第273話 日常に帰る

 屋敷に帰ると、どっと疲れが出た。

 導師も同じらしい。迎えに出た執事に、気が休まるような甘い飲み物を頼んでいる。

 僕と導師はリビングのソファーに座った。

「なあ、シオン。私たちは魔法使いだよな。なんで、外交を任せられないとならないんだ?」

「理解ある貴族が導師しかいないからでしょう?」

「宮廷魔導士の仕事とは思えないんだ」

「今は龍族の大使ですよ。公爵家としては相応ふさわしいと思いますよ」

「でも、なあ……」

 導師の不満はわかる。僕も同じ気分だからだ。

 宰相みたいにふるまえばよいのだろうけど、僕にはできない。人間力というか経験がとぼしい。どうどうと相手はできなかった。

「シオン。一杯飲んだら秘密の場所に行く。内緒ないしょでノーラにお弁当を作ってもらってくれ。もちろん、お前の分もだ」

「はい」

 僕はノーラにコールの魔法を飛ばす。

 そして、用件を頼んだ。

 その後、僕と導師はお弁当を片手に秘密の海岸に行って寝てすごした。


 落ち着いたので、カリーヌの家に行った。だが、ガーデンルームに行く前にジスランに捕まった。

 競馬場の案件でなく、から揚げの試作品を食べて欲しいようだ。

「から揚げは太りやすい食べ物ですよ。おいしくても気を付けてください」

 僕はそういうも、ジスランはから揚げを勧めてきた。

 僕は一つを食べる。

 なつかしい味がした。

「これってしょう油を使ってませんか?」

「わかるのかい?」

 ジスランは意外そうな顔をした。

「本当にしょう油ですか? しょう油の作り方を教えてください」

 しょう油といって言葉は通じている。しょう油という言葉があるのだから、転生した誰かが作ったと考えられる。

「それは無理だろうね。僕も知らない。それに教えたら商売にならない」

 ジスランが作ったものではないようだ。

「そうですか……。残念です」

「でも、商家を紹介するよ。その商家がよくあつかっている品だからね」

「ありがとうございます。これで、ニンニクしょう油が作れます」

「ん? それはなんだい?」

「から揚げの味付けです。ニンニクをすってしょう油を合わせたタレです。これで下味をつけて揚げるとおいしいです」

「その組み合わせはあったかい?」

 ジスランはメイドにきいた。

「ないと思います。確認してきます」

 メイドは離れて歩いていった。

 台所へ向かったようだ。

「しょう油は身近だったのかい?」

 ジスランにきかれた。

「ええ。調味料として優秀です。新鮮な魚の刺身にしょう油は欠かせません。それに、サラダソースにもできますよ」

「ほう。それは知りたいね」

「では、ノーラに教えます」

「うん。わかった。お菓子で釣ってきくとしよう」

 導師には怒られるが、これが正しいノーラの使い方になった。


 ジスランとは別れて、ガーデンルームに入った。

「よう。謹慎きんしんしていたきいたぞ?」

 アルノルトに声をかけられた。

「ええ。断れない事態になりました。それで、その結果です」

 僕はいつもの席に座った。

「龍族と一緒に有翼族と戦ったのは本当か?」

 エトヴィンはいった。

「ええ。そういう流れで逆らえなかったのです」

「きっかけはなんだ?」

「それは、有翼族が集会場で僕たちの命を狙ったからです」

「それで、龍族が動いたの?」

 カリーヌどころか、みんなはわからないようだ。

「龍族にとって、僕たちは人族の代表みたいなのです。なので、人族の代表の命を狙ったのですから、人族に宣戦布告したのと同じなのです。それで龍族は動きました」

「龍は味方なのよね?」

 レティシアは確認するようにいった。

「はい。敵対はしていません。宰相の尽力もあって、外交も上手くいっています」

「実際の戦争って、どういう感じなの?」

 カリーヌはいった。

「ドラゴンブレスと、帝級以上の魔法のぶつかり合いから始まります。そして、だんだんと距離を詰めて接近戦になるようです」

「人族と有翼族が戦ったら勝てる?」

 レティシアはいった。

「同じ人数なら負けますね。魔法の威力と速さが違います。最低でもドラゴンブレスを使えないと勝負になりません」

「龍族が勝ってよかったんだよな?」

 アルノルトは不安そうに確認してきた。

「ええ。有翼族は人族を動物と同じように思っていますから」

 神霊族と魔神族が関わっているとはいえない。とても、信じてもらえないだろう。神霊族はおとぎ話でしか認識されていないからだ。

「龍族が人族と戦争する確率は?」

 レティシアはいった。

「ありますが、今のところ目指している先は同じと思います」

「その先って?」

 いってよいか考える。だが、人族では真実を知っている者は少ない。下手にいって危機感を与えるのはよくないだろう。

「繁栄です。魔族とのしなくてよい戦争を回避できました」

「魔族との戦争は当たり前ではなかったの?」

「ええ。違います。裏に他の種族が関わっていました」

「それが、有翼族と?」

「はい」

「ふーん。なにか訳ありみたいね」

「僕でも全部教えてもらっていませんから」

「まあ、仕方ないわね。新しい情報があるけどしゅんは逃したわ」

 レティシアはメモを取る手が止まった。

「あまいぞ。戦争の当事者だ。戦争がどんなのかよくわかっているはず。他種族の戦争など誰も知らないぞ」

 アルノルトにしてはするどかった。

「そうね。物語にするなら必要ね。そういうわけで、さっさと話しなさい」

 僕は戦争の話を詳しく話すはめになった。

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