第275話 戦争の足音

「となりのカシュゴ王国が兵を集めていると聞いたのですが、心当たりはありますか?」

 僕は騎士団の練習場の移動中に、アドフルとエルトンにきいた。

「いえ。知りません。初耳です」

 エルトンは答えた。

「騎士団にはそんなウワサはありません」

 アドフルも同じ意見のようだ。

 レティシアの情報は早すぎるか、誤報のようだ。

「シオン様はそう聞いたのですか?」

 エルトンはいった。

「ええ。記者からです。ですが、ウワサでしかないです。どこに攻めるのかわからないようですから」

「それは変ですね。どの国でも攻撃したい敵性国家あるはずです。それに、兵を集めるためには建前が必要です。それなのに、兵を集められるのはおかしいです」

「では、ニセ情報かもしれないのですね?」

「ええ。私はそう考えます」

 エルトンでも心当たりがないようだ。

 だが、人族同士の戦争は起きる可能性はある。

 父が勇者の予備だったように、神霊族のコマは他にもあると思うからだ。


 僕は書斎で浮きながら考えていた。

 となりの国が戦争する理由がわからない。しかし、神霊族の干渉を受けた王なら可能だろう。側近を王の意思に従う者で固めればよい。そして、他にも神霊族のコマはいるはずだ。貴族や商人、鍛冶屋と考えたらキリがない。

 そのコマたちが、一国に集まれば戦争はできる。

 僕は神霊族と接触するか考える。

 いつかはしなければならないと思っている。

 コマたちの動きは、僕を殺す方に動いている。しかし、神霊族を探知魔法で捕らえても、相手は僕を見ながら隠れるだけだった。

 殺気も敵意も感じさせない。邪魔じゃまとも思ってないと感じる。

 神霊族の本当の目的を知らなければならない。しかし、方法は一つしか思い浮かばない。

「うーん」

 僕はうなりながら反転して、頭を下にした。

 解決策は思い浮かばない。

 やはり、神霊族と接触するしかないようだ。だが、その前にできることはある。

 クンツ・レギーンの情報網で知っているかきく。

 神霊族とのことはクンツに手紙を出してから考えてもよいだろう。

 そう思うと、僕は浮くのをやめて、デスクに座って手紙を書いた。


「シオン。悪いが手紙の中身を勝手に読んだ」

 朝食の席で導師はいった。

 僕の書いた手紙には封がしていない。ロウで封をする道具がないためだ。なので、封をしないまま執事に預けていた。

「出してはまずい内容ですか?」

「いや。よい。だが、コールの魔法で十分だろう?」

「急がないので、手紙にしました。その間も考えたいので」

「そうか。わかった。私が封をして出してもらう」

「ありがとうございます」

「しかし、隣国が兵を集めてるという情報は聞かなかった。だれがいったんだ?」

「レティシアさんですよ。確定した情報ではないですけど」

「鼻がよいな。私の方はカシュゴ王国に亡命する貴族が多いと聞く。それに、他国から人が集まっているようだ」

「それほど、魅力的な国なのですか?」

「いたって、ふつうだ。よくも悪くない。安定した国だ。だから、亡命先に選ぶ理由が見つからない」

「不自然なのですね?」

「ああ。人が集まる理由がわからない」

「神霊族のコマだったらとしたら?」

「可能性はある。だが、勇者に力を注いでいたはずだ。保険である、おまえの父は強くはなかった。それから考えると、予備はあっても力はないと思う。まあ、集まれば無視できないが」

「導師は神霊族のコマが集まっていると考えているんですか?」

「ああ。龍のブローチを拒んだ国だからな。つけなくても龍の牙からできた一級品だ。物として価値がある。それなのに、拒んだんだ。神霊族と関りがると思う」

「戦争になるんですか?」

「なったとしても、半年は先だな。軍備の拡張は時間がかかる」

「その時はお呼びがかかるんですか?」

 僕は戦略級魔法使いだ。戦争の道具として呼ばれる可能性があった。

「……ないと思いたいな。……まあ、先にいってある。戦争と政治に使うなと。宰相も下手なことをしないと思うぞ」

「なら、よいですが……」

 僕は人族同士に戦争はして欲しくない。それに同じ人族を殺すために、原爆という戦略級魔法を使う気はなかった。


 午前の勉強が終わり、導師に新しい魔法を見てもらうことになった。

 僕と導師は荒野に転移する。そして、探知魔法で周辺を探って安全を確認した。

「さっそく、見せてくれ」

 僕は指先を岩に向けた。

 そして、『レーザー《魔光》』の魔法を使った。

 指の先から一筋の光が走る。

 岩は熱で崩れ穴が開いた。それを横にすべらせる。すると、岩は切れた。

「危険な魔法だな。手加減はできないか?」

「熱を持つ光線です。加減すると熱いとしか感じません」

「ふむ。全力ではどうなる?」

「岩が切れたように、鉄も切れます。その代り、威力は距離に対して反比例します」

「それは、遠くだと威力がないのか?」

「はい。空気中では距離によって弱くなります。水中では特にですね。その代り、光の速さなので敵に当てるのは簡単です」

「使いどころは難しいな」

「戦争では前列を一掃できると思いますよ」

「それだけの威力を出せる魔法使いは少ないだろう」

「そうなんですか? 基準がわかりません」

「まあ、これはこれで、申請する。呪文にして羊皮紙に書いてくれ」

「わかりました」

 新しい魔法の紹介は終わった。

 屋敷に中庭に転移して帰ってくると、導師はいう。

「相変わらず、変わった魔法を作るな」

「そうですか? 前世では知っている人は多いですよ。レーザーといえば、だれでも知っているかと」

「そうなのか? 資料を読み返さないとならないな。おまえの知識は書きためてあるからな」

 導師は僕の前世の情報を持っている。しかし、法則が違うので有効活用はできていないようだ。

「あっ。注意点がありました」

 僕は思い出した。

「ん? なんだ?」

「鏡で反射できるのです。なので、防御は簡単なのです」

「それは問題だな。攻撃魔法として使う方が危険になる」

「はい。そうですね。魔道具として申請した方がいいです。岩を簡単にけずれますから」

「うむ。そうだな。欠点が二つもある。攻撃魔法にするには欠点は大きいな。まあ、魔法として申請して、魔道具に落とし込めばいい」

「はい。羊皮紙には注意点も書きます」

「ああ。そうしてくれ」

 僕と導師はリビングに行った。そして、昼食までお茶をしてすごした。

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