の力を借りたい」

「男爵家が公爵家に頼むのには、いささか問題があると思います」

 エルトンはいった。

「それを決めるのは、公爵家だ。文句ないだろう」

 クンツはエルトンに文句をいった。

「ふつうではありえないです。それを知ってください」

 エルトンの言い分はわかる。

 男爵家と公爵家が対等に交渉するのは、立場を理解していないとしかいえない。

 貴族の階級があるように、貴族は縦社会だからだ。

「知っているよ。だが、シオンのところは別だ。話がわかる。だから、こうして来ているんだ」

 クンツは手紙をエルトンに見せた。

「シオン様。彼に手紙を出したのですか?」

 エルトンは振り向いていった。

「……うん。情報が欲しかったから」

「それでしたら、私が集めます。騎士団だけでなく傭兵仲間がいますから」

「うん。でも、僕の心配しすぎだったみたい。導師にも心配された」

「それなら、おまえの心配通りだぞ。あの国には龍のブローチを持たない貴族たちが集まっている。神霊族が関わっているのなら、あの国は戦争を起こしても不思議ではない」

「本当ですか?」

「ああ、他の国から来た貴族を要所に配置している。あれは操られていると考えてよい」

「では、戦争の話も?」

「それは知らない。だが、国を使って、なにかをするみたいだ」

「なにかとは?」

「そこまでは知らないな」

「そうですか……。相手の出方待ちですか。不満ですね」

「まあな。だが、現実はそういうものだ」

 僕はため息をついた。

「それより、世界を分断する四隅の結界を壊して欲しい。頼めないか?」

 クンツはいった。

「それは導師に相談しないとなりません。それに遠いんでしょう?」

「ゲートの魔法を使って、その後は歩きだ。一日で着く。往復、二日だな」

「導師にききます。結果は後で連絡します」

「ああ。頼んだ」

 クンツはそういうと手を挙げて去った。

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