第271話 終戦

 父が簡単に殺されていた。

 それはショックだった。父は殺しても死なないと思っていた。だが、有翼族に簡単に殺された。そして、その姿は、まるで、いけにえのようだった。

 父はふつうには死ねないと思っていた。しかし、はりつけにされた姿は衝撃だった。

 僕は心に穴が開いた感じがした。

 父は敵になったが、母と同じく僕の心には住んでいたようだ。

 まだ満足に動けない時に、僕が笑うと母と共に笑った顔を思いだす。

 ほほに涙が流れたのを感じた。

 僕はあれだけのことがあっても期待していたようだ。

『シオン。側に行けなくてすまない』

 導師がいった。

『いえ。僕の問題です。気にしないでください』

『待て』

 僕たちを運んでいる龍はいった。

 僕と導師を同じ手のひらに乗せた。

『これでいい』

 龍はいった。

『ありがとうございます』

 導師は答えた。

 導師は僕の顔を見ると、手で涙をふいた。

「おまえは子供だ。ガマンしなくていい」

 導師にそういわれると涙が流れた。

 導師はそんな僕を抱きしめてくれた。


 龍族の長老の待つ浮島に帰ってきた。

『すまないね。小さき子にはつらかっただろう?』

 長老はいった。

『いえ。いつかそうなると予感していましたから』

 僕は答えた

『母よ。小さき子を頼む』

『もちろんです。私の子ですから』

 導師は答えた。

『そうだね。今日は帰るとよい。疲れただろう』

『そうさせてもらいます。話は後日で』

『うむ。しっかりお休み。今度は元気な姿を見たいからね』

 長老に送り出されて王都に帰った。


 正門では宰相が待っていた。

「なにがあった?」

 宰相は緊急の連絡を受けて疑っている。

「申し訳ありません。少し休ませてもらえませんか? 戦争をしたので疲れました」

 導師はいった。

「戦争?」

「ええ。龍族と有翼族との戦争です」

「そんな情報はない。どこで起きた?」

「有翼族の領地です。龍族が攻め込みました。今は停戦中です」

「詳しく話せ」

 宰相の質問には答えないとならないようだ。

 導師は宰相の馬車を自宅に向かわせた。

 理由は僕を休ませたかったらしい。

 屋敷に着くと、僕はリビングで待機するようにいわれた。

 導師は疲れているのに、宰相の相手をするようだ。

 ノーラが僕の前のテーブルにカップを置いた。

「はちみつとレモンの飲み物です。落ち着きますよ」

 ノーラはいった。

「それ。教えた時に僕がいったのと同じ」

「そうでしたっけ」

 ノーラは笑ってかわして逃げた。

 カップを持つと熱くはない。だが、心から温まる飲み物を飲んだ。


 戦争の翌日、登城して王に報告をした。

 勝手に戦争したのは悪いみたいだ。王の審判が下るまで、屋敷に謹慎きんしんとなった。なので、今はどこにも行けずに屋敷にいる。

「おい。ヒマだからって新しい料理をポンポン作るな」

 導師に怒られた。

「こんな時でないと、作るヒマがありません」

 僕はいった。

「前向きなのはよいが、少しは心配しろ。王の断りもなく、人族に重要な戦争をしたんだ。怒られても文句はいえないぞ」

「でしたら、審判の前のわずかな時間を楽しみましょう」

「余裕だな」

「僕たちを殺したら、龍族の長老は怒ると思いますよ」

「わかっているのなら、自重じちょうしろ。わが家からもれ出たレシピで、食堂は大変と聞く」

「そうなのですか? でも、ノーラが話すのが悪いと思いますよ」

「ノーラの口はふさげない。それはおまえもわかっているだろう?」

「はい」

「確信犯だな。やめろよ。それより、魔法の方は進んでいるか?」

「長老からもらった本を解読して魔法にしています。それでは、足りないですか?」

「いや、十分だ。おまえのことだから、新しい魔法を作ったと思った」

「簡単なのが、一つあります。ですが、今は見せられませんね。謹慎中ですから」

「そうか。謹慎が明けたら見せてくれ」

「わかりました」


 三日もすると、登城の命令が下りた。

 謁見の間で王には寛大な処置をしてもらった。

 僕と導師はおとがめがなかった

 人族と龍族では力が違う。龍族を敵に回したくないようだ。

 その代り、僕と導師は龍族との大使に任命された。

 導師は不服そうだったが、王の命令では断れなかった。

「まあ、これで宰相に相談なく浮島に行ける」

 帰りの馬車で導師はいった。

「でも、よいのですか? 僕たちに任せて」

「宰相がいても、勝手にやっているんだ。あきらめたと考えられる」

「問題児みたいないいようですね」

「王からしたら、問題児だ。コントロールできていない。頭を痛めている貴族は多いと思うぞ」

「そうですね。龍族には人族のルールは当てはまりません。コントロールするなど無理な話です」

「それでも、しようとする。人族の悪いところだ」

 僕たちはどこに続くかわからないレールに乗った。

 有翼族は降参してして敵ではない。しかし、神霊族と魔神族は敵となった。この二柱と戦わないとならないようだ。だが、結界を解いた後の世界は、誰も予想できなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る